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賞味期限のウソ

2016.11.10 公開 ポスト

安売り食品の買いだめは「もったいない」井出留美

「食品ロス」という言葉をご存じでしょうか。まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限が迫っているため流通できないなど、様々な理由で廃棄せざるを得ない食品のことです。
 日本の食品ロス量は、632万トン(2013年度、農林水産省調べ)。世界の食料援助量は約320万トン(2014年)なので、日本は、世界全体で支援される食料の約2倍もの量を捨てている「食品ロス」大国です。しかも、日本の食品ロス632万トンのうち、約半分は、消費者由来、すなわち家庭から出ています。
 新著『賞味期限のウソ――食品ロスはなぜ生まれるのか』で、食品をめぐる「もったいない構造」に斬り込んだ食品ロス問題専門家の井出留美さんが、食品ロスを減らすために消費者に何ができるのかを考えます。

* * *

 

■あなたがどんな人間かは、買い物カゴの中身でわかります


 あるテレビ番組で、ダイエットに挑戦したいという肥満女性の家を訪問するという企画がありました。彼女の家の台所から出てきたのは……20袋くらいに及ぶ、買いだめした同じ食品の山。当然、賞味期限まで使い切ることができないので、捨てることになりました。ああ、もったいない。

 別のテレビ番組では、家の中にどのくらい食品ロスがあるかを調べる企画をやっていました。ある年配女性の家庭には、同じ種類のドレッシングが4本以上、買いだめしてあり、どれも賞味期限が切れていました。家族の人数や、その家でよく作る献立の種類にもよると思いますが、そもそもドレッシングは、そんなに大量に使うものでしょうか。よほど使うのでない限り、同じ調味料を4本まとめて買う必要があるとは思えません。

 お中元やお歳暮を贈る時期が過ぎると、百貨店などで、セット詰めの食品をバラ売りする、「解体セール」「処分品販売」などが行われます。そのような売り場では、缶詰やレトルト食品などを、他の人にとられないように、競うように、カゴいっぱいに入れていく人を見かけます。カニ缶ばかりそんなに大量に買い込んで、使い切れるのでしょうか。日常使いしづらそうな食品を、カゴいっぱいに入れている人を見ると、欲の強さを感じずにはいられません。

 いくらお金があって、全部買い占めることができたとしても、胃袋には限度があります。いくら安売りの商品をたくさん買い占めても、使い切れなければ、結局は無駄になるだけです。
 スーパーやコンビニは、まわりに住んでいる人みんなで共有している冷蔵庫、と考えたらどうでしょうか。自然と、みなで分け合わなければという節度が生まれると思います。

 食に関しては、“You are what you eat.”(あなたが食べているものがあなた自身)(あなたは食べているものでできている)という言葉があります。これと同様に“You are what you buy.”ということも言えると思います。あなたが何を買っているかで、あなたという人間がどのような人かが、わかります。


⇒次ページ「『もったいない』と店を非難する『消費者エゴ』」に続く

 

■「もったいない」と店を非難する「消費者エゴ」


『日本の食と農 危機の本質』
の著者、神門善久氏は、利便性追求の姿勢を見直す覚悟がないのに食の改善を求める消費者の「虫がよすぎる」姿勢を、「消費者エゴ」と呼んでいます。
 たとえば、「食品の価格はできる限り安くしてほしい。そして、店でほしいものが欠品するのは許さない」というのは「消費者エゴ」です。

 スーパーマーケットやコンビニエンスストアには、いつ行っても、どの店でも、たいてい、商品棚にぎっしりと商品が詰まっています。そうするために、食品メーカーも小売業も、手間やコストをかけているわけです。それらのコストは、回り回って食品価格に盛り込まれ、消費者自身も負担しています。欠品を防ぐためのコストをかけているからこそ、いつも店に食品が並んでいる状況を享受できているわけです。ギリギリまで安くしてほしいなら、欠品が発生する事態も許容しなくてはなりません。

 また、「遺伝子組み換えでない原材料を使ってほしい」と言いながら低価格を求めるのも、「消費者エゴ」です。遺伝子組み換えではない、分別した原材料をメーカーが使えば、それだけ原材料費が高くなり、商品価格に反映されるからです。

「味を甘くしてほしい、でもカロリーは低くしてほしい、しかも人工的な原材料は使わないでほしい」というのも消費者エゴでしょう。
 味を甘くするために砂糖を使えば、使った分だけカロリーは増えます。カロリーを増やしたくないなら、低カロリーの人工甘味料を使わざるを得ないでしょう。

 賞味期限の日付が遠いものを選び、賞味期限の日付が近いものは店に残していき、店や企業がそれらを廃棄すると「もったいない」と店を批判する。これも「消費者エゴ」以外の何ものでもありません。

 国際消費者機構が定めている通り、消費者には権利があると同時に責任があります。良質な食品をできるだけ安く買いたいのであれば、生産者や販売者に無理を強いない、無駄や廃棄を生まない消費行動をする責任があると思います。


⇒次ページ「棚の手前にある食品を買いましょう」に続く

 

■棚の手前にある食品を買いましょう


 私が、みなさんに行動に移していただきたいと願うのは、
「賞味期限が近づいている食べ物を買う」
 そのことに尽きます。

 もちろん、一人ひとりの健康状況や食べ物の嗜好、食べ物を消費する速度、ライフスタイル、世帯人数によっても事情は違ってくるし、「賞味期限内のものだからすべて安心」というわけでもありません。
 それでも、これまでなんでもかんでも棚の奥の「賞味期限が遠い日付のもの」を選んでいた人が、そうでないものを買うだけで、世の中が変わります。

 割引シールが貼られている商品だったら、買った人の家計が助かります。
 賞味期限の順番通りに買ってもらえれば、売れ残りによる廃棄が減り、店やメーカーが助かります。
 生ゴミの処理費用が減り、自治体や企業が助かります。
 社会全体も、食品ロスが減って環境負荷が減り、助かります。
 まさに「三方よし」。

 私がお伝えしたいのは、「他人が決めたことを鵜吞みにする、“ひとごと”で“あなたまかせ”で受け身な姿勢をやめ、自分の頭で考え、自分の心で感じ、自ら行動し、自分の人
生を切り開いていく生き方をしよう」ということです。
「他人が決めたこと」は、世の中にたくさんあふれています。
 その一つが、まさに「賞味期限」だと思うのです。

 

井出留美『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』

卵の賞味期限は通常、産卵日から3週間だが、実は冬場なら57日間は生食可。卵に限らず、ほとんどの食品の賞味期限は実際より2割以上短く設定されている。だが消費者の多くは期限を1日でも過ぎた食品は捨て、店では棚の奥の期限が先の商品を選ぶ。小売店も期限よりかなり前に商品を撤去。その結果、日本は、まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国となっている。しかも消費者は知らずに廃棄のコストを負担させられている。食品をめぐる、この「もったいない」構造に初めてメスを入れた衝撃の書!

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賞味期限のウソ

まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国・日本。小売店、メーカー、消費者、悪いのは誰なのか。食品をめぐる「もったいない」構造にメスを入れる。

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井出留美

食品ロス問題専門家。消費生活アドバイザー。博士(栄養学 女子栄養大学大学院)、修士(農学 東京大学大学院)。女子栄養大学・石巻専修大学非常勤講師。日本ケロッグで広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災の折には食料支援に従事する。その際、大量の食料廃棄に憤りを覚え、自らの誕生日であり、人生の転機ともなった3・11を冠した(株)office3.11を設立。日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を委託され、同団体をPRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞や食品産業もったいない大賞食料産業局長賞受賞へと導く。市会議員、県庁職員、商店街振興組合理事長らと食品ロス削減検討チーム川口主宰。平成28年度農林水産省食品ロス削減国民運動展開事業フードバンク推進検討会(沖縄)講師。同年11月、国際学会で本著内容発表。www.office311.jp

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