エンタメにおいて、パッケージが売れなくなったと言われて久しいです。他方、ライブビジネス(興行)は拡大して好調と言われています。
ライブビジネスは、これからも拡大していくのでしょうか。
音楽が売れない時代、少子高齢化社会、所得不安などの背景の中、ライブビジネスの将来を考えます。
この10年間でCD市場は約半分、興行市場は3倍に
興行市場は、10年間で入場者数が「2.4倍」、市場規模が「3倍」になっています。
CD市場が、10年間で生産枚数が「60%」、市場規模が「約半分」となっているのとは対照的です。
(1)拡大する興行
具体的に、興行ビジネスは、2006年と2015年を比較すると、市場が2〜3倍に拡大していることがわかります。
さらに、興行によるアーティストへの著作権使用料は、10年間で約9億円→約35億円と4倍近くに拡大しています。
2016年も、1〜6月で興行本数は約1.4万興行(前年比96.7%)、入場者数は約1900万人(前年比 96.5%)、売上高は約1100億円(前年比87.9%)と高水準が維持されています。
(データ出典)一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)
http://www.acpc.or.jp/
(2)縮小するCD
他方、音楽のCD市場は、2006年と2015年を比較すると、下記の通り、大幅な縮小となっています。
CD全盛期の市場規模は6000億円、新譜数は1991年に19,384タイトルのリリース。最近は、リリースのタイトル数の減少に比べて、市場規模の落ち込みが大きいのがわかります。
いかにヒットが少ないか、リリース当たりの販売枚数が少ないかがわかります。
(3)拡大しない音楽配信
CD市場が減少する中、期待されるのが有料音楽配信です。新サービスが次々と開始されていますが、残念ながら「着うた」の衰退が大きく影響して、市場は、この10年間を見ると535億円→471億円と減少しています。
(4)反対に増加する新人
CD、音楽配信が共に減少している状況において、新人数は逆にこの10年間で、268組→300組と増加しています。
過去の最多順に、1991年(500組)、1970年(479組)、1971年(458組)、2009年(426組)、1992年(423組)、2012年(417組)となっています。
90年代のCD全盛期、さらに70年代の音楽産業隆盛期に大量の新人を輩出しています。それに匹敵するくらい、2009年以降のCD衰退期に大量の新人をデビューさせていることが興味深いです。
(2〜4のデータ出典)一般社団法人日本レコード協会の統計情報 http://www.riaj.or.jp/f/data/index.html
ネット時代、新しい興行の楽しみ方
興行は多様化しています。従来は音楽ライブ、コンサートや演劇、ミュージカル、スポーツが主でした。
最近はそれ以外に、様々な形態のフェス(各種音楽、飲食、キャンプ、その複合型)、アニメやゲームを題材としたイベントや2.5次元ミュージカル、ランイベント、脱出ゲームなど、従来無かった分野の公演が増えています。
これらに共通して言えるのが、一方通行の鑑賞から参加型や体験型への変化です。
コンサート、ライブ、演劇などの公演は、音楽を聴く、芝居を観ることが目的で、いわば鑑賞目的でした。
ところが昨今は、例えば音楽フェスにおいて、音楽「も」楽しむ傾向が見られます。来場者が仲間と飲食を楽しみ、お喋りし、一緒に写真を撮り、その中に音楽もあるという感じです。
さらに、脱出ゲームなど参加者が主役になるもの、飲食イベントなど食べることを目的にしたもの、演者との触れ合いも魅力の一つである2.5次元ミュージカルなども人気を博しています。これらは鑑賞ではなく参加して来場者が楽しむ公演です。
一方通行の鑑賞型から、来場者も参加してイベントの一部を構成する。
テレビやラジオ時代の一方通行で情報を受け取っていた時代から、ネット時代の誰もが情報を発信できるように変化したのと、とても似ています。時代の変化のような気がします。
エンタメ業界が抱える、ライブビジネスの問題点とは
(1)CD衰退との時差問題
CD全盛期の90年代前後に大ヒットを生んで活躍したアーティストは、今も大規模公演で大勢のファンを集めています。
数百万枚のCDを売ったアーティストの公演は、時代を経過してもCD購入者の一定割合のファンで大きな会場が埋まります。
いわば、その部分については、90年代前後の市場が20年経過した現在も継続していると言えます。しかしこの継続も未来永劫ではありません。
今、音楽が売れない状況で、将来10年、20年先の公演規模はどうなるのでしょうか。単純に考えると、音楽購入者の一定割合が将来も来場するとすると、音楽販売の落ち込みに比例して来場者が減少することが予想されます。
最近でもアイドル、K-Pop、バンド、歌手においても早いスピードで大規模公演に上り詰める方々もいます。ただ、ネット時代のスピードがとても早い現在、10年、20年後に同規模の公演を実現できる方々がどのくらい存在するのでしょうか。
(2)東京オリンピック問題
オリンピック会場の新設問題が、世間を騒がせていましたが、興行でもオリンピックの会場問題があります。
ライブやイベントで使っている首都圏の大型会場か軒並み、オリンピック施設となり、一般利用ができなくなります。
日本武道館、代々木第一・第二体育館、さいたまスーパーアリーナ、幕張メッセ、東京ビッグサイト、東京国際フォーラム、国技館、東京体育館、有明アリーナ、東京スタジアム、横浜スタジアム、他。
どの会場も数千〜数万人も収容する会場で、大型のライブやイベント、フェスに利用されています。
長くて2年間近く利用ができないことは、アーティスト、主催者にとって死活問題であり、この期間をどう乗り切るか課題です。
(3)エンタメの中心層が大幅に減少
従来、エンタメは若者が市場を牽引していました。しかし、ご存知の通り、日本は少子高齢化が凄まじい勢いで進行しています。
現在、10代の人口は、30年前の約半分になっています。
70~80年代にエンタメを支えた60歳代が約1810万人、90年代のエンタメを支えた40歳代が約1840万人です。 それに対して、10歳代が1170万人、その下の世代が約1050万人です。
エンタメの中心層の人口がほぼ半分になる時代を、どう考えるかが課題です。
(4)2割も減少している所得
人口が約半分になっても、支出が2倍になれば、市場規模は現在と変わらないのですが、そんな単純にはいきません。
日本の経済成長が止まり、デフレ時代が長引き、所得は増えないどころか20年前に比べて約2割も低下しています。
平均所得は、94年が664万円、14年が542万円です。しかも平均以下の世帯が高齢者などを除いても6割になっています。
さらに、日本の世界における経済的な立ち位置の後退、増える一方の国の借金など、不安材料がたくさんあります。
所得が減ることが要因で、社会全体の支出抑制傾向が進んでいます。
このような世の中で、人が減り、収入が減り、支出を抑制する時代には、中長期的に見て確実に興行動員数と市場の減少が予想されます。
(データ出典)
総務省統計局
http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm
厚生労働省 国民生活基礎調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/index.html
ネット時代に生き残るエンタメとは
(1)年齢にとらわれないエンタメ
エンタメは若者のもの。 そんな考え方は捨てなければなりません。 前述の通り、今後益々、日本の年齢分布のボリュームゾーンが上がっていきます。平均寿命が80歳を超える現在、実質的な現役世代の年齢層は幅広くなっています。
しかも、70歳代はビートルズやローリング・ストーンズをはじめとしたロック初期世代、60歳〜50歳代はディスコやバブル世代であり、従来のエルダーの概念は当てはまりません。
実際に昨今のイベント、コンサート、ライブ、スポーツ試合の来場者の年齢は上がっています。色々なことを経験してきたこの世代の方々が、益々、ワクワクするような、上質のエンタメ興行が出てくるのが、とても楽しみです。
(2)海外からの来場者
海外から日本への旅行者が、年間2000万人を超えました。2020年には4000万人にすることを政府は目標にしています。
この旅行者、いわゆるインバウンドの方々の日本での行動が、モノの消費(買物)からコトの消費(体験)に移行しています。日本ならではの体験、それは旅館宿泊、日本食、田舎体験だったりしているようです。
残念ながら、そこにエンタメは現在のところ、大きく貢献していません。
4000万人という数字は、リピーターを増やさないと、簡単には到達しません。 外国からの旅行者が多い都市には、人々を引きつけるエンタメがあります。 ニューヨークのブロードウェイやライブハウス、ロンドンのウェストエンド、ヨーロッパの各都市のオーケストラやオペラ、バレエなど。
日本においても、海外の方々も楽しめる興行を増やし、日本に来る目的の一つとすることができるはずです。古典芸能に限らず、日本独特のカルチャー、技、食などを題材にしたイベント、テクノロジーを活用したエンタメなど、多々あるでしょう。
さらに、公演内容だけではなく、海外への情報発信、簡単にチケットが購入できる仕組み、電子チケット、多言語イヤホンガイドやヘッドマウント字幕など、環境整備も進化が楽しみです。
(3)エンターテイナーを育て、エンタメ好きを育てる
音楽不況と言われながら、アメリカやイギリスでは次々と高いレベルの新しい才能が輩出されています。これは、きちんとエンターテイナー、アーティストを育てる環境、さらにそれを受け入れる社会的な土壌があるからだと考えられます。
その欧米のエンターテイナー、アーティストは自国のみならず、世界に活躍の場を広げて、パッケージ販売の減少に対応しています。
日本はどうでしょうか。アーティストやエンターテイナーと言える人よりも、どちらかと言うと話題の人が受ける印象があります。そのような環境では、なかなか中長期的に、作品や興行で日本内外を含めて食べていくことが困難なのではないでしょうか。
エンタテインメント性やアーティスト性が高いエンターテイナーを育てる環境の整備や拡大が望まれます。 そのためには、学べる環境と実演ができる場が増えること必要です。 ネットでの認知拡大も重要ですが、興行は実演の完成度が問われます。
人口減少する日本だけではなく世界に行こうとすればなおさらです。実演の場が増え、実演の機会が増えれば、人々が見る機会が増え、実演のレベルが高まり、さらにエンタメ好きが育っていきます。実演(興行)を中心にした事業モデルの構築が必要かもしれません。
(4)テクノロジーを使った新しいエンタメ
鑑賞型から参加型にエンタメがシフトしている中、観客の皆さんは、聴く・見るだけでは満足いかなくなっています。
テクノロジーを使った新しいエンタメを創り出す動きがあります。 VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を使って空間を作り出し、その中で参加型エンタメを楽しむものです。 テーマパークでもゲームセンターでもない新しいエンタテインメントです。
アメリカ、ニューヨークでは「The VOID」が大人気で、予約が取れにくいほどです。現在はゴーストバスターズのコンテンツです。ヘッドマウントディスプレイと360°ヘッドホンを着けて、迷路のような空間を歩き、ゴーストを撃退していきます。実際には何もない造作の通路ですが、画面上はニューヨークの街並みや、倉庫の中が表示され、ゴーストが立体的に飛び出てきます。
日本でも、今年10月にVR Center(越谷市のイオンレイクタウンmori内)、今年12月16日にVR PARK TOKYO(渋谷)がオープンしました。
現在は、シューティングなどゲーム性が高いものが中心になっていますが、将来は宇宙旅行、スポーツなど多様な新しいエンタメが生まれる可能性を感じます。
前回までの記事はこちらから
<第一回>11月に本格スタートしたSpotify。このままでは日本の音楽定額サービスは駆逐される。
エンタメ×ITの未来
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