大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。
美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。第1回のテーマは「感謝の気持ちをさりげなく伝える」です。
* * *
もったいない
あんなに安い傘を返しに来られるなんて驚きました。それも昨日の今日に。降り続く雨の中、わざわざお越しいただき、もったいないことです。
「もったいない」は形容詞で、現在ではまだまだ使える物が捨てられてしまう時に、惜しい気持ちを表す言葉として使われています。
本来は、あるべき形から大きく外れて不都合なことを表す言葉でした。「もってのほか」と同じだったのです。そこから、あるべき程度を過ぎてかたじけないという使い方も生まれました。例文のように、相手がした行動があまりにも恐れ多いという時にも使います。
ただ、例文のような使い方をする人は減ってきているようで、こんな言い方をすると、幾分大仰(おおぎょう)にも感じられます。けれども、感謝の気持ちを相手に表すためには、むしろ大仰、大げさに言うほうがよいのです。
私なんかのために、わざわざ指定席、それも特等席のチケットを取ってくれたのですか。もったいないですよ。ありがとうございます。
* * *
いたみいる
あんなに安い傘を返しに来られるなんて驚きました。それも昨日の今日なのに。降り続く雨の中、わざわざ来ていただき、いたみいります。
「いたみいる」は歴史上、さまざまな使い方がありましたが、今日では例文のような使い方が一般的です。相手の行いに対して、自分は心の痛みを感じてしまうほどに恐縮するとか、恐れ入るということです。
では、どんな場合に日本人はいたみいるのでしょうか。相手の親切が心にしみる時、相手の行為が心にしみる時、驚くほどのよい待遇を受けた時などでしょう。
例文は安いビニール傘を貸した日の翌日に返却に来た時の対応です。しかも翌日も雨は降り続いているにもかかわらず、です。こういった場合、「いたみいる」が合っています。
一方、相手の言動があまりにもすばらしかったり、反対に厚かましくてやられたという感情を表す時にも使います。茶化した言い方ですが、マイナス評価になります。
傘を貸してもお礼の言葉の一つもない、これにはいたみいったよ。やつの根性にはね。
* * *
かねがね
かねがね、君に会ってお礼も言わなくてはならないし、結果も報告しなくてはならないと思っていたんだよ。今日はこんなところで立ち話もなんだから、後日また改めてね……。
「かねがね」とは、「前々から」「以前から」「あらかじめ」という意味をもちますが、それらの言葉とは、微妙に異なるところもあります。
というのは、「かねがね」は、その件については前々から気にかけてはいたのだが、今になってしまって申し訳ないという気持ちを表すからです。
例文は、「もっと早くにお礼を言わなくてはならないのに、今になってしまった。申し訳ない。会ってしまったので簡単にお話ししたが、それではよくないから出直すよ」と言っているのです。
だから、例えば「かねがねあなた様のお噂は、たくさんの人から聞いておりました」と言えば、会ってみたいと思っておりました、という気持ちが伝わります。
次回は、「場をなごませるひと言」、更新は7日(金)です。お楽しみに。
さりげなく思いやりが伝わる大和言葉の記事をもっと読む
さりげなく思いやりが伝わる大和言葉
大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。
美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。