『空気を読んではいけない』が格闘家の本としては異例のベストセラーとなっている。今回は同じくベストセラー作家である格闘家・須藤元気氏との異色対談が実現した!!
青木真也は現代の宮本武蔵だ
―今回の『空気を読んではいけない』は、長島☆自演乙☆雄一郎戦で解説の須藤さんが「青木選手の空気を読まない感じいいですね」って言っていたのを思い出して、タイトルを決めたんです。
須藤 ああ、あの試合、良かったっすね。
-魔裟斗さん隣でかなりムカついてたじゃないですか。
須藤 そうですね。ガチでいらついてて。でも、やっぱ名勝負ですね。
青木 あれは良かったんすよ。
須藤 やられ方も最高でしたよ。記憶に残りますもんね。
青木 いまだに燃えてますからね。
―須藤さんから見て、青木選手はどんな印象ですか?
須藤 日本のトップファイターですよね。ダントツで。やはりいろんな人からも青木選手は別格だっていうのを聞きますし。この本を読んで感じたのは、青木選手は宮本武蔵だなってことです。すごく孤高で。
宮本武蔵は天下統一しなかったけれど、イチ人間として道を極めるっていうことを選んだ。そういうところも似ている気がします。
じっとしていられない性格
須藤 本を読んでみて、すごく共通点があって。青木選手は嫌がるかもしんないですけど、子供の頃とか、すこし多動症的なとこがありますよね?
青木 そうなんすよ。
須藤 僕もそうなんです。
青木 ああ、椅子に座ってられなかった人だ。
須藤 そうっすね。今でも長期的にやらなきゃいけないことがあるとしても、今思いついたことがあれば、そっちをやっちゃう。
青木 ああ、分かる。
須藤 読んでて「ああ、すごい似てるな」って言うか。やっぱり学校になじめなかったとことかもすごく一緒ですし。
対戦相手の選び方
―お二人とも、記憶に残る試合が多いですが、青木さんは、リングで向かい合ったときに絵になるかどうかを気にしてますよね。
青木 それはあるっすね。そうしないと、儲からないですからね。
須藤 絵になるって言うか、僕は勝てる相手と基本やってましたね。この相手厳しいなって思う人は避けてました。
青木 ああ、それ分かる。
須藤 マッチメイク相手選びだしたきっかけ、僕かもしれない。何人か候補を出してもらって「この相手だったら怪我しないだろう」とか考えてました。
青木 俺も強いのとはやりたくないんですよ。
須藤 え、ほんとですか。
青木 いや、ほんとにほんと。だって負けんだもん、絶対。
須藤 負ける相手なんかいるんですか。
青木 だってUFC行ったら絶対負けるでしょ。
須藤 負けますか?
青木 だから行かないよ、絶対。
須藤 でも普段はリスクを回避していても、ここは命を懸けないといけないという場面が必ずありますよね?
青木 はい。でも、勝負どころは1回、2回でいいんすよね。全部勝負したら毎回ギャンブルになっちゃうから。
須藤 そうですね、おっしゃる通りです。でも、僕はお世辞で言うわけじゃないですけど、青木選手はUFCでも勝てるような気はするんですけどね。
青木 みんな言うんだよ、それ。
須藤 だって寝技で終わらせる力は強いじゃないですか。1発目にタイトルマッチで、じゃんけんぽいってやったら勝てる感じはするんですよ。
青木 それはあるかもしれない。でも1発勝負はないじゃん。あの世界観の中にイチから入んなきゃいけないのはきつい。
須藤 確かにそこに入る必要はないかもしれない。
時代に愛された男と時代に乗れなかった男
青木 須藤さん、MMA自体は20戦ぐらいしかしてないっすよね。
須藤 20戦やってないですね、僕。
青木 ですよね。それがさすが。
須藤 どんなものにも、必ず導入期、成長期、成熟期、衰退期っていう四つのサイクルがあるんです。で、導入期に僕は格闘技に興味持って、成長期にデビューして、成熟期にテレビとかに出始めて、衰退期に入る前に僕は抜けたっていう。
青木 そう、いいところで。
須藤 青木選手はちょうどあれですよね。
青木 そのブームの残りカスを食い続けてるわけです。
須藤 でも衰退期でも、青木選手みたいにほんとに強い人は生き残ってる。
青木 僕の場合、国内がダメになって、海外が急に伸びてきたのに乗れたんで、良かったですけど。
須藤 ここ数年、国内は下りエスカレーターを頑張って上ってる状態ですよね。なんとか頑張ってるけど。そこでうまく海外に行ったのはうまいですよね。
青木 どうしようもなかった日本。あいつらしょっぱいんだよ。
須藤 具体的に何がしょっぱいんすか。
青木 金がしょっぱいんです。
須藤 まあ国内だとやっぱり厳しいっすよね。
青木 厳しいですよね。
須藤 日本は数字(視聴率)がとれるかとれないかでギャランティが決まるから。だから日本のマットに青木選手は合わない。
青木 そうなんですよ。ファンからは「日本のリングに上がってくれ」って言われるけど、それは主催者に言ってくれよって。俺がアジアで貰ってるギャラを彼らが出せないんだから。
「感謝」と「殺意」、対極の格闘技愛
須藤 本の中の言葉は、終始ネガティブですよね。「人と食事をしてはいけない」とか。そこが面白いなと。
青木 基本、ネガティブですね。対戦相手のことをネガティブに思って試合しないですか?
須藤 相手のことは思わなかったですね。思うんですか?
青木 僕は思うんですよ。「あのやろう殺してやる」って。
須藤 ああ、そうですよね。インタビューとかでもそう言われてますもんね。
青木 実際に殺してやろうとか思うからさ。
須藤 宮本武蔵だよな。
青木 「殺意」を相手に抱きますからね。「殺気」っていうのは、誰でも出せると思うんすよ。でも、「絶対に殺してやる」って「殺意」までいかなきゃだめなんです。
須藤 あ、それは意識的にスイッチを入れて?
青木 もう淡々と。「殺してやろう」みたいな。
須藤 真逆っすね。僕は試合の時は必ず手土産持って行きましたね、相手に。終わったら必ず控室に「今日ありがとうございました」ってします。
青木 いや須藤さんは感謝とかおっしゃられてて…。僕とは真逆なんですよ。
須藤 そうなんです。面白いですね。
青木 僕は、試合に勝ちたいとかではなく、物理的に相手の命を断ちたい。でも、それは出来ないから、せめて相手の人生を全否定したい。
でも僕、気が付いたんです。結局腕を折っても身体は治るし、精神をぐちゃぐちゃにしても気持ちは戻ってくる。だから終わらない闘争だなと。
須藤 戦いの螺旋から下りられない感じで。
青木 そうです。だからずっとやめられなくて。「川尻このやろう!」って歩けなくしても、また戻って来ちゃってるじゃん。時間経てば「世界目指す!」とかまた言い始める。
「全部つぶしてやった」と思ったのに、結局戻って来ちゃってる。そうなると、「くそ、また潰してやる」って思って。これ永遠に戦いが終わらないんですよ。
須藤 苦しくなりますよね。
青木 つらいんです。でもやっぱりその戦いの螺旋の中にいることが楽しいんですよ。
須藤 ほんと何度も言いますけど、宮本武蔵というか。引退は考えないんですか?
青木 もう引退したらなんもしたくないです。引退した翌日に死にたい。この本でも書いたんですけど、とにかくずっと練習して、戦っていたいんですよね。
須藤 青木選手は本当に格闘技が好きなんですよね。本を読んで、青木選手の朴訥さみたいな、不器用な格闘技愛をすごく感じました。今度シンガポール言ったとき、よかったら練習させてください。
青木 おー是非。来てください。
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