3/15(火)緊急発売!!『巨人への遺言 ~プロ野球 生き残りの道』(広岡達朗著)からの試し読み第4回。再びの巨人・賭博事件に揺れながらも、3/25(金)の開幕を控えるプロ野球界。他にも様々な問題を抱える日本野球界に、広岡氏の愛のムチが飛ぶ―――。
2015年のセ・リーグは、ヤクルトの14年ぶりの優勝で幕を下ろした。前年まで2年連続最下位のツバメが一気に頂点まで舞い上がったのは、元ヤクルト監督の私としても嬉しい限りだ。しかもCSで巨人を蹴落として10年間続いた原・巨人に引導を渡したのだから、セ界の新しい時代を開いた功績は大きい。
ヤクルトの優勝には、さまざまな記録と話題がついている。真中満が監督就任1年目の快挙だったこと。ホームラン王・山田哲人、首位打者・川端慎吾、打点王・畠山和洋が史上初の同一チーム打撃3冠を独占した。しかも山田は、3割・30本・30盗塁のトリプルスリーまでやってのけた。
チーム打率が・257でリーグトップだったのに比べると、チーム投手成績は防御率3・31でリーグ4位だったが、41セーブで最多セーブのタイトルをとったバーネットの球威と安定感はみごとだった。
このほかの勝因はスポーツ新聞が書き立てた通りだが、私が最大の勝因に挙げたいのは、あのバレンティンである。
バレンティンは米大リーグのマリナーズ、レッズをへて2011年(平成23年)にヤクルトに入った。その年から3年間、セ・リーグのホームラン王を続け、なかでも2013年には、王が持っていた年間55本の日本記録を破って60本の大記録を打ち立てた。
彼は4年目の2014年もホームラン31本、打率・301の数字を残したが、この間のヤクルトの成績は、バレンティンの1年目こそ2位だったものの、その後2014年までの3年間は3位、6位、6位と急降下している。
そして左アキレス腱痛でシーズンを棒に振った2015年は、チームが14年ぶりのセ・リーグ優勝を勝ち取った。このバレンティンの足跡とヤクルトの戦績を振り返って、私は一つの相関関係に気づいた。つまりヤクルトナインは、アメリカからやってきたホームランバッターがあまりにポンポン飛ばすので、すっかり頼り切っていたが、その大砲がいなくなった2015年は「大変だ。俺たちみんなで頑張らなくちゃ」とやっと目が覚め、団結したというわけだ。目覚めた若い選手たちの成長で、ヤクルトは大砲バレンティンがいなくても優勝できた。
バレンティンは2014年10月、アメリカの病院で左膝の手術を受けた。翌2015年は1軍初スタメンの4月24日に左大腿直筋の肉離れで登録抹消。その後、治療のためアメリカに帰国し、優勝争いが激しくなった9月18日の巨人戦から戦列に復帰した。だが、練習不足を露呈して最終打率は・186、ホームラン1本。日本シリーズでも打率・176でホームランは1本もなかった。
CSや日本シリーズのバレンティンはフォームがバラバラで悪球に手を出し、日本一のソフトバンク投手陣にキリキリ舞いした。前年来の左アキレス腱痛が治っていないらしく、バッティングの基本である左足の踏ん張りがきかないのでは、売り物のホームランどころか、まともなヒットすら打てるはずがない。
バレンティンはほとんど1シーズン、アメリカで何をしていたのか。本当に足の治療をしていたのかといいたい。
外国人選手は故障すると治療のため帰国するが、私にいわせればアメリカでの治療を許す球団が間違っている。たとえば大リーグの日本人選手がシーズン中に故障で戦列を離れると、球団は帰国を許さず、暖かいキャンプ地やマイナーリーグでコーチやトレーナーがついてリハビリさせる。高額の年俸を払った球団の財産だから、常に目を離さないのは当然である。
ところが日本では、故障した選手が「治療のためアメリカに帰りたい」といえば「どうぞ、どうぞ」と許してしまう。自分に甘い選手が、誰も見ていない母国では苦しい治療やリハビリに手を抜くのは当然で、大事な財産を野放しにする球団が無責任だ。そんなケガ人を使い続けたヤクルトが、強すぎるソフトバンクに完敗したのは当然である。