五十嵐貴久さんの新刊『気仙沼ミラクルガール』(3月1日刊行)は、2011年の秋、気仙沼に誕生したアイドルグループをめぐる実話をもとにした小説です。五十嵐さんより、この作品に込めた思いや、実話を物語にするにあたっての苦労など、語っていただきました。
この物語に登場するアイドルグループ「KJH」は、気仙沼に実在する「SCK GIRLS」がモデルなんです。彼女たちは、「震災から立ち上がり、地元気仙沼に活気と元気を取り戻そう」と、東日本大震災の後に結成されたグループです。2013に、震災を扱ったノンフィクション番組で彼女たちの存在を知り、小説にしたい、と思いました。実は、作家として、やはり東日本大震災というのは、ずっとひっかかっていて。何か、自分なりに表現するべきではないか、と考え続けていました。でも、答えがなかなか見つからなかった。そんなときに知ったのが「SCK」なんです。
それで、気仙沼に行き、彼女たちのステージを見せてもらい、メンバーの何人かと、プロデューサーに当たる男性に話を聞きました。そうしたら、こんなすごいドラマ、物語があったのか、と正直驚きました。ちょっとドラマチックすぎるくらいで。実話をもとにして小説を書くのは初めてなのですが、事実が面白すぎて、それをいかに「小説」として造り上げるかが、悩みの種でした。物語の大筋は事実を踏襲して、小説としてどこを「逸脱」して面白くするかが、ポイントかと思うのですが、今回、実はある事情があって、最初に「気仙沼にアイドルグループを立ち上げる!」と声を上げた男性にはお会いできていません。このグループは、彼のちょっと乱暴すぎるくらいの強引なリーダーシップがあって、できあがった。ある意味、彼が「奇跡」を起こした。そんな彼のキャラクターをどこまで破天荒に、面白く魅力的に造り上げるかは、僕のさじ加減だと思っています。小説としたら「出来過ぎ」のような実話なだけに、それをフィクションとして、いかに読者に物語の世界に入ってもらうかは、彼のキャラクターにかかっているのかな、と。
気仙沼の商店街の一角でやっている彼女たちのレッスンを見学させてもらったんですが、近所のお店のおばちゃんや、工事のおじさんたちが、通りすがりに見てるんです。地元の人たちも、彼女たちがいろいろやってるのを応援してる。小さなことでも誰かが何かやろうとしていたら、みんな応援するんじゃないかな。ちょっと元気のない地方でも、行動しようとする人がいたら、きっと盛り上がる、そして少し元気になる。そんなことが、この小説から伝わったらいいなと願っています。