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実録ノンフィクション漫談 全国なにコラ珍百景

2016.04.07 公開 ポスト

宮城県・石巻市

被災地でボランティア体験をした話コラアゲンはいごうまん

 これは、2011年3月に起こった東日本大震災の一ヶ月後、まだ余震が頻発し、日本中が混乱のただ中にあった頃のお話です。

 震災から約一ヶ月後。僕はボランティアとして参加するために、ワハハ本舗の後輩芸人・チェリー吉武と一緒に、宮城県の石巻にいました。

 チェリー吉武をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。当時は僕を兄さん、兄さんと言って慕ってくれる可愛い後輩だったのですが、現在は、お笑いコンビ・たんぽぽの白鳥久美子さんとの交際をきっかけに、今や僕より遥かに有名人になってしまいました。

 彼は「ギネス芸人」としても頑張っておりまして、現在21個のギネス記録を持っています。その一つは、「30秒間で、お尻で胡桃を48個割ることができる」という記録でして……なんて、くだらない。

 性格はすこぶるいい奴なんですが、頭の作りがちょっと残念な男なんです。

 ある時、喰始社長が、

「今度の月曜日、予定空いてますか?」

 と訊ねると、彼は真顔でこう返したんです。

「月曜日ですか? ――月曜日って何曜日ですか?」

 すると、僕たちには朝まで鬼のダメ出しをするあの喰始社長が、まるで幼児を諭すようにこう言いました。

「月曜日は……月曜日ですよ」

 喰さんのあんな穏やかな顔を見たのは、あれが最初で最後です。

 それだけじゃありません。5年前に、僕が「人志松本のすべらない話」に、大抜擢していただいたときのことです。生まれて初めての大舞台。楽屋で極度の緊張に襲われていた僕に、彼は優しく、こう声を掛けてくれました。

「兄さん。自分をわきまえてください」

「そこは、自分を信じてくださいって言うべきところやろッ!」

 結果的に緊張が和らいだのはたしかなんですが……チェリー吉武、僕より芸歴18年下の、愛すべき後輩なんです。

 さて、ボランティアで訪れた石巻で僕たちを待っていたのは、「泥出し」という作業でした。

 テレビでは連日、有名人が避難所に赴き、被災者の皆さんを励ます姿が報じられていました。僕も、毎年、全国ツアーで東北の人々にはお世話になっています。

 しかし残念なことに、僕とチェリー吉武には、訪れるだけで被災者の皆さんを喜ばせるようなネームバリューはありません。ならば、一市民として、肉体労働のボランティアをしよう。そう思ったのです。

 僕達に割り振られたのは、佐々木さんと大島さんという二軒の家でした。

 津波に耐え、幸いにも流されずに済んだお家ですが、家の中は、粘土のような土砂が膝あたりまで、びっしりと埋まっていました。

 泥出しが、体力的にキツイのは、来る前から覚悟していました。でも、実際作業をしてみると、体力はもちろんですが、それ以上に、心が痛む作業なんです。

 土足のまま部屋に上がり、積もった泥を、スコップで掻き出していきます。すると、かつての生活が偲ばれる、様々な品が出てきます。

 泥まみれで皺くちゃになった、家族の写真、お子さんが小さい頃の写真なんかも、続々と出てきます。そういう貴重な品が出てきたら、もちろんその処遇をご家族に相談しなければなりません。

「この写真どうします? 洗って残しますか? それとも処分しますか?」

「捨てて下さい」

 泥だらけの服も出てきます。

「処分してください」

 地デジ対応のために買い替えだばかりの、大型液晶テレビも出てきます。

「もう、いいです……捨てて下さい」

 かわいそうなんて言葉では、とても表現できません。

 泥にまみれて使い物にならないのはわかっています。処遇を確認することで、感情を逆なでしているのではないか。そう思っても、持ち主の確認をせずに、僕達が勝手に処分することはできないのです。

 そんな状況で……脳ミソが筋肉でできているチェリー吉武くん。

 中身のテープが飛び出してデロンデロンになっている泥だらけのカセットテープを、佐々木さんの奥さんの前に差し出しました。

「これ、どうします?」

 処分するときは確認しなくてはいけないと、彼なりに理解はしているようで、悪気はないんです。でも、もうこのカセットテープが使い物にならないのは、誰の目にも明らかなのに、しつこく聞くんです。

「このカセットテープ、洗ってもう一回聞きます?」

 たったこの一言で、佐々木さんは、チェリー吉武をアホやと見抜きました。

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コラアゲンはいごうまん

1969年9月29日、京都府生まれ。演出家から出される様々なテーマ〈宗教/宇宙/インド/刺青/家庭教師etc…〉に、たった一人で挑み、調査し、体験した出会いやエピソードをベタな大阪漫談スタイルで講話する、ノンフィクションスタンドアップコメディアン。実話だから説得力のある体験談の壮絶さで、観客に爆笑と感動を与える。毎年行っている全国行脚ライブ「僕の細道」ツアーでは、限られた時間で必死にその土地を取材し、ライブで語り、各地で好評を得ている。

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