性格も体格も異なる選手たちに、五輪で数多のメダルをもたらした競泳日本代表ヘッドコーチ・平井伯昌の著書『見抜く力 夢を叶えるコーチング』。見抜くのは才能ではなく、たったひとつ人間性である。
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新たな世代を育てろ──あとがきにかえて
夢に向かって行く、情熱をもった人間が少なくなった。
それは選手だけでなく、コーチするほうにも問題があるのかもしれない。私が康介や礼子、春佳といった選手と出会った頃は、毎日が楽しくて夢に燃えていた。
「こいつらがみんな強くなったら、どうなるんだろう?」
「みんながメダルを獲ったら、最高に面白いな」
そんなことを考えて、毎日わくわくしていたものだ。
ところが最近になって周りを見渡してみると、コーチにしてもいわゆる「サラリーマン化」しているように思えてならない。水泳にのめりこんで楽しんでいるのではなく、あくまでもコーチを「仕事」の一環と割り切り、黙々とノルマをこなしているように見える。
一方選手のほうも、泳ぐことの楽しさや歓びを味わうより、淡々と練習をこなし、試合に出ることを学校のクラブ活動の延長と思っているようにも感じる。
本当に、それでいいのだろうか?
私が考えるコーチとは、
「選手に対して、もっともっと夢を与える存在」
なのではないかと思っている。
たとえ毎日の練習がきつくても、なかなか記録が伸びなくても、
「今日はこの子の泳ぎが良かった」
「ここを工夫すれば、もっと伸びるな」
そんなふうに切磋琢磨しながら、大きな目標に向かって泳がせてやりたい。
コーチとして、若い選手にチャレンジしていく厳しさ楽しさ、夢を持って努力することの厳しさと楽しさを味わってもらいたいと思う。
また、選手自身にも、
「こうなりたい」
という夢を持てる歓びを味わわせてやりたいと思うのだ。
康介と出会った頃の私は、
「絶対にオリンピック選手をつくりたい」
と思っていた。その私自身の中にあった情熱が向こうにも伝わって、康介自身も伸びていってくれたのではないかと思う。礼子の場合も同じだった。
コーチのやる気があって、選手もやる気を出す。
そのお互いの相乗効果の中から、夢や目標が見えてくるのだ。
今後、私自身もコーチのひとりとして、
「水泳界のレベルアップのために努力すること」
「新たな世代を育てるために若い選手にチャレンジしていくこと」
その両方に、いままで以上に労力を傾けなければならない、と覚悟している。
また、いま教えている上田春佳に対するチャレンジもある。「春佳という自由形の選手を世界のトップに」という夢に賭けているのだ。
しばらくはその「夢の途中」である。
二〇〇八年十一月
平井 伯昌