好評発売中の橋本治著『福沢諭吉の『学問のすゝめ』』から、一部を抜粋してお届けする、試し読み第二弾。7月10日(日)の投票日までは、「政府と国民」の黎明期に関する解説を少しずつご紹介します。そもそもの始まりはこんなふうでした。
明治維新政府というのは、徳川幕府を倒すことに功績のあった人間達の作った政府で、彼等はそれまでほとんどなんの意味もないような存在だった「天皇」をかつぎ出し、天皇に承認されるような形で「政府」を始めました。その時代の変化は、国民にとって「へー、そういうことなの?」という程度のものです。
国民にとって、とりあえず「時代の変動」は関係のないもので、だからこそ新しく出来上がった「政府」だって、当座は関係のないものです。だから、「議会を作れ、俺達も政治に参加させろ」という声なんかは上がって来ません。それも当然だというのは、当時の国民がそんな「方法」のあることを知らないからです。
徳川幕府の時代と明治政府になってからとでどう違うのかということは、普通の国民にはよく分かりません。明治になって新しい西洋風の建物が出来たことは大きな違いですが、「目に見える違い」以外のことはよく分かりません。だから福沢諭吉は、
《然(しか)るに幕府のとき、政府のことを御上様(おかみさま)と唱え》として、旧幕府時代の悪口を『学問のすゝめ』の中に強調して書くのです。
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諭吉は旧幕府の何が一番ダメだったと思っていたのでしょう? 政治編(2)に続きます。 明日7月8日(金)公開。