技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。
そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った『働き方は生き方 派遣技術者という選択』の著者、渋谷和宏氏と、6130億円※の 市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いま モノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。
※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)
(第1回はこちら→ 日本のモノづくりの現場で、いま何が起きているか?)
■企業のR&D(研究開発)投資は競争力の源泉。多少の不況では削られない
渋谷 前回は、派遣技術者の活躍が求められる場がますます広がるだろうというお話でしたね。
佐藤 その続きになりますが、日本のR&D(研究開発)投資は、過去35年間で2回しか減ったことがありません。90年代のバブル崩壊と2008年のリーマンショックの時だけです。研究開発は競争力の源泉ですから、多少の不況でも基本的には削りません。現在市場で販売されている商品を生産するのとは違い、次代の商品開発に携わることが多い技術者派遣はこの研究開発費と相関性があり、非常に安定していると言えます。
渋谷 技術開発のプロジェクトが何年間も続くことも関係していそうですね。
佐藤 そうです。プロジェクトが継続している間は、途中で増員や減員をすることはあっても、基本的には同じ派遣技術者が対応します。ちなみに、現在、当社には毎月1300件ほどの技術者派遣の要請がありますが、条件を満たすエンジニアを確保できるのは、その3割程度です。
渋谷 それだけ派遣技術者が必要とされているのですね。
佐藤 もちろん厳しい経営環境に直面する企業としては、人件費を固定費ではなく変動費にしておきたいという事情もあるでしょう。しかしもちろんそれだけではない。実際、当社に新卒で入って、ある会社に派遣され、ずっとそこで働き、リーダーになっている人もいます。派遣契約が終了しても技術がオブソリート(陳腐化)することはないので、その技術を活かして他の会社で働くことができます。
渋谷 この本にも書きましたが、企業によっては10年以上同じ派遣技術者の方が働き、職場のリーダーになっているケースも少なくないですよね。
派遣技術者が必要とされる背景には、ここ10~20年で製品の開発期間がどんどん短縮化していることも関係していると思います。どんどんモデルチェンジし、新しい技術にキャッチアップし続けなければ、競争から脱落してしまいます。だから、派遣技術者の力が不可欠になる。
佐藤 確かに派遣技術者に活躍してもらうことで、技術だけでなく、時間を買っているという側面もありますね。そのためにも、エンジニアが業界をまたがって活躍できる環境を作ることが重要だと考えています。
■派遣技術者が「働き方」の選択肢に位置づけられる世の中であるべき
佐藤 話は変わりますが、厚生労働省の統計によると派遣技術者は約20万人いるとされ、技術者派遣の会社は2万社程度あるとされます。
改正労働者派遣法では、労働者派遣事業を全て許可制にし、悪質な会社を排除するとともに、派遣終了後も雇用の継続に努めるなど雇用安定のための措置や、教育研修を義務づけています。今後は派遣ビジネスがしっかりとした会社に集約され、優秀な技術者が守られる環境も整うでしょう。と同時に、派遣技術者の存在が広く認知され、待遇も改善されることが期待されています。
渋谷 僕も派遣技術者が「働き方」の選択肢のひとつとして、きちんと位置づけられる世の中であるべきだと思いますね。
東芝は1万人を超えるリストラを実施し、シャープは台湾の鴻海の傘下に入りました。いまはメーカーの正社員といえども、定年までずっと同じ会社にいられるとは限らない時代です。不幸にして配属された部門の事業が競争力を失ったり、技術的に陳腐化して新たな技術にリプレースされたりしたら、自身で身の振り方を考えなければなりません。その一方で派遣技術者は数年間あるプロジェクトに携わり、そこで大きな成果を挙げられれば、もっといい処遇でもっとやりがいのあるプロジェクトに関われる可能性を得られます。
どちらが本当にいい選択肢なのか今やわかりませんよね。最終的には本人の職業観や価値観に関わってくることだと思います。
佐藤 まさにご著書の「働き方は生き方」というタイトルの通りですね。私はNECグループの出身ですが、NECのシステムインテグレーター部門のエンジニアは、正社員でありながら多くはお客様のところで働いている。派遣技術者とまったく同じ働き方です。ところが、NECの正社員は「エンジニア」として世の中から評価される一方で、同じ働き方をしている弊社の技術者は「派遣技術者」と呼ばれてしまう……。それが、なんとなくしっくり来ない。1日も早く派遣技術者という働き方、生き方、仕事のやり方が世間に認知され、彼らがエンジニアとして誇りを持って過ごせる世の中になって欲しいというのが、我々の願いです。
■投資家も技術者派遣の将来性に注目!
渋谷 「働き方は生き方」では、何人もの派遣技術者の方々にインタビューさせていだきましたが、皆さん本当にモチベーションが高いんです。仕事を通じて成果を上げることやスキルを高めること、資格を取得することが、次のステージで活躍できることに直結しているからでしょう。だからキャリア意識も高いし、自己研鑽意欲も非常に高い。もっともっと社会的に認知され、光があたって欲しい方たちばかりです。
なのに、佐藤さんが指摘されたとおり、同じような働き方をしているNECやIBMの社員と派遣技術者との間には線が引かれている。世の中の見方や意識を変えることは大きな課題のひとつですね。
佐藤 私は「派遣技術者」という呼び方も良くないと思っています。
渋谷 インタビューした方のなかにも同じ意見がありました。「派遣」ではなく「協業契約」という呼び方にすべきではという意見でした。
佐藤 「協業契約」、いい言葉ですね。実は、当社では2014年12月に株式公開したのですが、おかげさまで投資家さま、特に機関投資家さまからの注目度は高いと思います。それは投資家さまが「派遣技術者が技術立国を支えている」ことを、しっかり認識してくれているからだと思っています。
渋谷 投資家は「実質」を見ているからでしょうね。企業は開発期間の短縮という課題を負っているし、そもそも製品を開発するには様々な技術領域を組み合さなければならない。だとすれば派遣技術者の活躍の場は今後ますます拡大する。技術者派遣の将来性は有望だろう──そう判断しているのだと思います。
実際に取材してみて、派遣技術者という働き方、生き方が世間に認知されるのは、それほど時間がかからないだろうとも思いました。というのも彼ら、彼女らがいい仕事をして各方面で評価を高めていくうちに、大学の後輩たちが「あの人のように活躍したい」と考える、目指すべき存在がどんどん出てくると感じたからです。そうなれば、世間の見方も案外早く変わるのではないかと思います。
(第3回につづく)
(第1回はこちら→ 日本のモノづくりの現場で、いま何が起きているか?)
インタビュー・構成 大山弘子
撮影 宇壽山貴久子
《作品紹介》
働き方は生き方 派遣技術者という選択 / 渋谷和宏(著)
技術の進歩が加速し、グローバルな競争が激化する中、大企業の正社員でもリスクとは無縁でいられない。どんな働き方をすれば、生き残れるのか? 特定分野のスペシャリストとして高い技術力を持つ「派遣技術者」にそのヒントがあった。危機意識を持ち、複数の分野に精通する彼らは会社や部門の盛衰に左 右されない。彼らが示す新しい働き方とは?
→書籍購入はこちら(Amazon)
http://www.amazon.co.jp/dp/4344424492
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(取材協力)
テクノプロ・ホールディングス http://www.technoproholdings.com/
《お知らせ》
取材にご協力いただいたテクノプロ・グループが運営するエンジニア・研究者向けポータルサイト「Do ~集まれ最高の技術人~」がオープンしました。
【Do ~集まれ最高の技術人~】
https://www.technopro-do.com/
日本のモノづくりを支える「派遣技術者」という新しい働き方
技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。
そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った「働き方は生き方 派遣技術者という選択」の著者、渋谷和宏氏と、6130億円※の 市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いま モノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。
※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)