大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。
美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。第4回のテーマは「繊細で微妙な『今』をありありと表す」です。
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おもむろに
おもむろにライターを取り出した男は、紫煙をくゆらすと、大きなため息をついた。
「おもむろ」は、動作がゆっくりとしていることを表す言葉です。音もなく静かなイメージです。「ゆっくり」には、慎重なのか、慣れていないのか、じっくりと行いたいのかなどの理由があります。
ところが、「おもむろに」という言葉を使う場合には、特別の理由があるわけでなく、心が落ち着いていて、余裕もあるので、急ぐ必要がないことが前提となります。老夫婦が休日にお茶を飲む動作などです。例えば、「走らずに、ゆっくり歩きなさい」と注意を与える時に、「おもむろに歩きなさい」とは言いません。
言葉というものは結局のところ慣れるしかありません。微細なところは教科書とノートで勉強するだけでは、やはり、身につかないからです。
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暮れなずむ
旅館に着くと、夕食まで時間があったから、海岸を散歩することにした。水平線に暮れなずむ夕日を見て、もうくよくよしてはいけないと思った。
「なずむ」とは、ものごとがうまく進まないことをいいます。「行きなずむ」といえば、行くに行けない。「言いなずむ」といえば、言うに言えないことになります。例文の場合は、暮れそうで暮れない夕日です。
「暮れなずむ」は、そこはかとなく、詩情豊かな表現です。ではなぜそう見えるのでしょうか。まるで美しい夕日に意思があって、さもためらっているかのごとくに見えるからです。もちろんそれは、夕日を見ている人の感情移入でしかないのですが……。
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さんざめく
ヨーロッパではパブで飲むことが多かったが、ドアを開けるなり、さんざめく声が聞こえてくる。ドイツ語、英語、フランス語……。やはりヨーロッパは多言語社会なのだ。
「さんざめく」は、騒ぎ立てることですが、使い方には次のような注意が必要です。
一つは、多くの人々の声であるということです。それぞれの話し声、それぞれの声でもよいのですが、たくさんの人の声である時に、この言葉を使います。
もう一つは、にぎやかな声でないと、「さんざめく」は使ってはいけません。それぞれが話し、それぞれが歌っていたとしても、皆その場になじんで、楽しんでいることが必要です。居酒屋でもパブでもよいのですが、客はそれぞれくつろぎながら、互いにどこまでの声なら許されるか、時と場合によって判断しています。なぜならば、少し難しい言い方となりますが、場を共有している意識があるからです。
よく使われるのが、「さんざめく星たち」という表現です。満天の星を見上げると、星たちがにぎやかに騒いでいるかのように、光がまたたいているのです。
次回は、「品性が保たれる言葉」、更新は18日(火)です。お楽しみに。
さりげなく思いやりが伝わる大和言葉
大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。
美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。