お墓といえば静謐で、殺風景で、ちょっと怖い場所、そんなイメージがあるかもしれません。しかし世界に目を向けてみると、民族ごとに弔いの仕方が大きく異なり、お墓の風景は驚くほどさまざまです。『世界のお墓』(構成・文/ネイチャー&サイエンス)では世界中から厳選した52か所のお墓を美しい写真で紹介し、その文化的・宗教的背景をたっぷりと解説しています。
今回はその中から「グアテマラ・チチカステナンゴの市民墓地」を試し読みとして公開します。キャンディカラーのカラフルなお墓が立ち並ぶこんな墓地なら、お墓参りも楽しくなりそうです。
色とりどり、建て増しも可能
色鮮やかなお墓が立ち並ぶ。どれも家のように大きく、遠くから墓地を眺めたら村だと思うにちがいない。
中央アメリカ北部に位置するグアテマラは、かつてマヤ文明が栄えた地。今でも国民の半数がマヤ系の先住民だ。大航海時代にコロンブスがアメリカ大陸に到達すると、この地域にもスペイン人が訪れ支配した。現在では国民の大半がキリスト教を信仰している。
グアテマラ西部に、マヤの文化が色濃く残る町、チチカステナンゴがある。標高1900m以上の高地に位置する小さな町だが、スペイン風の古びた街並とマヤの伝統文化が混ざり合った神秘的な雰囲気がある。町の中心にあるサント・トーマス教会は、スペイン人が布教のために建てたカトリックの教会だ。マヤ文明の神殿跡に建てられ、石段は神殿の名残り。教会は地元の人々の信仰の拠り所になっている。
教会周辺の出店には、鮮やかな民族衣装や民芸品などが所狭しと並べられる。教会の石段では民族衣装を着た女性たちが集まって生花を売り、入り口では香木を盛んに焚いて煙を振りまき、マヤ風のお祈りをする。キリスト教とマヤの伝統的な信仰が渾然一体となった不思議な光景だ。
教会の前の道をしばらく歩けば、カラフルなお墓が立ち並ぶ大きな墓地が見えてくる。どのお墓も思い思いの色や形をしている。家型のお墓が多いが、階段状になった神殿風の墓もある。扉や鉢植えを飾る棚がついたものまである。形はまちまちだが、物置になりそうなくらい大きいものは家族用の墓で、中には複数の棺桶が納められる。大家族であれば大きなものになり、必要に応じて、2階、3階と建て増ししていく場合もある。家型の墓の裏側には、故人の名前や没年などが書かれた墓標がついている。
色彩豊かな民族衣装をもつマヤ系先住民ならではのカラフルな墓地は、ちっとも墓地らしくない、明るい雰囲気をもっている。
◎サント・トーマス教会は、マヤの聖典「ポポル・ブフー」の原典が発見されたことでも有名。天地創造からスペイン人に征服されるまでが書かれている。
◎チチカステナンゴで暮らすマヤ系の先住民はキチェ族で、キリスト教が入ってきた後も、マヤの信仰や文化を今日まで守ってきた。
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