会社ではリストラに脅え、家庭では「夫」として妻との関係に疲弊し、「父」としての居場所を失う。そして、「息子」として母親の呪縛にも苦しめられる……。「仕事」という大事なファクターにヒビが入った時、男の人生は瞬く間に崩壊の道へと向かってしまう──。男であるがゆえの苦しみ、『男であること』とはいったいなんなのだろうか?
今回、幻冬舎新書『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(奥田祥子・著)では、そんな市井の男たちの実情を最新ルポとして明らかにしています。
その衝撃の内容を本書から一部を抜粋して紹介いたします。
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孤立する男たち
経済協力開発機構(OECD)が2005年にまとめた調査報告書“WOMEN AND MEN IN OECD COUNTRIES”の項目“Social isolation”によると、日本人男性は、調査対象21ヵ国のうち、「最も社会的に孤独(孤立している)」という。仕事以外の日常生活において、友人や職場の同僚とスポーツや教会、文化的なサークル活動に参加した経験を質問したところ、日本人男性は「全くない」「ほとんどない」が16.7%と最多で、二位のチェコ人男性(9.7%)を大きく引き離した。その後、OECDで同様の調査は行われていないが、この十数年の間、40歳代、50歳代を中心に若年者から高齢者まで、300人近くの男性を取材してきた経験から、男たちの孤独感はなおいっそう高まり、社会的孤立にまで深刻化していると、私は捉えている。孤立は、今や多数派となった、日本型の「覇権的男性性」を実現できない、つまり職場や家庭において旧来の「男らしさ」の規範から外れた男たちが行き着く先なのである。
単なる精神的な「孤独」にとどまっているなら、まだ自力で乗り越える方法は残されている。だが、環境的な「孤立」は、本人の力だけではどうすることもできない限界点を示しているように思う。
経済学者の玄田有史は2013年、自著『孤立無業(SNEP)』で「孤立無業(Solitary Non-Employed Persons=SNEP)」という概念を導き出した。SNEPとは、「20歳以上59歳以下の在学中を除く未婚無業者のうち、ふだんずっと一人か、一緒にいる人が家族以外にいない人々」を指し、近年増加傾向にあるという。20歳以上59歳以下の未婚無業者に占めるSNEPの割合(2011年)は、女性の56.2%に対し、男性は68.4%と約12ポイント上回っている。男性が女性よりも孤立化しやすい理由について玄田は、男性のほうが社会規範の影響を受けやすく、コミュニケーション能力が低い、ことを挙げている。
だが、孤立する男たちの増加は、未婚者だけに限ったことではない。企業による人員削減や家族介護との両立の困難から、一度離職すると、社会的に孤立しやすいことは事例でも紹介した通りだが、本来、孤立リスクを防ぐべき家族、特に妻との関係に何らかの亀裂が生じているケースでは、既婚男性であっても容易に孤立へと追い込まれてゆく。そもそも、長時間労働とリストラの危機に晒されている男性は、職場で胸襟を開ける人間を持たず、また仕事以外の場面では、友人・知人らはもちろんのこと、それがたとえ家族であっても、自身の悩みを打ち明けて物理的にも精神的にも交流していくことが苦手である、という性向や環境的要因にも目を向けるべきだろう。
孤立は希望を根こそぎ奪い取り、絶望感を限りなく増幅させる。
男性は自殺者数も孤独死数も、女性の約二倍に上る。今、中年男性たちを追い詰めている孤立がやがて、高齢者になった彼らに悲痛な「死」をもたらすことは何としても避けなければならない。
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男たちが苦しみと絶望の果てに追い詰められているということは、社会の根幹を揺るがし兼ねない非常に深刻な事態である。本書で著者はさらに男たちの実情に言及する──