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日本の歴史はエロだらけ

2016.04.13 公開 ポスト

セックスの経験人数は女の誇り下川耿史

古来、日本人は性をおおらかに楽しんできました。歴史をひもとけば、国が生まれたのは神様の性交の結果で(そしてそれは後背位でした)、奈良時代の女帝は秘具を詰まらせて崩御。豊臣秀吉が遊郭を作り、日露戦争では官製エロ写真が配られていたのです。――幻冬舎新書『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』(下川耿史・著)では、歴史を彩るこうしたHな話を丹念に蒐集し、性の通史としていたって真面目に論じてゆきます。

今回は第3章「エロが昂じる王朝文化 平安時代」より、第5話「性の奇祭の大流行」の一部を試し読みとしてお楽しみください。男との経験人数が多い女ほどスター扱いされる、そういう時代が日本にあったのです!

第5話 性の奇祭の大流行

エロ満載、天下の五奇祭

奈良時代以前からこの国の基盤を形成していたさまざまな性風俗は、国家が整備されるにつれて、国の繁栄を寿ぐセレモニーへと変質した。男女が歌を交わしながら性関係にいたる歌垣は、踏歌かと呼ばれてエロティシズムとは無縁の皇室行事になったし、田植えも豊作祈願と称して男女の性交の姿を演じたり、場所によっては豊作祈願を口実に、実際に性関係を結ぶケースが見られたが、皇室行事として定着した結果、御田(おた、またはおみた)祭りという色っぽさの削がれたイベントになった。

しかし、「エロ」抜きの祭りが国家の行事として定着する一方、庶民の間にはあらたなエロの祭りを創ろうとする動きも活発になった。『八雲御抄』は順徳天皇の著書で、鎌倉時代の1200年頃に成立したものだが、そこに「天下の五奇祭」として挙げられた祭りは、いずれも平安時代に生まれた新しい性の奇祭であった。

 

五奇祭とは「江州筑摩社の鍋被り祭り、越中鵜坂社の尻叩き祭り、常陸鹿島神宮の常陸帯、京都・大原の江文社の雑魚寝、そして奥州の錦木」の5つを指す。この中でも前に挙げた3つは平安時代の時代風潮を祭りという形で具現化した証しであった。

江州筑摩社とは現在の滋賀県米原市朝妻にある筑摩神社で、鍋被り祭りは土地の女性が1年間に関係した男の数だけの鍋をかぶって参拝するという祭りである。平安時代の初期に始まったといわれ、『伊勢物語』にも、

「近江なる筑摩の祭りとくせなむつれなき人の鍋の数見む」

(近江で行われる筑摩の祭りを早くやって欲しいものだ。私につれなくした女性がかぶった鍋の数を見たい)

という歌が見えている。沢山の男性と関係した女性が数をごまかすと神罰が下るとされたが、実際には過少申告する女性はいなかったらしい。それというのもこの地は交通の往来が激しく、朝廷の御厩も置かれていた。御厩とは皇室や公家が旅行する際、馬や牛車などの世話をする役所である。そういう繁華な土地だけに歌垣なども盛んだったらしく、沢山の男性とセックスすることは恥ではなく、女性の誇りであったからである。

経験した男の数は女の勲章

同じことは越中鵜坂社の尻叩き祭り、常陸鹿島神宮の常陸帯にもいうことができる。鵜坂社は現在の富山市にある鵜坂神社のことで、平安時代後期の歌人として知られる源俊頼は、この祭りについて、

「鵜坂祭りの夜は榊にて女の男したる数にしたがひてうつなり」

と記している。つまり筑摩神社の鍋の代わりに男と関係した数だけ榊の枝で尻を打たれるというのである。ここにも中世には御厩が置かれており、歌垣も盛んだったと思われる。そこで多くの男を経験することは、当時の女性にとって勲章だった。女性たちはそれを告白することによって祭りのスターとなったのである。

これに対して鹿島神宮の常陸帯は、やや趣きが違っている。この地方では『常陸国風土記』の時代から歌垣が盛んだったせいか、平安時代には沢山の男を知っていることが、さほど目立ったことではないとされた。常陸帯の「神事」はそういう土地柄を背景にしたもので、多数の男と関係した女性が、「今夜はどの男にしようか」と迷った場合、帯(紙の短冊)に男の名前を書き付けて神前に供えると、1枚だけが裏返る。その男を選びなさいというのである。

ただし、そういう形の祭りは長くは続かなかったらしい。いつの頃からか、多くの男と関係し、夫婦になることを求められた女が、どの男と結婚するか迷った時、帯に名前を書けば、「これは」と思う男性の帯だけが裏返るということになった。さらに『東海道四谷怪談』で知られる鶴屋南北が1813(文化10)年に発表した『戻橋背御摂』の中に、次のようなセリフがある。

「常陸帯の神事にて、暗がりながら拝殿の、帯にて縁を結ぶの神。引き合はせには、その夜の雑魚寝」

この文句からすると、江戸時代の後期には雑魚寝で相手の女性を決めるための手続きとか、くじと見られていたようだ。いずれにしろ、これらの奇祭が平安時代の女性たちの「自己実現」と見なされていたことは確かであった。遊女になることが理知的な女性のキャリアアップなら、これらの祭りは地方の女性が性のアイデンティティーを確認する機会だったといえるかも知れない。

関連書籍

下川耿史『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』

日本の歴史にはエロが溢れている。国が生まれたのは神様の性交の結果で(そしてそれは後背位だった)、 奈良時代の女帝は秘具を詰まらせて亡くなった。 豊臣秀吉が遊郭を作り、日露戦争では官製エロ写真が配られた。 ――本書ではこの国の歴史を彩るHな話を丹念に蒐集し、性の通史としていたって真面目に論じてゆく。 「鳥居は女の大股開き」「秘具の通販は江戸時代からあった」など驚きの説が明かされ、 性を謳歌し続けてきたニッポン民族の本質が丸裸になる!

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日本の歴史はエロだらけ

乱交、夜這い、混浴、春画、秘具……。イザナギの時代から昭和ごろまで、日本の歴史に散らばるHなエピソードを蒐集した新書『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』(下川耿史・著)。ここでは内容の紹介や無料での試し読みをお届けします。

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下川耿史

1942年、福岡県生まれ。著述家、風俗史家。著書に『日本残酷写真史』『盆踊り 乱交の民俗学』(ともに作品社)、『混浴と日本史』、林宏樹との共著『遊郭をみる』(ともに筑摩書房)、『死体と戦争』『日本エロ写真史』(ともにちくま文庫)、編著に『性風俗史年表(明治編/大正・昭和戦前編/昭和戦後編)』(河出書房新社)ほか多数。

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