パナマ文書の流出によりにわかに注目を集めるタックスヘイヴン。先ごろ文庫化された『タックスヘイヴン』はまさにそれをテーマにした金融小説。さらにそれに先立って刊行されている『マネーロンダリング』と『永遠の旅行者』も、タックスヘイヴンがキーとなるベストセラーです。
今回は著者の橘玲さん自らに、“タックスヘイヴン三部作”から見るパナマ文書問題の要点についてご寄稿いただきました。
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中米のタックスヘイヴン、パナマの大手法律事務所から大量の秘密情報が流出したパナマ文書問題が波紋を広げている。ロシアのプーチン大統領に近い関係者、中国の習近平国家主席の親族、イギリスのキャメロン首相の亡父、アルゼンチン大統領やパキスタン首相からサッカー選手リオネル・メッシまで、多数の政治家・有名人がタックスヘイヴンに会社を設立して資産隠しをしていた疑いが生じたからだ。
タックスヘイヴンでは金融資産から得た利子や配当、譲渡益が非課税なうえに、海外(域外)の所得に対しては法人税が課されない。この特権を利用して香港やシンガポール、ケイマンやBVI(ブリティッシュ・ヴァージン・アイランズ)などカリブ海のタックスヘイヴンに法人を設立し、商取引などを装って国内資産を移転するのが租税回避の基本スキームだ。
『マネーロンダリング』では、香港で資産運用コンサルタントをしている工藤秋生が、麗子という顧客のためにBVIにオフショア法人を設立する。婚約者の会社の利益5億円を海外に隠したいとの依頼だったが、実際に送金されたのは50億円で、それはヤクザの資金だった。こうして秋生は深刻なトラブルに巻き込まれていく。
『永遠の旅行者』では元弁護士の真鍋恭一が、麻生という老人から「20億円の資産を、1円の税金も払わずに孫に相続させたい」という奇妙な依頼を受ける。麻生はこころを病んだ孫のまゆを「天使」と呼んでいた。恭一が二人のために考えたのは、オフショアに法人を設立し、債権と債務を相殺することで合法的に相続税を払わないスキームだった。
『タックスヘイヴン』では、大手プライベートバンクを辞めて金融コンサルタントをしている古波蔵佑に、高校時代の同級生、牧島慧から10年ぶりに電話がかかってくる。二人の共通の友人である紫帆の夫がシンガポールの高層ホテルから墜落死し、スイスのプライベートバンクに1000万ドルの負債があることがわかったのだという。古波蔵が巻き込まれたのはタックスヘイヴンにファンドを設立し、プライベートバンクを通じて原発輸出に投資させ、巨額の政治資金を捻出しようとする陰謀だった。
タックスヘイヴンに資産を移転するときは、本人の特定が容易な個人名義よりも、より匿名性の高い法人、信託、ファンドが使われることが多い。OECDの規制は個人名義の口座の情報交換が主で、これまで法人名義の取引には規制が及ばなかった。パナマ文書によってタックスヘイヴンの法人の情報開示が進むことになれば、その衝撃ははかりしれないだろう。
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