旅先での忘れられない出会いは、人や食事や建築、大自然などたくさんあります。それは、有名なものばかりではなく、ふと偶然出くわしたような建物が実は地元に愛される建築家の建てたものだったり、何百年と伝承される料理だったり。写真というのは不思議で、見るだけでその時の状況や情景が思い浮かびます。まるで、ふたたび、旅に出たよう。
これが、私の旅なのです。
no.1
チュニジア南部のサハラ砂漠の中央ティンヴァインという場所のテントホテルに泊まったときに食べたパン。砂漠は朝晩とても冷え込みます。そこでテントホテルのスタッフが寒い中布を体に巻きながら火をおこし、パンを作るといって小麦粉と水を一緒にこねて、大きな煎餅型にしてから両面サハラの砂をつけて火の中へ入れて焼きました。小麦粉のように細やかで繊細な砂は口に入れても心地よいくらいで、忘れられないのはその味です。カリッとしてふわっとする食感と芳ばしい香りは大自然の恵みそのもの。暗黒の夜空を穿つ無数の明るい星たちを眺めながら、「これまで食べた一番美味しい食事は、サハラの砂のついたこのパンだ」と実感したものです。そして、今もなお、一番美味しいと思う食事です。
no.2
チュニジアの家庭料理クスクスです。チュニジア人の家庭に1ヶ月ほど滞在していたときに教えてもらったシンプルな味付けのクスクスは、これまで外で食べたことのある味とは違います。家庭料理というのはどうしてこんなに美味しいのでしょうか。旅先では外食ばかりですが、こうして家庭のぬくもりを味わいながら旅を続けてきたのだと思います。クスクス作りは、チュニジアで自分用の鍋まで買って自炊していたほどハマっていました。
no.3
ブラジルのサンパウロにあるメルカドン(市場)の中のHocca Barで食べたモルタデッラのハンバーガー。これまで数々のハンバーガーを食べてきましたが、正直群を抜いてジューシーでパンチ力があり、病み付きになる味。
モルタデッラというハムのようにスライスされたソーセージを幾重にも重ねあわせ、ミルクレープのようになったモルタデッラにチーズをのせ、パンに挟む。さらに特製のピリ辛秘伝のソースは芥子マヨネーズのような、でもちょっと違う。滞在中何度か足を運んでしまいました。地元の人のお墨付きです。
No.4
アルゼンチンの肉の美味しさは世界的にも有名ですが、シチュエーションとともに美味しいステーキをいただいて恍惚としたのが、世界で最も美しい本屋さんのひとつとされるEL ATENEOの舞台カフェでいただくステーキでした。肉はやわらかく、味付けもシンプルなので素材の味をしっかり堪能できます。美しい書店の中で読書ではなくて肉をむさぼる。なんだか滑稽ですが、忘れられない食事です。
No.5
美食の国スペインのバルセロナのタパス屋さんvaso de oroは、牛肉の上にフォアグラを載せて食べるという絶品です。カジュアルなタパス屋さんで、これほど美味しい料理を立ち食いするのが粋ですね。美味しいご飯と気さくな店員、そして横にいる知らないバルセロナの人たちに「どこから来たの?」と聞かれ、会話が生まれる。幸福な食事です。
・・・
好評発売中!
『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』
仕事を辞めて日本を飛び出し5年。世界50カ国を旅し、数々の人間ドラマを目の当たりにしてきた小林さん。色々な国の人達との些細な、でも忘れられない出会いのストーリー22編を掲載しています。小林さんと一緒に笑ったり泣いたりしながら、「この世界もなかなか捨てたもんじゃないな」「人と人との関わりって、温かいんだな」と思える一冊です。旅の一瞬を切り取った美しい写真もオールカラーで掲載しています。
《目次》
・サムライ好きな切腹上等のキューバのおじさんの教え
・恋愛事情の厳しいチュニジアでムスリム女子とガールズトーク
・亡き妻の保険金でフランスを旅する夫
・失踪した息子を探すために寄付金をスリランカで募る父親
・停電や地震があってもハイチで暮らし続ける日本人女性 ほか
2016年3月17日発売、定価(1200円+税)
特設ページ
幻冬舎で刊行する書籍の特設ページです。
著者からのメッセージや、あらすじ・イラストなど、書籍をもっと楽しむための情報満載です。