人生最大の買い物である、マイホーム。住宅展示場に出かけても、いいモデルハウスはないし、かといって建築家に設計を頼むのは不安……と悩みは尽きません。
というのも日本の住宅市場は、安心して家づくりができる仕組みになっていないのです。今の日本の家づくりが抱えている問題点を、デザイン住宅において注文受注件数が全国№1の建築設計事務所・フリーダムの社長である鐘撞正也氏が解説します! 前篇は、モデルハウスの裏側について。
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ハウスメーカーのビジネスモデルは、全国各地の住宅展示場に建設したモデルハウスに集客し、そこに常駐する営業マンの接客によって受注していくというものです。
モデルハウスを建てるのに、ハウスメーカーは5000万円〜1億円を使います。ところが、このモデルハウスは平均7年で建て替えになります。少しでも「古さ」が出れば、集客力が落ちるからです。仮に5年で価値がなくなるとすれば、建築費が1億円の場合、年に2000万円相当の出費ということです。
しかも、住宅展示場に出展するためには、出展料(場所代)を払わなくてはなりません。立地にもよりますが、都内では月額150万円くらいです。年間で1800万円。さらに、モデルハウスで接客する営業マンの人件費があります。仮に営業マン一人とアシスタント一人で年間1200万円とすると、1棟のモデルハウスで、合計で年間5000万円がかかる計算です。
これだけお金をかけても、モデルハウス場1棟あたりの年間平均受注件数は20件くらいです。また、一人の営業マンが契約する住宅数は、年間5、6棟が平均です。これだけを見ても、ハウスメーカーが1棟を売るためにどれだけのコストをかけているか、お分かりいただけると思います。もちろん、ハウスメーカーはこれ以外にも、莫ばく大だいな広告宣伝費を使い、本社ビルや事務スタッフなどの間接部門にも多額の費用を使っています。これらのコストが、すべてハウスメーカーが販売している商品の1棟1棟の価格に上乗せされています。
このように、住宅展示場にモデルハウスを構えて営業活動をすることは非常にコストのかかることなのですが、自社の住宅のイメージを宣伝し、営業マンが接客する場をつくるためには不可欠なのです。
ところが、来場者が実際に、住宅展示場で各社の住宅をじっくりと比較できる機会はほとんどありません。
ある統計によれば、展示場で見て回る住宅の数は平均でわずか2・2社だそうです。3社見る人は稀まれということです。非常に少ない。確かに、どこの何を見たいという格別の目的意識もなく、何となく見て回るというのでは、どこも同じように見え、すぐ疲れてしまうでしょう。来場者をできるだけ引き留め、いかに商談に持ち込むかをマニュアル化しているメーカーもあります。1社で2時間、3時間とつかまってしまうこともあるのです。他社のモデルハウスに行かせないことがメーカーの利益につながるのですから、2・2社しか見て回れないのもうなずけます。
モデルハウスはどこでも、営業マンが手ぐすねを引いて待っています。彼らは建築のプロではなくて、販売のプロです。そういう訓練を受けている。そこに「建築のことは素人でよく分からないんですが……」というお客様が飛び込んでいくわけですから、最初から「勝負はついている」といわざるを得ません。
別の業界からハウスメーカーの営業マンに転職した男性が「前職では戸別訪問という形で営業活動をしていたので門前払いも多く、辛つらい思いをした。しかし、ハウスメーカーに転職して驚いた。住宅展示場にいると、ただ座っているだけでお客の方から訪ねてきてくれる。こんなに楽な営業はないと思った」と振り返っているのを耳にしたことがあります。
結局来場者は「会社の雰囲気」「営業マンの印象」、そして「概算の見積」くらいで、依頼先のハウスメーカーを決めてしまうということが起きています。しかし、会社の雰囲気も営業マンの人柄も、自分たちにどういう住まいがふさわしいのかということとはまったく関係がありません。「モデルハウス」という相手の〝土俵〞で、主導権をハウスメーカー側に握られ、何となく印象で依頼先を決めてしまう。これでは本当に納得のいく住まいができるとは思えません。
※後篇は、9月23日公開予定です。土地ビジネスの仕組みを解明します。