好評発売中の橋本治著『福沢諭吉の『学問のすゝめ』』から、一部を抜粋してお届けする、試し読み第二弾。
政治家なんかになろうとする人より、それを取り巻く、まだ何も知らない国民に伝えたいことが諭吉には山ほどあったようです。
表立っては言わなくても、彼はちゃんと明治政府のあり方を監視しています。だから、政府とつながる《学者》を罵倒して、やっぱり政府のあり方を変えはしなくとも、少なくとも補正くらいはされてしかるべきと考えています。それだから『学問のすゝめ』の二編の最後は、《政府と相対し同位同等の地位に登らざるべからず。》と結ぶのです。《登らざるべからず》は「登らないなんてどうかしてるぜ」です。悪い言い方をしてしまえば、福沢諭吉の態度は、「俺はどうともしないけど、君らはなんとかしなさいね」なのです。
そのために「なんだかんだ言ったって、世の中には昔のまんまの考え方をしてるバカが多いよ」と状況分析をしています。つまり、「こういう社会を君達はなんとかしてね」で「君達がなんとかしなきゃいけないのは、こういう社会だよ」です。
ここは私の推測ですが、福沢諭吉の政治に対するクールな無関心の裏には、「そんなこと言ったって、政治や政府はそう簡単に変わらないだろう」という認識があるからのように思われます。
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諭吉自身はクールなまま、国民には「政府と同位同等になれ」とけしかけた真意はどこに? 政治編(4)へ続きます。明日7/10(日)公開。