人気ブログ「ニューヨークの遊び方」の著者で、マー ケティング・コンサルタントの「りばてぃ」さん。今回はニューヨークでたくさんのトレンドが生まれる根本的な理由に迫ります。
ニューヨークでは、様々な分野にいる多種多様な人々の間で、常に、いろいろなものが同時多発的に流行している。その理由は何なのだろうか?
人口の大半が日本人によって占められている日本のように、1つのものが世の中の大多数の人々に同じように流行することは、滅多にない。
昔からニューヨークは、「人種のるつぼ」、英語で言うと「メルティング・ポット」と呼ばれている。人々が混じり合っても溶け合わず、それぞれの文化的な個性や特徴がハッキリと残っていることから「サラダボウル」と呼ばれることもある。
いずれにしても、こうした呼び名がつけられた理由は、ニューヨークには、世界中の異なる国々や地域から、多種多様な「文化」、「価値観」、「ライフスタイル」や「宗教」などを持つ、様々な「人種」や「民族」が集まっているからに他ならない。
これは極めて重要な特徴だ。
ニューヨークに住んでいる人々が、どのくらい多様なのか、ニューヨーク在住の日本人を参考にして考えてみよう。
ニューヨークは世界の都市の中でも、比較的、在住する日本人が多い街として知られている。その数、およそ5万3000人ほど(2012年時点、外務省発表*1)。一方、ニューヨーク都市部の全人口は、2360万人ほど。つまり、ニューヨークに住んでいる日本人は、全体のわずか0.2%、100人中一人もいない!?ということになる。
それじゃ、残りの99%以上の人々は、全員アメリカ人かというと、そんなことはない。アメリカ人に加えて、日本同様、世界中から集まった様々な人々によって構成されている。
国連加盟国だけでも、約200カ国(2015年現在193カ国)あるわけで、少なくとも、それだけの国や地域を代表する人々が住んでいると考えていいだろう。
当然、それだけ多種多様な「文化」、「価値観」、「ライフスタイル」や「宗教」などを持つ、様々な「人種」や「民族」が集まっている、ということになる。
そう、ニューヨークでいろいろなものが同時多発的に流行している理由は、この街が「多様性の街」だからだ。
そんなニューヨークでは、何気なく街角で見かけた広告に、「多様性」(Diversity)という単語や、「多様性」を暗示する表現が用いられていることも多い。
例えば、「多様性こそ私たちを結びつけるものです。」(Diversity is what unites us.) *2とか、「一緒になろう。同じじゃなく。」(be together.not the same.)*3 とか、さらには、
「私たちの多様性は最も素晴らしいニューヨークの強さです。
ニューヨーカーのうち誰か一人でも、自分らしくいることや、信じているものや、愛している人々のために攻撃を受ける時、それは私たちすべてに対する犯罪です。
私たちの街、ニューヨークの強さを維持しましょう。
愛を愛して、憎しみを嫌いましょう。」
(Our
DIVERSITY
is our greatest
STRENGTH
When any New Yorker is attacked for who they are, what they believe or whom they
LOVE
it is a crime against all of us.
Keep our City strong.
LOVE LOVE. HATE HATE.)
という長文のコピーが書かれた広告*4も、普通にそのへんの街角で見かける。
「多様性」というコトバが、身近でアピール力がなければ街角の広告のキャッチコピーに使われることはありえない、ということから考えても、ニューヨークで暮らす人々には、それだけ身近な存在ということだ。しかも、ニューヨークは、世界の広告産業の首都とも呼ばれ、多くの場合、優秀なクリエイターの方々がこうした広告を手がけている。
当然、新聞や雑誌などでも、「多様性」をテーマにした記事をよく見かけるし、ごくごく普通に、日常生活の中で「多様性」を感じる機会はいくらでもある。
普通にそのへんを出歩いてみても、様々な服装をした人々に遭遇する。
多種多様な「文化」や「価値観」や「ライフスタイル」によって、いろいろなファッションのスタイルがある。そのバリエーションの幅広さは、日本とは比較にならない。そりゃそうだ。そもそも「人種」や「民族」が異なれば、髪や肌の色も、体型も異なるので、当然、似合う洋服も変わってくるのだ。
気温に対する感覚も、出身地や出身国によって変わるので、まだ寒い春先から、露出度高めの薄着になったり、公園の芝生の上でビキニ姿で日光浴しはじめる人もいれば、真夏に革ジャンを着ている人もいる。
さらに、民族衣装っぽい格好をしている方々や、宗教的な背景から全身黒のスーツ姿の方々、ベールで肌や顔まで隠している女性なども見かけるが、別に、人と違う格好をしているからといって、この街では、そういう方々を気にする人はいない。
むしろ、個性的な格好をしている人ほど「それ、いいね」と、通りすがりの人から笑顔で声をかけられたりもする。
服装だけじゃない。特に、女性の場合は、髪型やメイクについても多種多様。みんな、それぞれ自分に合う、自分らしいスタイルを自由に楽しんでいる。
そんなわけで、ニューヨークでは、ただ街角を歩いているだけでも、「多様性」を垣間見られる機会は多い。まるで「答えは1つじゃないよ」と言われ続けているような感覚になってくる。それは、日本では、まず感じることのない途方もない解放感だ。
次回はニューヨークのトレンドを生み出す一番の理由である「多様性」という環境について、実体験なども含めていくつかの事例をご紹介する。
*1 外務省 海外在留邦人数統計 平成25年(2013年)要約版:
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000017472.pdf
(平成26年(2014年)以降は別途、政府刊行物として出版されるようになりデータが不明)
*2 著者ブログ記事 http://nyliberty.exblog.jp/10161629/
*3 著者ブログ記事 http://nyliberty.exblog.jp/24200266/
*4 著者ブログ記事 http://nyliberty.exblog.jp/14684888/
ニューヨーク在住の日本人マーケティング・コンサルタントが語る「日本のビジネスに本当に必要なこと」
2004年から10年以上、ニューヨーク情報に特化したブログを書き続けてきた筆者が、「多様性の街」、ニューヨークの魅力や特徴を語り尽くす。グローバル時代を生きる日本人のための、ビジネスに役立つニューヨークのトレンド情報が詰まった連載。特に、海外事業担当者やマーケティング担当者は必読。