10月7日(金)に創刊された書き下ろしミステリー電子書籍レーベル“幻冬舎plus+ミステリー”。そこで発売された7作品のプロローグを、毎日1作品ずつ無料公開いたします。5日目は大門剛明氏最新作。事件の裏に隠された想い――怒りや悲しみに光を当てる、それが新聞記者だ。
書籍紹介
大門剛明『アンダードッグ 箱乗り』
通常価格200円(税別)期間限定価格100円(税別)
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俺は大手新聞社の地方支局に勤務する新聞記者。そう言えば聞こえは良いが、最近ではうだつがあがらず、ライバルに出し抜かれて空回りばかり。そんな鬱屈した日々の中、俺はあの男と出会った。かつては大手新聞社のエースで、今はゴシップ記事で食いつなぐ男。負け犬。俺も最初はそうバカにしていた。そいつのせいで俺は、記者生命すら危うくなるような事態に陥ってしまう。だがその事件の裏には想像すらできなかった悪意が眠っていた……。横溝正史賞受賞作家が渾身の思いを込めて書き下ろす、ジャーナリズム・バディ小説!
プロローグ
ジャーナリズムとは何かって?
あんたの問いには俺なりに答えることはできる。知っての通り、俺も一応、ブン屋の端くれだからな。ただしうだつのあがらない一地方記者で、ライバルに出し抜かれて空回りばかりだ。新聞記者はよく犬にたとえられるが、俺はただの野良犬。取材相手に対したとき、もう少し空気を読んで訊けばいいのに、つい暴走してしまう。自分でも気づいてはいるんだが、この性分はどうしようもない。まあ、ジャーナリズムとは何かって問いはよく自分に向けても発するよ。記者クラブにこもって作文したり、お偉いさんにこびてリーク情報をもらったり、そんなのはジャーナリズムでもなんでもないだろってね。
だがそんな鬱屈とした日々の中、俺はある一人の男に出会った。
見るからにうさん臭い男で、そいつは自分のことを一流のジャーナリストだと言い張っていた。もちろんそれは大言壮語。確かにそいつはかつて大手新聞社でエースと呼ばれていたが、今は業界に見放されて見る影もなくゴシップ記事で食いつないでいる男だった。負け犬。俺も最初はそうバカにしていた。だが今、そんな気持ちは消え失せた。それはそいつと共に色々な事件に向き合って、その生きざまに触れたからだ。そいつの事件への嗅覚、向き合い方は尋常ではなく、独自のやり方で誰にも解けない事件の核心に迫っていった。もちろん綺麗ごとじゃない。汚い金も使うし人も騙す。ねつ造だってお手の物だ。それでも不思議と、そいつの正義は揺れているように見えなかった。何故そこまでやるのか。ある日、俺はそう問いかけたが、まともな答えは返ってこなかった。
最初の問いに戻ろう。ジャーナリズムとは何か……だったな。話の腰を折るようで悪いが、俺にもはっきりとした答えはない。お行儀のいい答えが欲しけりゃ、辞書でも引けばいいだけだし、面白みのない回答などあんたは求めていないだろう。事件に向き合うとき、そいつは俺にこう言った。ジャーナリズムってもんを見せてやるって。ジャーナリズムとは何か……言葉でははっきりこうだって言わなかったが、行動を通じてそいつの答えは推察できる。例えば殺人現場で犯人の車を見たとしよう。それは黒い車だったとする。だが白い車だったと証言しなければ殺される。バカ正直に答えれば犬死にだ。こんなとき、あんたならどうする? 命を懸けられるかい? まあ無理だろうな。だがそんな状況でもそいつは知力のすべてを振り絞って向かっていった。まるでそれがジャーナリズムであるとでも言わんばかりに。
さて前置きはこれくらいでいいだろう。わかってくれただろうが、あんたの問いに答えるためには、そいつのことについて語るのが一番手っ取り早いんだ。これから話すのは俺とそいつ、アンダードッグと呼ばれたジャーナリストの物語だ。
幻冬舎plus+編集部便り
幻冬舎発のオリジナル電子書籍レーベル。
電子書籍ならではのスピードと柔軟性を活かし、埋もれた名作の掘り起こしや、新しい表現者の発掘、分量に左右されないコンテンツのパッケージ化を行います。
これによって紙に代わる新たな表現の場と、出版社の新たなビジネスモデルとを創出します。
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