人気書道家の武田双雲さんは、ポジティブシンキングについての書籍も数多く著しています。その武田さんが、「書く」ことで疲れを取る方法をお教えする新刊『疲れない!!』の試し読みをお届けします。
最終回は、「書くことで気分を『すっきり』させる」について、本文より抜粋します。
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この本でもたびたび触れていることですが、書道をやっていると日本古来の言葉の面白さを実感できます。とくに面白いなあと思うのは、癒し効果のある言葉ほど響きが美しく、その一方で英語などの外国語には訳しにくいものが多いところです。それだけ日本の文化に深く根ざした言葉ということだと思いますし、また我々日本人の精神が最後に行き着くところもそこなんだということなのでしょう。
ここでは、そんな日本語ならではの響きが美しいと僕が感じている言葉の中から、疲れにも効く言葉を集めてみました。
まずは「すっきり」。「頭がすっきりする」「気分がすっきりする」という使い方が代表的で、よけいなものがなく、気持ちの良いさまを表わす言葉です。
「しっとり」は、「しっとりした女性」などのように人を形容する言葉として使えば、静かに落ち着いて好ましい趣のある様子。それが自然の風景などを描写するときに使われると、辺りが軽く湿った様子を表わす言葉になるところがいかにも日本的情緒を感じさせます。
「ご縁」も、外国語には変換しにくい言葉ですね。ただの「縁」なら英語のチャンスなどにも近いのでしょうが、頭に「ご」がつくと特別な縁(えにし)を感じさせて、感謝と結びついた言葉になるんじゃないかなと思います。
「謙虚」にも感謝のニュアンスが感じられて、心身のチューニングにはぴったりの言葉。ひかえめで慎ましいさまを意味しますが、消極的な態度とは違って、素直に相手の言うことに耳を傾けるなど前向きなニュアンスがあります。僕も大病をして以来、感謝の気持ちが増えましたし、謙虚にいろんな人のアドバイスに耳を傾けようと思うようになりました。
というわけで、究極的には「健康」という字が一番かもしれません。「健」にも「康」にも「すこやか」という意味があり、さらにそれが肉体的な健康だけでなく、精神の働きやものの考え方が正常であるという点にも及んでいるところが重要です。心身が「健康」なら、「元気」に「ばっちり」生きていくことができます。
ほかに、「志」「絆」「粋」なんていう漢字も、「しっとりと」味わいたくなる言葉ですね。
「健康」と書くのは健康になるためではありません。言葉の響きからくるイメージと、書くという行為の癒し効果そのものによって、書いているときがすでに「健康」な状態なのです。言葉の意味を深く考えるのももちろんいいですが、単純に音の響きや字の形を楽しむのもいいでしょう。
これが、何度も書に救われてきた僕の実感です。