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映画化!!『アズミ・ハルコは行方不明』

2016.12.01 公開 ポスト

映画公開までカウントダウン連載④

地元&実家暮らしサイコーの同級生たち山内マリコ

地方都市を舞台にした、ヒリヒリ感と疾走感と愛にあふれるガールズ小説『アズミ・ハルコは行方不明』が、いよいよ12月3日から全国公開! 偶然再会した同級生3人が、1ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を遊び半分で探し始めることにーー。
 女の子がこれから幸せに生きていくには、どんな道があるの? そんな問いに寄り添ってくれるこの作品のプロローグから、映画では高畑充希さん演じるキャバクラ嬢・愛菜のお話まで少しだけお楽しみください。

* * *

「いまのでリクエスト送れたかなぁ」
 愛菜は首を傾げながら言って、着物と帯の隙間にスマホをすべらせて仕舞い、「ま、いいや」とひとりごちた。
 立食パーティーが終了時間になるころ、さっきまでいた女子は別の男子グループの元へ消え、愛菜は会場にぽつんと取り残された。ユキオは、愛菜に「二次会行く?」と訊かれても、素っ気なく「決めてない」と受け流しながら、誰かおもしろい奴はいないかときょろきょろしている。愛菜は構ってほしそうに、自分の方をまるで気にも留めないユキオを、上目遣いでじっと見つめた。
「ユキオってさぁ、名古屋でなにしてんの?」
「大学行ってる」
「え!? そうなの!? 知らなかった。そっかぁ、ユキオ、頭良かったもんね」
「全然良くないし。あと、もうやめるかも」
「なにを?」
「大学」
「えっ、そうなんだ。やめてなにすんの?」
 愛菜は次から次へと質問ばかり。ユキオはあからさまにイラついて、「知らん」と吐き捨てる。
 ユキオは名古屋の工業大で建築デザインを専攻していたが、現時点で留年はほぼ確定していた。退学して来月にでもこっちへ戻ってこようとしているから、人脈再生と思ってわざわざこんな式に顔を出したのだが、久々に同級生の顔ぶれを眺めたら、なんだか旧交を温める気も失せた。別に懐かしくもなんともない。あーはいはいって感じ。
「愛菜はいまプーなんだけどぉ」
「ふぅーん」
「でもね、ネイリスト目指してるの」
「へぇ」
 流行りの仕事に飛びついて、簡単でいいな、とユキオは思う。それでいいんだ。そんなんでいいんだ。
 冷たい目で愛菜を見下ろすと、つむじのあたりの違和感が目に留まった。
「え、これヅラ?」
「そうそう、ヅラだよ。あたしほんとはショートだもん、金髪のね」
「ヅラかよ」
「ウィッグって言って」
 愛菜はうれしそうに甘えた声を出す。
「なあ、二次会ってタダ?」
「なわけないじゃん。女子は三千円で、男子は四千円だって」
「ハァ? なんでそんなに値段に差があんの? 差別やん」
「差別って……」愛菜は困り顔で笑い、「男子の方がよく飲むし食べるからでしょ?」と遠慮がちに付け足した。
「無理無理。高けえ! そんなん払えん。つーか払いたくない。オレ帰るわ」
「えー……」愛菜はつまらなそうに唇を尖らせ、「あたし行きたい」と小さく付け加える。
「じゃあ一人で行けば」
「えー……それはちょっと」
「あ、てゆうかお前、もしかして車で来てる?」
「うん」
「じゃあ乗せてってよ。オレ、足ないんだ」
「そうなの? え、車がないってこと? 免許がないってこと?」
「免許がない」
「マジで!? それヤバいね」
「うるさいわ」
 木南愛菜は会場になっているホテルの中の美容院で貸衣装を脱ぎ、ウィッグを外し、こざっぱりしたカジュアルな格好でロビーに降り立った。カラーコンタクトで大きくした瞳と過剰なアイメイクはそのままだが、ふわりと風を含んだ軽やかな金髪のショートヘアのせいで、さっきとはほとんど別人だ。ユキオは「誰?」とふざけて言いながら、外の駐車場へ向かう。
 愛菜の運転する黒いトヨタ・パッソの助手席に乗って、ユキオは国道の景色を眺めた。六時を過ぎると道は混み合って、雨のせいで見通しも悪い。タールを流し込んだようにてらてらとぬめりを帯びて光るアスファルトに、ヘッドライトが鋭く反射する。道の両脇には大型店舗が連なる。相変わらずの、おなじみの景色。
 ユキオが物心つくころには、この景色はもういまの形に完成していた。大型の家電量販店の真向かいに、別の家電量販店がケンカ腰で新規オープン、という小さな変化が時折あるだけで。より遠くのドライバーにも見えるようにと、派手さを追求した看板はなにかのモニュメントのようにデカい。生活に必要なものがもれなく揃う、モータリゼーション版ぼくらの商店街。ユキオはここに戻ってきたら、同級生とばっかつるんで、パチンコ屋に入り浸るであろう自分を想像して、さっそく気が滅入った。
 同級生はみんなここが好きだ。地元サイコーと恥も外聞もなく言い合って、ネットもせず、実家暮らしに満ち足りている。車選びで個性を表現、休日はショッピングセンターに集合。そんで時間が空いたらなにしていいかわかんなくてパチンコ。一人暮らしの名古屋でふらりとパチンコ屋に入るのと、地元でゾンビみたいにパチンコ屋に通うのとでは意味が全然違うんだよ、とユキオは思う。

 

※続きは、明日公開予定です。この連載は、『アズミハルコは行方不明』のp.6~の試し読みです。

 

映画『アズミ・ハルコは行方不明』
監督:松居大悟 脚本:瀬戸山美咲
出演: 蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい  加瀬亮
配給:ファントム・フィルム
2016年12月3日より全国ロードショー
©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
公式サイトはこちら

 

刊行当時の楽しい弾けっぷりは、山内マリコさんとMamiさんの対談『アズミ・ハルコは行方不明』映画公開記念無敵女子対談 女の子Yeah~~☆☆!!!!』(電子書籍オリジナル)でぜひお楽しみください。


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『ここは退屈迎えに来て』『さみしくなったら名前を呼んで』『アズミ・ハルコは行方不明』(いずれも幻冬舎刊)に、山内さんのサインが入った単行本3冊を、セットで2名様にプレゼント! ふるってご応募ください。詳しくはこちらから! 

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映画化!!『アズミ・ハルコは行方不明』

地方都市を舞台にした、ヒリヒリ感と疾走感と愛にあふれるガールズ小説『アズミ・ハルコは行方不明』が、いよいよ12月3日から全国公開! 原作者の山内マリコさんのインタビュー、原作試し読みをお楽しみください。

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山内マリコ

山内マリコ(やまうち・まりこ)
1980年、富山県生まれ。2008年に「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を受賞。12年『ここは退屈迎えに来て』で作家デビュー。主な著作に『さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『かわいい結婚』など。最新作は『あのこは貴族』。

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