嫌われ者の世界チャンピオン・青木真也をジェーン・スーが読み解く。
けなされようが、変人扱いされようが、空気を読まずに生きていく極意とは?
「この人は信用しよう」と思った
―お二人はどういうつながりなんですか?
スー もともと私が青木選手のファンでした。日焼けにタトゥーみたいな格闘家に多いタイプの外見ではないのに、圧倒的に強いのが、面白くて。
青木 狂気はありますよね。
スー で、DREAMでの試合を見に行った何回目だったかな、全試合が終わったあとすべての出場選手がリングに上がったんですね。
その時青木さんが「このあと、物販でサインやります!」みたいなことを突然マイク持って言いだして。
他の選手はその言葉に全然反応してなかったので「出た!この全然、下打ち(合わせ)してないやつ」と思って。「この人、また暴走してる」って思ったんですよ。
―テンションで言っちゃってる。
スー でも、青木さんが率先して物販に立つと言ったのは私が見た限り初めてだったし、「あ、もしかして今すごい経営が厳しいのかな」と。
青木 そうなんですよ。経営を支えるためだった。
スー で、物販に行ったら、既に青木選手の商品は1個もないんですよ。
―売れちゃって?
スー 売り切れちゃってた。
でも、青木さんは他の選手のグッズを笑顔で一生懸命売ってました。なんか、常にヒドいことを言ったりやったりして批判を浴びてるけど、この人の本質がここに表れてるなって思ったんですよ。
その時に、私はこの人を信用しようと。
その時の青木さんの姿をひそかに写真で撮って。今、ケータイ替えちゃったんですけど、当時はその写真を待ち受け画面にしていて、つらいことがあるとそれを見て頑張るみたいなことをやってたんです。
青木 いい話。
根性論は信用しない
スー 本(「空気を読んではいけない」)を読んでみて、青木さんが冷静に物事を見て考えていることは分かりますし、
実際に青木さんの口から、勢いだけでどうにかしようっていう話は聞いたことがないんですよね。
青木 博打は極力しないようにしてます。
スー でも、一般社会の多くの働く人たちが、勢いで物事を決める上司に困ってるんですよ。
青木 ああ、分かるよ。
スー 何の予見もできない、かつ、計算もできないから取りあえず一点突破でしょうみたいな。
青木 格闘技界にもありがちな「熱い情熱論」みたいな。
スー 単純にじっくり考えるのが面倒くさいとかでね。
青木 ブラック企業的な感じですよね。
スー ブラック企業じゃなくても、普通の会社でいっぱいあると思いますよ。
振り回されてる人すごく多い。青木さんみたいな論理的な思考を、どうやって身に付けるかですよね。
青木 納得しないことをしない。自分で合点がいかないことは。
スー なるほどね。
青木 俺の場合、合点がいかないことができないんだよ、怖くて。「これをやっていれば上達する」みたいに流行っているトレーニングは絶対にできない。
スー 周りがやってることをやらなくて、失敗することは怖くないですか?
青木 当然ミスもありますけど、その中でミスも修正しつつ、自分でアレンジしていく。
「俺はできる!」と自分に嘘をつかない
青木 基本的には自分を信用してないから。常に考えながらやってる。
スー 等身大の自分を知るのが大事なんですかね。
青木 自分をちゃんと見る。「俺はできる!俺はできる!」って自分に言い聞かせて、試合したこともあるよ。
でも、そうなると超怖いんだよ、直前で。
スー 「もしできなかったら?」って怖くなる?
青木 直前でなるんだよ。それも、ぐわーって集中しているときに、「やっぱ駄目だ…」みたいに。
だったら直前まで、自分の弱さと向き合えばいいんだと。向き合ってせめぎ合っていけばいいんだって思うようにしていて。
本当怖いんだよ。「うわ、やっぱ無理だ」みたいになるからさ。
スー つまり、青木さんは「できる!」と過信しているわけでも、「できない…」と自分を低く見積もってるわけでもない。
自分の正しい価値が分かっているから、次にいく道筋も平熱で見られるというか。
自分の等身大はどうやって知ればいいんですか?
青木 書き出せばいいじゃないですか。例えば戦績で言ったら、全部出てくる。このくらいのレベルの選手には勝てる。ここは負ける、とか全部分かる。
スー そうか。サラリーマンも戦績出そうと思えば出せますからね。
青木 出るじゃないですか、スペック。
スー ここで入社したのはこれぐらいの会社、このとき転職、失敗とか成功とか。昇給とか。
青木 自分がなにをするべきかを知るためには、まず自分の本来の力から目を背けないほうがいいと思いますよ。
他人の期待は背負わない
スー 答えづらいかもしれないですけど、なんで一部の人にこんなに嫌われると思います?
青木 理解できないからでしょう。
スー どこが理解されないんだと思いますか? 理解できない人だからって、そんなにみんな嫌われないですよ。
青木 何なんだろうね。
スー 「青木氏はなぜ嫌われるのか会議」ですよ、これは。
青木 なんで嫌われるんだろうね。
スー 空気を読まないからっていうのはあると思うんですけど。
―言ってしまえばそうですね。
スー 言ってしまえばそうなんですけど、青木さんの何が嫌われてると思います?
「わー」って罵詈雑言が来るじゃないですか。ツイッターでも、いちいち相手にして、何やってんだと思いますけど。
青木 でもなんか「うるせえ、ばか!」みたいなとこなんで、あいつらは。
スー うん。でも、自分の何がいらいらさせるんだと思います? アンチを。
青木 「こいつ俺のこと嫌いだな」とか大体分かるんです。だったら、こういうことしたらもっといらいらするな。「ヒッヒッヒッ」ってからかったりするけどね。
スー よりいらいらさせる?
青木 させる。
スー なんか格闘技は、私が見てきた本当に短い期間で個人的に感じたことなんですけど(ここ必ず太字にしてくださいね!)、自分が果たせない男気とか夢を、ファンは選手に投影するじゃないですか。
青木 うん。
スー つまり自分だったらやらない損することや、怪我するかもしれない危険なことを「男気」でやり抜いてほしいって期待がどこかにあるのかなと。エンターテイメントとして。
だから、青木さんが「俺は食えなくなってもUFCに挑戦する!」とか言ったほうが熱狂的なファンが付くんだと思うんですよ。
青木 うん。付きますね。
スー だけど、青木さん、それ全部かわすじゃないですか。
―桜庭さんがスターになったのは自分より身体が大きい選手に、ボコボコにされながらも立ち向かっていったみたいな部分を大きいですよね。
スー 無理めなことにも挑戦し、失敗しても立ち上がるみたいなことが熱を生むのかな。自分の代わりに頑張ってくれる人、自分の代わりにつらいところをやってくれて、しかも、つらいところをやった後につらいよって言わないでぐっと立ち上がってくれる。
その時、ルサンチマンがカタルシスに変わるんだろうけど、青木さんはそれをやらないですよね。
青木 そりゃそうだよ。
―感情移入できないですよね、青木さん。そういう意味では。
青木 俺、つらいんだもん。俺が、つらいんだよ。
スー 青木さんは感情移入ができないっていうのはありますね、確かに。
青木 だって、俺がつらいんだよ。つらいのにつらくないなんて言えないでしょう。つらいんだから。
スー あと、分かってもらおうと歩み寄ることはしないのもありますね。
―あえての、あまのじゃくみたいな。
スー うん。分かってもらうための言葉じゃなくて、「バカは分かんなくていいや」みたいな言葉の使い方をするから……。
手のひらを返され続けてきた
青木 いや、やっぱね、あいつら裏切るから、平気で。
スー まあね、そうね。それはそうね。
青木 スーちゃんも多分、手のひら返されるよ。これから。
スー 分かりますよ。私、レコード会社で働いていたときにアーティストで見てきたから。
―青木さんは、もう何回も失望したんですよね。
青木 何回もね。あいつら離れたのにすぐ返ってきたみたいな。手のひら返しの連続だよね。
―それファンですか?
青木 関係者も含めて。でも、賢いやつは、手のひら返してきた連中をもう一回抱きしめるんだよね。でも俺は「もう来んな!」ってやるから。
スー でも関係者にも嫌われたら、青木さんがもし弱くなったとき、一斉にぼこぼこに言われますよ。
青木 それは、しょうがないじゃん。結局、格闘技は、「強い、弱い」「勝った、負けた」にしか価値はないので。
―その割り切り方がすごいですよね。
学校中にいじめられた幼少期
スー 本にありましたけど、小学生のとき、一人だけ机に向かって給食を食べさせられたり、先生から教室に置き去りにされたりされてたんですね。今だったらちょっと問題になってますよね。
青木 そうだよ。学校中にいじめられてよう。でもね、すげえ気が狂ってたんだよね。やっぱある種の病気だったんだろうなと思うのは、いじめられてることを認識してないもんね、当時。
スー でも、ひとりにされたら寂しいよね。
青木 いや、今それを客観的に見ると傷つくと思うんだけど、その当時バカだから、教室に一人にされても、「いいな自由だぜ」ってどこか行っちゃった。
スー うーん、傷つくは傷つくと思うんだけどなぁ。
青木 やっぱ今思うと、すごいタフだったと思うよ。最初は壁に向かって給食食わされてても、途中から勝手に給食食い始めるからね。分かるでしょう?
スー 分かんないですよ。「分かるでしょう?」って言われても何も分かんない。
青木 だから、今思うとやっぱ病気だったんだって、俺。
スー 最終的にそれが強い個性になって一本独鈷でカネを稼ぐ武器になるっていうのがすごいですよね。
青木 だから、良くできてるんですよね。普通に働けないから、やっぱ僕、これ(格闘技)やってるんで。
スー 「そんなことないですよ」って普通は言うんですけど、青木さんに関しては…。
青木 言えないでしょ?
スー 「はい、そうですね」って言うしかないです。
―警察官に1回就職して、研修のときに自分が壊れると思ったんですよね?
スー なんでそんな規律の厳しいところに入っちゃったんだっていう。
青木 いや、警察まじ厳しいっすよ。
―でも良かったですよね。研修でやめて。警官として世に放たれてたらやばかったかもしれない。
スー かなり危険な警察官ですよ。
友達なんて作るな!という父の教え
―本の取材で一番衝撃だったのは、青木父の教育方針ですよね。「なんで友達なんてつくるんだ」って父親に言われたっていう話。
スー 「友達なんか切っていけ」って。そんなこと言う親いるかって話。
青木 言われたのは、「おまえ友達、友達って言うけど、おまえが困ったときに助けてくれるやつなんかいねえぞ」って言われたんだから。
―それ子どもに言わないですよね。
青木 びっくりしたよね。
スー うん。
青木 だから、青木家家訓は「絶対に保証人になるな」とかってこと。
スー この本を読んで、励まされる人たくさんいると思いますよ。ただ、励まされるけど実際にやろうと思うと…。
青木 無理、無理、無理。
スー うん。一歩踏み込んだら、茨の道だっていうのに気が付くと思うけど。
青木 結局俺は、ちょっと普通ではないんですよ。今でも検査したら何かに引っかかちゃうと思うの。
スー でも、それが個性になったんですね。
青木 はい。どうにかなりそうな人間でも、生きていくことはできるし、世間の空気なんか気にしてもしょうがないですよ。
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