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日本のモノづくりを支える「派遣技術者」という新しい働き方

2016.05.25 公開 ポスト

第3回

日本のメーカーは"マーケティング・カンパニー"になっていく佐藤博/渋谷和宏

技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。

そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った『働き方は生き方 派遣技術者という選択』の著者、渋谷和宏氏と、6130億円の 市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いま モノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。

※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)

(第2回はこちら→ 派遣技術者とメーカー社員、本当にいい選択肢とは?
(第1回はこちら→
日本のモノづくりの現場で、いま何が起きているか?

■偉くなりたい人はメーカーへ、生涯エンジニアでいたいなら派遣技術者へ

渋谷 派遣技術者の方々に取材をしてみて、彼ら、彼女らが技術派遣会社の正社員であることはもちろんですが、教育・研修が非常に充実していることにも驚かされました。

佐藤 派遣技術者として生きることは、エンジニアとしてのスキルセットを向上し続けなければならないという厳しさも伴います。能力やスキルはもちろん、モチベーションを高め、適材適所の派遣を後押しする教育支援が不可欠です。そのためにも、派遣会社がスキルを伸ばす機会を提供することが非常に重要だと考えています。当社では、4カ所の研修センターと全国に約60カ所あるスクールを展開しています。

渋谷 インタビューでも学ぶ機会があることへの感謝の声が多々聞かれました。

佐藤 私は大学で理系の勉強をした人のうち、ずっと技術に携わりたいという職人気質のエンジニアは派遣技術者になったほうがいいと考えているんです。

渋谷 個人的なことになりますが、僕が会社を辞めた理由の一つは「マネジメントはもういいかな」と思ったからなんです(笑)。取材したり文章を書いたりすることが好きでこの仕事に就いたのだから、それを全うしたいと思い、計画を立てて辞めました。技術者にもずっと現場で働きたいと考えている人がたくさんいますよね。

作家・経済ジャーナリスト 渋谷和宏氏

佐藤 そうなんです。そもそも、理系出身者の多くがエンジニアやリサーチャーになりたいわけです。ところがエンジニアを目指して大手メーカーに入っても、全員がエンジニアになれるわけではない。配属先次第では、「技術がわかる営業」だったり、「技術がわかる経理」にならざるを得ない。企業にとっては必要な人事ですが、本人にとっては不本意だったりしますよね。

渋谷 技術も営業もわかったうえで「ゼネラリストとしてマネジメントに携わりたい」という指向性があればいいですが、そういう人たちばかりではないですよね。


■メーカー社員はマネジメント、実務は派遣技術者という時代がくる

佐藤 エンジニアや研究者になるなら大手メーカーに就職するしかないという固定観念は、早く捨てるべきです。事実、当社にも東大や京大、大学院から新卒で入社し、研究所や製薬会社の研究部門やメーカーの開発部門で働く人が大勢いる。技術者派遣という働き方は、研究者や技術者としてやりたい仕事ができることが一番の「売り」でもあるんです。

渋谷 インタビューでお会いした方にも「強みとなる専門分野を持ちつつも専門特化型ではなく、それ以外の分野にも対応できる技術者になりたい」と話された方が何人もいました。それも派遣技術者という働き方ならではのメリットであり、派遣技術者だからこそ実現できることだと感じました。
 だいたい、いまの時代は、正社員としてメーカーに就職し、特定の分野で技術を極めたものの、その事業がダメになったことで働く場を失うリスクもあるわけです。

佐藤 これからの時代は、製造業のあらゆる分野がアウトソースに頼らざるを得ないと思います。と同時に、メーカーの正社員は技術者であってもマネジメントを任され、実際のエンジニアリングやプログラミングはほとんどをアウトソーサーが担当する時代がくるでしょう。

テクノプロ・ホールディングス 佐藤博氏

渋谷 現場の実務は派遣技術者が担うということですか?

佐藤 そうです。例えば電機業界では、かつての4分の1程度しか新卒を採用していないと思います。そのため、正社員は7年目には主任や係長、12~13年目には課長になり、ほぼ全員がマネジメントを任される。つまり、メーカーの正社員はマネジメント、プロジェクトリーダーも含めた実務はアウトソーサーという構図ができつつある。これが進むと社内で技術を留保することが難しくなってしまいます。それがいいかどうかは別として、実際にそうなったときは、派遣技術者の働き方もメーカーとの契約の仕方もいまとは大きく異なっているでしょう。


■日本のメーカーの自前でモノづくりをする構造は続かない

渋谷 確かにそのような方向に進みつつありますね。かつて日本の製造業は垂直統合型のビジネスモデルが主流で、設計から製造まで全て自前で担当するのが当たり前でした。それが今では、例えばスマートフォンや薄型テレビなどの製造は、台湾の鴻海精密工業のような受託製造を手掛ける企業に外注するようになっています。
 僕は、日本の家電メーカーはそう遠くないうちにマーケティング企業になるだろうと考えています。製品のデザインやプロモーションは手がけるけれど製造は外注する。正社員を大量に抱えてすべて自前でモノづくりをする構造は早晩崩れるでしょう。

佐藤 半導体業界は、その先行事例です。すでに設計、製造をすべて違う会社がやっています。ただし、設計であれ製造であれ、技術者が要らなくなることはない。技術者派遣というビジネスは将来有望ですし、派遣技術者にも明るい未来があると思います。現実問題として、日本では毎年10%超の技術者が離職している。一部の大手企業は技術者の離職率が3~4%だそうですが、業界全体では相当流動化が進んでいる。

渋谷 大量のリストラや業界再編を経て、働く人々の意識も「技術者として本当にやりたい仕事をしよう」という方向に変わってきていることの表れかもしれませんね。


■日本でも「年功序列型」が崩れ、「ジョブ型」社員が増えていく

佐藤 派遣技術者という働き方と生き方が、広く認知されてくると、日本でも「ジョブ型」の正社員、つまり職務や勤務地などの要件を明確にし、スペシャリストとしての専門性を評価される正社員が増える可能性があります。

渋谷 安倍政権は「同一労働同一賃金」の方針を打ち出しましたが、これを実現するには年功序列賃金というジョブ型の定着を阻んでいた大きな壁を崩さざるを得ません。崩れるまでにはそれほど長くはかからないでしょうね。
 それにジョブ型正社員は日本企業に適した制度だと言えるかもしれません。派遣技術者のように、すでにジョブ型で働いている人たちの好例もありますしね。そもそも働く側にとっては、働き方の選択肢が増えることは悪いことではありません。

佐藤 むしろ喜ぶべきことですよ。ただ、ずっと正社員だった人には「派遣会社なんかに行きたくない」という意識がある。加えて、年功序列の文化のなかで生きてきた人は、基本的にジョブ型は厳しい。技術がなければ仕事もないからです。

渋谷 ジョブ型では、その時点での能力を時価で評価しますからね。

佐藤 手前味噌で恐縮ですが、当社の技術者はほとんどが正社員ですが、年功型賃金制度は採用していません。もちろん、就業年数に伴って給与が上がる側面もありますが、原則としては、技術者本人のスキルセットが上がったときが給料が増えるタイミングと言えます。

渋谷 厳しいけれど公平だし、やりがいにもつながります。今回インタビューした派遣技術者の方は、資格取得の意欲や自己研鑽への情熱が非常に強いと言いましたが、自分を常に磨いて市場価値を上げ続けないと生き残れないという危機感を持っている。それが励みにもなっているし、自己研鑽という行動様式につながっているのだと感じました。

佐藤 私自身、前職では1万人以上の技術者をリストラせざるを得ませんでした。でも、多くの場合、彼らのスキルや能力が陳腐化したからではありません。その人たちの技術を活かすためにも弊社のような業態が必要です。私は、派遣技術者を技術立国日本に欠かすことのできない大切な存在だと思っています。

渋谷 僕も派遣技術者という新しい働き方、生き方が、これからも日本のモノづくりを支え、輝かせ続けてくれると確信しています。



(第2回はこちら→ 派遣技術者とメーカー社員、本当にいい選択肢とは?
(第1回はこちら→ 日本のモノづくりの現場で、いま何が起きているか?

インタビュー・構成 大山弘子 
撮影 宇壽山貴久子 

《作品紹介》
働き方は生き方 派遣技術者という選択 / 渋谷和宏(著)

技術の進歩が加速し、グローバルな競争が激化する中、大企業の正社員でもリスクとは無縁でいられない。どんな働き方をすれば、生き残れるのか? 特定分野のスペシャリストとして高い技術力を持つ「派遣技術者」にそのヒントがあった。危機意識を持ち、複数の分野に精通する彼らは会社や部門の盛衰に左 右されない。彼らが示す新しい働き方とは?

→書籍購入はこちら(Amazon)
http://www.amazon.co.jp/dp/4344424492
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http://www.amazon.co.jp/dp/B01CXYXGL0


(取材協力)
テクノプロ・ホールディングス http://www.technoproholdings.com/


お知らせ
取材にご協力いただいたテクノプロ・グループが運営するエンジニア・研究者向けポータルサイト「Do ~集まれ最高の技術人~」がオープンしました。
【Do ~集まれ最高の技術人~】
https://www.technopro-do.com/

 


 

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日本のモノづくりを支える「派遣技術者」という新しい働き方

技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。
そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った「働き方は生き方 派遣技術者という選択」の著者、渋谷和宏氏と、6130億円の 市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いま モノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。
※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)

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佐藤博

テクノプロ・ホールディングス 取締役(管理担当)CFO兼常務執行役員 1979年、日本電気入社。NECエレクトロンデバイスカンパニー経理部長兼企画統括部長、NECエレクトロニクス執行役員CFO、NECネッツエスアイ執行役員CFOを経て、2014年より現職。

渋谷和宏

1959年12月、横浜生まれ。作家・経済ジャーナリスト。大正大学表現学部客員教授。1984年4月、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。2006年4月18日号では10万部を突破(ABC公査部数)。日経ビジネス発行人、日経BPnet総編集長などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。
また、1997年に長編ミステリー『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)で作家デビューも果たし、以来、渋沢和樹の筆名で『バーチャル・ドリーム』(中央公論新社)や『罪人(とがびと)の愛』(幻冬舎)、井伏洋介の筆名で『月曜の朝、ぼくたちは』(幻冬舎)や『さよならの週末』(幻冬舎)など著書多数。
TVやラジオでコメンテーターとしても活躍し、主な出演番組に『シューイチ』(日本テレビ)、『いま世界は』(BS朝日)、『日本にプラス』(テレ朝チャンネル2)、『森本毅郎・スタンバイ!』(TBSラジオ)などがある。2014年4月から冠番組『渋谷和宏・ヒント』(TBSラジオ)がスタート。
http://www.tbsradio.jp/hint954/

講演等のご依頼は info_shibuya@gentosha.co.jp までお寄せください。

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