「内与力」の葛藤と闘いに手に汗握る、上田秀人さんの大人気シリーズ第三弾、『町奉行内与力奮闘記三 権益の侵』。担当編集者が本書の魅力を語ります。
上田さんから「内与力」の話をうかがった際、無知な私は「内与力ってなんですか?」とストレートに聞いた。上田さんは、現代の会社組織の風景にたとえてズバッと答えてくれた。
曰く、「上司と部下に挟まれてあれこれ悩み、無理難題をふっかけられて嫌になるほど困り、陰謀に巻き込まれて死ぬほど苦しむ役目」。秘かに私は「なんか……他人事じゃない」と思い、本書の主人公・城見亨に激しく共感を抱いた。
亨の主は曲淵甲斐守。異例の若さで江戸町奉行に就任した切れ者である。有能な人間によくあることだが、人使いが荒い。自分にも厳しいが、他人にも厳しい。そして、出世欲が旺盛。というわけで、亨に難しい命令が次々と降ってくる。
一方で、亨が監督すべき与力や同心だが、実にくせ者揃い。そもそも、あまり働かない。手柄を立てても出世できないからである。そして、金に汚い。私腹を肥やすことを常に考えている。
腐敗した奉行所を改革したい主と、現状維持のために老獪に立ち回る配下。両者の間に挟まれて右往左往する亨の苦労は、現代人の多くが味わうものと同質ではないだろうか。
言うなれば中間管理職の悲哀だが、それに「わかる!」と共感するばかりが本書の魅力ではない。時は江戸。戦乱の世ではないとは言え、刀の恐怖がある。亨は主への忠義を尽くし懸命に働くのだが、思わぬ恨みを買ってしまい、命を狙われる。本書では、冒頭からいきなり血なまぐさい場面が描かれていてグッと惹き込まれる。殺陣の場面に漂う緊迫感は上田作品の醍醐味の一つ。気づけば手が汗ばむほど興奮している。
正義のヒーロー的な描かれ方をすることが多い町奉行や与力たち。そんな彼らにも出世欲はあるし、保身をはかることもある。対立だってある。そういう「人間臭さ」がクセになること必至の本書、未読の方はぜひ。清廉潔白な英雄より魅力的な人物がたくさん出てきます。知っているようで詳しく知らなかった「町奉行所」の生々しい姿が立体的に立ち上がってくる面白さも味わえます。
(第一編集局 有馬大樹)
この本を読んだら次はこれ!!
後継ぎ。この言葉が持つ意味は、江戸時代と現代とでは大きく違います。何と言っても、「世継ぎなきはお家断絶」の江戸時代。大名や旗本にとって後継問題は常に一大事であり、お家騒動の原因ともなりました。そんな時代の空気を活写しつつ累計46万部の大人気シリーズになったのが上田秀人さんの「妾屋昼兵衛女帳面」(全8巻)。妾奉公する女への情け、その女を見定める冷徹さ、揉め事で体を張る勇気。全てを兼ね備えた山城屋昼兵衛の活躍に惹きつけられます。
(「小説幻冬」2016年11月号より)
担当編集者は知っている!!の記事をもっと読む
担当編集者は知っている!!
「どうしてこの本を書いたのか」を語る著者インタビューや、立ち読みページ、担当者が語る編集秘話等々。新刊のとっておきオモテ話・ウラ話をご紹介します。