「死んでいく患者も、愛してあげてよ――」
このたび重版も決定した、終末期医療の在り方を問う、現役医師・南杏子さんによる感涙のデビューミステリ『サイレント・ブレス』。
担当編集者が創作秘話を語ります。
二〇一四年の春、人を介して南杏子さんの「境訪問クリニック」という長篇小説の原稿が手もとに届きました。作者が現役医師で、主人公が「看取り専門の女性医師」というところに惹かれて読み始めると、お医者様だけあってのディテールのリアルさ、面白さに加え、文章の上手さでぐいぐい読み進めました。読後、誰にとっても身近な「終末期医療」の在り方について、南さんが伝えたいメッセージの強さに胸を打たれ、なんとかこの作品を形にして出版したい、と思いました。
三鷹駅前(三鷹は主人公・水戸倫子が勤めるクリニックがある場所でもあります)の喫茶店で初めて南さんにお会いしたのは、一四年六月。その日から、「境訪問クリニック」の登場人物たち、作品に込められたメッセージはそのままに、「新しい」物語作りのやりとりが始まりました。連作形式にすること、ミステリ要素を入れること、憩いのお店を入れること、そして、倫子の成長物語にすること……。何度も何度もやりとりし、約二年をかけて、原稿は完成しました。
原稿が完成したところで、次はタイトルです。ずっと「看取りのカルテ」という仮タイトルで進めていましたが、“あの”ベストセラーに似てる? ノンフィクションみたい? ということで、営業部員も交えて話し合いました。そして、南さんのメッセージを表すオリジナルなタイトルということで、「サイレント・ブレス」となりました。その言葉に込められた想いは、本書の冒頭に、医師としての「著者の言葉」で綴られています。
どの作家にとっても、ひとつだけのデビュー作をご一緒できたことは嬉しくも身が引き締まりました。でも、それ以上に、デビュー作を手がけた編集者には責任があります。まずはデビュー第二作を世に送り出すことが、その責任を果たすことだと思っています。
(第一編集局 菊地朱雅子)
著者・南杏子さんより
どんな人にも必ず死が訪れます。老いや病気で自分の体を思うように操れなくなる時期が来ます。「元気なお年寄り」がもてはやされていますが、誰もが終末期を迎えるのです。この小説は、終末期医療と在宅診療の現場を舞台に据え、患者や家族、医療者たちの胸に去来する思いや迷いに目を向けて、ミステリの味つけをほどこした作品です。いつか巡りくる死をどんなものにしたいか、どんな姿が理想なのか──。読者の皆さんが心の準備を始めるきっかけになればと願っています。
(「小説幻冬」2016年11月号より)
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