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ショッピングモールから考える

2016.02.18 公開 ポスト

第3回

外部と内部が転倒したディズニーランドのモール性東浩紀/大山顕

「なぜ、ショッピングモール「から」考えるのか? それは、現代の先進国では、都市空間の多くが、ショッピングモールをモデルに設計されているから」と『ショッピングモールから考える』の「あとがき」で書かれた東浩紀さん。第3回は、建築の「内と外」について、そして、ショッピングモールの「ユートピア性」について、ディズニーランドを素材に考えます。第2章「内と外が逆転した新たなユートピア」からの抜粋です。

トマス・モア「ユートピア」そのもののディズニーランド

大山 今日話したかったテーマのひとつに「窓」があります。たとえば、住宅における窓は、建築的には条件が多く、なかなかデザインしにくいものです。採光性が高くなければならないし、通風についても考えなければならない。その一方でプライバシーも守る必要がある。というように相反する課題を負わされている。それに対して、オフィスのビルはもうちょっと自由度が高い。まず、窓は通風の役割を持たない。大きなビルだと空調が効いているので、換気のために窓を開けるということはないですよね。

このように窓にもいろいろあるのだけれど、ではショッピングモールの窓はどうかと見てみると、ある種の究極系なのではないかと思うんです。ショッピングモールには窓がない。平面図を見てみると、店の倉庫などが外壁側に置かれているので、お客さんがモールの内側で窓を見ることはない。これは住宅の間取りからするとまったく逆で、押し入れを窓際に持ってくるなんてことはありえないですよね。まさに、内と外が逆転している。

 単一の建築ではないですが、ディズニーランドも同じ構造を持っていますね。航空写真を見れば一目瞭然ですが、内部こそがファサードになっていて、バックヤード、つまり倉庫や事務所や駐車場が外部を覆っている。そう考えると、この形態はある種の普遍性を帯びているのかもしれない。

[図版6]トマス・モア『ユートピア』初版に掲載された挿絵

大山 まさにそうなんです。今日のタイトルには「ユートピア」とありますが、周辺環境に対して関心を払わず、内部をつくり込んで理想的な街を内部に抱えるというあり方は、まさにトマス・モアの『ユートピア』そのものではないかと。実際に原典を読まれた方は少ないと思いますが、この小説に登場するユートピア島は、もともと大陸の一部だったものを切り離して島にして、さらにそのなかに浮島をつくっている。中庭ですね。これはあまりにもショッピングモールの構造と一致している。理想的な海や島は、島の内部に再現してしまうわけです。ディズニーランドやディズニーシーも連想させられます。

 うーん。これは深い話ですね。トマス・モアが描いた理想郷の空間感覚が、四〇〇年以上の時間を経て、いまテーマパークやショッピングモールとして復活しているのだと。そもそも、速水健朗さんの『都市と消費とディズニーの夢』にも書かれているように、ディズニーはもともと理想都市を計画していて、その着想が転用されてできたのがディズニーランドです。

じつはぼくはこの夏、休暇にィズニーワールドを訪問する予定で、いまいろいろと調べています。ディズニーワールドのアニマルキングダムにはサバンナが再現されていて、キリンやシマウマが飼われている。ホテルに泊まると、部屋から動物たちが見えるらしい。これなんてまさに外部を内部に取り込んでいる好例で、本来であればアフリカに旅行をして見るべき景色なのに、ディズニーはアフリカを丸ごとこちらに持ってきてしまう。外部を内部化しているわけです。

そういえば、ディズニーランドには「イッツ・ア・スモールワールド」というライドがありますが、あれはまさにディズニーの思想を体現していますね。世界全体がアトラクションのなかに収まっている。外部と内部の関係が転倒している。

大山 ディズニーランドでも、たとえば「ホーンテッドマンション」は館のなかに入って、そのなかで物語を見せられるという自然なスタイルですね。でも「イッツ・ア・スモールワールド」は、なかに世界そのものがある。世界を見に行こうというときに、建物のなかに入ってライドに乗り込むというのは、考えてみると奇妙です。「カリブの海賊」などもそうですね。建物のなかに入ると、そこに世界が広がっている。遊園地なんてどこもそうだと思ってあまり気にしていませんでしたが、たしかにこれはディズニーランドに顕著ですね。そもそもディズニーランドは全体が入れ子状になっていて、なかに入ると外界が見えないようになっています。そのなかにさらにスモールワールドがある。

 ジェットコースターも変わっていますよね。ふつうジェットコースターというと、高さを強調するために外の風景を利用するのだけれど、「スペース・マウンテン」なんて完全に屋内です。

大山 「スペース・マウンテン」は究極系ですね。なかに宇宙を持ってきてしまっている。

ディズニーランドについては、友人の石川初さんから面白い話を聞いて、それからすごく興味を持つようになりました。ディズニーランドは植栽が面白いんです。彼は専門家なので、二重三重におかしなことになっているのがよくわかるという。たとえば「ジャングルクルーズ」で、ディズニーの映画のなかに出てくるジャングルを再現しようとする。原作アニメのジャングルは現実を反映していないので、イメージで適当に書かれてしまっている。しかしそれを現実化しなければならない。しかも造花ではダメで、本物の植物でなくてはならない。

しかし、フロリダのディズニーワールドならば簡単なのかもしれないけれど、こちらは浦安です。冬になっても枯れず、一年中青々として、潮風に強いジャングルをつくらなければならない。そのためにいろいろ試行錯誤して、結局いま、「ジャングルクルーズ」のジャングルに生えているのはビワだそうです。

 ビワ! それはわからない。

大山 もちろん実がなるとわかってしまうので、必死で手を入れているらしい。さらに、潮風にやられないように、隠れたところにスプリンクラーがたくさんあって、定期的に水で洗い流している。物語のなかの植栽世界を実現するために、水面下では超必死な取り組みがなされているというわけです。こういう例が積み重なって、日本における植栽技術は、ディズニーランドで飛躍的に進化したと言われているそうです。
モールのなかの植物というのも重要ですよね。でも日も当たらないところで、いい感じの植物を並べなければならない。それを実現しているのは、実はディズニーで育まれた技術だというわけです。

 前回もモール独特の生態系の話をされていましたね。面白い。

大山 それもあってか、ディズニーランドでは植栽チームがすごく偉いらしい。以前、ディズニーランドでパレードの企画にかかわっていたひとに話を聞いたのですが、彼が転職してきて、こういうパレードでやぐらをつくろう、こういう高さにしようと計画を立てていたのだけれど、どうしても植えてある木にぶつかってしまう。そこで植栽チームにその木を切ってくれと頼んだら「お前、だれに向かって口を利いているんだ」とすごく怒られたという(笑)。アメリカ本国から、「この位置から見たときに映画と同じように見えるようにつくれ」と指示されてやっているのに、パレードごときのために切れだなどと、なんて身のほど知らずなのだと。
 

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

大山顕

一九七二年埼玉県生まれ。フォトグラファー、ライター。千葉大学工学部修士課程修了。松下電器産業(現・パナソニック)シンクタンク部門に十年間勤務後、独立してフリーに。「工場萌え」「土木萌え」などの火付け役として知られる。土木構造物の撮影を中心に、イベント・ツアー企画なども行う。著書に、二〇〇七年『工場萌え』(東京書籍)、『ジャンクション』(メディアファクトリー)、二〇〇八年『団地の見究』(東京書籍)、二〇〇九年『高架下建築』(洋泉社)など。

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