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ぶらり東京・仏寺めぐり

2016.10.30 公開 ポスト

五智如来が並ぶ「大井の大仏」 如来寺長田幸康

東京には、観光スポットとしても人気の浅草寺・増上寺といった大寺院から、地元の信仰を集め続ける霊験あらたかなお寺まで、大小さまざまなお寺があります。身近なところに意外な歴史を持つ古刹があったり、なんとなく通り過ぎていたお寺に有名人のお墓があったりと、街歩きの目的としても興味深い寺院が、じつはたくさん佇んでいるのです。
自然を残し、静かな時間が流れる境内は、都会の癒しスポット。都内39のお寺を紹介している『ぶらり東京・仏寺めぐり』を片手に、涼しい秋風を感じながらの仏寺めぐりはいかがでしょう。思わず訪れたくなる素敵なお寺を、全6回にわたってご紹介します。

*  *  *

如来寺(にょらいじ/天台宗)

五智如来が居並ぶ「大井の大仏」。
福々しい布袋様と、隠れキリシタン伝説

 

仁王に守られた瑞應殿

 

 品川区西大井の住宅街で、意外なほど大きな大仏たちに会える。その名も「大井の大仏」。「だいぶつ」ではなく「おおぼとけ」だ。

 山門には「大佛 如来寺」の石碑と「荏原七福神」ののぼり。右脇の路地から境内に入ると、まずは福々しい布袋様の石碑が出迎えてくれる。如来寺はかつて荏原[えばら]と呼ばれたエリアで七福神を祀る社寺のひとつとして、布袋[ほてい]尊を安置しているのだ。

 

荏原七福神のひとつ布袋尊を祀る

 

 如来寺が開かれたのは江戸時代の初期、寛永年間のこと。摂津(せっつ/現在の兵庫県)の仏師、木喰但唱[もくじきたんしょう]が芝高輪に創建した。但唱自身が信濃国[しなののくに]で造立した五智如来[ごちにょらい]像が安置されていたため「高輪の大仏」と呼ばれた。

 現在の地に移ったのは明治四十一(一九〇八)年。大正十二(一九二三)年には、上野・寛永寺の塔頭[たっちゅう]・三明院を前身とする養玉院[ようぎょくいん]と合流し、養玉院如来寺となった。

「大井の大仏」五智如来像が安置されているのは、山門を入って一番奥のお堂、瑞應殿[ずいおうでん]。入り口の左右では立派な仁王像が睨みをきかせている。

 

五つの智慧を象徴する五智如来

 瑞應殿の階段を上って中に入ると、目の前に赤茶色に輝く仏像が現れる。高さ約三メートルの坐像が五体、横一列に並んでいる姿は壮観だ。堂々たる蓮華座が目の前に迫り、お堂が窮屈に感じるほどである。

 

「大井の大仏」五智如来が並ぶ

 

 向かって左から、北方世界の釈迦如来、西方世界の阿弥陀如来、世界の中心におわす大日如来、南方世界の宝生如来[ほうしょうにょらい]、そして東方世界の薬師如来が並ぶ。

 正面中央は大日如来だ。如来はすでに悟りを得た存在であり、一般に着飾らない質素な姿で表わされるが、大日如来だけは特別。如来の中の王として、宝冠を戴き、きらびやかな姿で表わされる。

 

五智如来のセンター、宝冠を戴く大日如来

 

 五智如来は密教における五つの智慧を象徴している。もともとは密教の教理に基づいた深遠な定義があるが、庶民には健康や五穀豊穣といった現世利益的な功徳をもたらす存在として広まった。

 

五智如来の手前には、灯篭を支える姿の天燈鬼

 

 なお、薬師如来以外は火災で焼失し、宝暦年間に再建されたものである。

 左手奥には如来寺を開き、五智如来像を造立した木喰但唱の小さな像が控えめに安置されている。産経新聞で連載された「東京風土記」(一九五九~一九六一年)では、但唱は隠れキリシタンであり、五智如来はキリストと四天使の像だったとする伝説を紹介している。

 

如来寺を開いた木喰但唱

 

 密教のパワーと布袋様の福徳、そして意外な歴史ロマンまでが詰まった名刹である。

 

【お寺データ】
東京都品川区西大井5-22-25
[山号]帰命山
[院号]養玉院
[寺号]如来寺
[本尊]釈迦如来
[文化財]九高輪車町及び如来時門前絵図 古文書、紙本着色仏涅槃図 絵画

【アクセス】
都営浅草線 馬込駅から徒歩10分、JR横須賀線・湘南新宿ライン 西大井駅から徒歩10分

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長田幸康

1965年、愛知県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。仏教とチベット文化に造詣が深い。インドでダライ・ラマ14世に出会って仏教に目覚め、チベット寺院に住み込んで理論と実践を学ぶ。現在、日本各地に伝わる仏教説話を訪ねる聖地巡礼に励むかたわら、毎年夏には、チベットに渡航し、仏教文化を巡るツアーの現地コーディネートを担当している。著書に『知識ゼロからの仏教入門』『知識ゼロからの仏の教え』『知識ゼロからのダライ・ラマ入門』(以上、小社)、『仏教的生き方入門 チベット人に学ぶ「がんばらずに暮らす知恵」』(ソフトバンク新書)、『心の安らぎに出合える仏教の教え』(双葉社)、『ブッダに学ぶ生きる智慧』(東洋経済新報社)など。

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