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2017.01.16 公開 ポスト

VR(仮想現実)はエンタメの未来を開くまつだかついちろう

2016年「VR元年」からすべてが始まった。


2016年を振り返ると、「VR元年」と言えた年でした。

PlayStation®VROculus Riftなどのヘッドマウントディスプレイが発売され、そのコンテンツである各種VR対応ゲーム、YouTubeのVR対応をはじめとする多数のVR動画サイトが立ち上がりました。また、VR動画を撮影するための360度カメラも各社から発売され、カメラ、コンテンツ、ディスプレイと、入力から表示まで環境が揃いました。

エンタメはこれまでも、常に新しいテクノロジーによって、新しいフィールドを広げてきました。

・蓄音機により録音が可能となり聴く人が増加。
・電気+楽器により、エレキとアンプが開発されライブ会場が大型化。
・シンセサイザーやコンピュータにより、一人でも複数の楽器を演奏。
・ネットにより、個人でも世界同時に安価に発信、発表。
・大型LEDにより、ライブの演出、大型会場での臨場感が向上。
・コンピュータグラフィックスによる演出。
・デジタル音楽による新しいジャンルの創出。

これらは、ビジネス的に言えば売上拡大、コスト削減を実現させ、エンタメビジネスに寄与してきました。
では、VRは今後、どのようにエンタメに影響するでしょうか。

1. どんどん整備されるVR環境


VR(仮想現実)は、映像や音響の効果により3次元空間にいるように感じる技術です。

この一年で、ディスプレイやカメラなどの機器やサイトが劇的に充実してきました。VRのイベントや展示会は、どこも超満員で活況です。
ちなみに、6月に秋葉原で開催されたアダルトVRフェスタ01は入場規制になり、8月に会場を変えて実施したほどです。1月にも大阪で開催予定のようです。

今後、ゲーム、シュミレーター、医療、不動産、アダルトなどの分野での活用が期待されていますが、エンタメの世界でも十分に可能性があります。


(1)VR用へッドマウントディスプレイ


2015年までの主流であり、現在でも安価にVRを楽しめるヘッドマウントディスプレイは、スマートフォンを差し込んで使うものです。サムスン電子とOculusが共同開発したGalaxy Gear VR (2015年発売) や、GoogleのDaydream Viewをはじめ、ネットを検索するとたくさんの製品を見つけられます。

そのような中、2016年は、ベンチャーから大手まで各社から専用ヘッドマウントディスプレイが発売されました。
3月には、Facebookが2014年に買収したOculusがOculus Rift (約9万円) を発売。数年前からKickstarterで数億円の投資を集めて話題になった製品です。高性能で好評です。
また、4月に発売されたHTCのHTC Viveは、12万円するフルセットでVRが楽しめます。
そして、本命とも言えるSONYの PlayStation®VR  (44,980円) が、10月に発売され現在も品薄状態が続いています。


(2)360度カメラ


VR映像を作るには、コンピューターグラフィックスで生成するか、通常のカメラやビデオのように360度で映像を撮影する方法があります。

2016年は、大手からベンチャーまで様々な企業が360度カメラの製品を発売しました。

個人向けの商品としては、iPhoneに差して使えるInsta360のInsta360 Nano (約2万円)、SamsungのGear 360 (約5万円)、日本が誇るカメラメーカー、ニコンのKeyMission 360 (約6万円) などが発売され、とても簡単に360度の映像を綺麗に撮影できます。

また、プロ用は、GoProを6台設置して同期した映像が撮れるGoProOmni (約60万円) をはじめ、Facebookからは利用者がパーツを揃えて自作するSurround 360 (約300万円)、その他、Mini EYE Professional 360 Cameras (約100万円)、HypeVRなど、選択肢が充実してきました。



2. VRを取り込んだ、現代の歌姫Björk(ビヨーク)の実験


(1)世界初の360°VRライブ配信


ソロ活動の23年間、常に新しいことにチャレンジしてきた彼女が、最新テクノロジーを使って、音楽を表現し始めました。

2016年6月から7月まで、日本科学未来館で開催された「Björk Digital – 音楽のVR・18日間の実験」は彼女の音楽をVRで表現した動画の展覧会でした。

6月29日に開催されたオープニングイベントには、ビヨーク本人が登場して、DJ/VJライブを行いました。単なるDJ/VJライブではなく、世界初の「360°VR ライブストリーミング生配信」です。

その場にいるよりも、配信されている映像を見た方が、俄然楽しいというライブ。音楽だけではなく、VR映像もライブでエフェクトをかけながら配信するという新しい試みでした。


(2)制約がないエンタメ


今回のビヨークのように、ある場所でVRライブストリーミングをすると何が起きるのでしょうか。


(a)物理的移動が必要ないライブ

出演者本人が移動せずに、会場キャパを超えたライブが可能になります。ドワンゴ社のニコファーレのように小さい会場でも、数万人に配信することにより、実質的には大会場と同等の”来場者”に見てもらえます。
さらに、本人の移動が少なくなりエコロジーです。


(b)舞台セットに依存しない演出

通常、アリーナやドームクラスになると舞台セットだけで数千万円の経費がかかります。その割に表現できるのは、大型LEDの映像くらいと限定的です。VRを用いると、物理的な空間演出を超えた表現が可能です。そのため、演出は無限大に可能性が広がります。こちらもトラック、船、飛行機などの輸送が最小限ですむのでエコロジーです。


(c)VRセンターや個人宅がライブ会場に

VRを視聴できる場所や、個人でVRヘッドマウントディスプレイ+360°ヘッドホンを所有していれば、そこがライブ会場に変わります。日本に居ながら、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンや、ロンドンのO2アリーナのライブをあたかもそこに居るかのように楽しめることになるでしょう。
今までもライブのストリーミング配信や、映画館で観るライブビューイングがありますが、臨場感、没入感が全く別のものになるはずです。



(3)新しいワールドツアー


ライブ会場(劇場)という、物理的な制約を取っ払って、世界に対してVRライブストリーミングを配信することが可能になります。しかも、チケットは、自国のチケット会社という制約なく、世界のどこにいても入手できます。

今後、このようなライブストリーミング配信は、ライブ会場と同等の位置付けになることでしょう。大量の動画を配信できる強固なネットワーク、課金機能があれば実現可能です。

現存する事業者として世界規模で可能性があるのは、Amazon、YouTube、Apple、Googleなどが考えられますが、日本の事業者にも全く可能性がない訳ではありません。


3. 参加する人がエンタメの主役になる


VRとAR(拡張現実)のテクノロジーを使った新しいエンタメが生まれています。
ヘッドマウントディスプレイの中で、仮想と拡張された空間を作り出し、その中で参加者がエンタメを楽しむものです。 テーマパークでもゲームセンターでもなく、現在の定義的には、いわゆるアミューズメント空間ですが、今後の発展性によって、新しいエンタメ空間になっていくと考えられます。


(1)アメリカの未来のエンタテインメント・パーク


アメリカ、ニューヨークのマダムタッソー蝋人形館内にある「The VOID」が大人気です。入場料は59ドルで予約が取れにくいほどです。現在は、ゴーストバスターズのアトラクションを楽しめます。
そのThe VOID社が2017年にソルトレイクシティで大型のVRエンタテインメントセンターをオープンする予定です。様々なコンテンツの体験をVRで実現するとのことです。


(2)日本でも続々とオープンするVRエンタメ・パークの場所


日本でも、2016年10月に越谷市のイオンレイクタウン内にVR Centerがオープンしました。 乗馬レースに参加したり、街中を空中コースターで旅したり、ドラゴンをやっつけたり、恐竜の世界に行ったり、ジャンプして落下したり、シューティングゲームがあったりと、さまざまな疑似体験ができます。一つの遊びが約600円でできます。

また、2016年12月16日に渋谷にVR PARK TOKYOがオープンしました。野球、魔法の絨毯、シューティング、ホラー、バトル、バンジージャンプなど、ゲームや疑似体験ができます。入場料は一人3,300円、二人で入場の場合は一人2,900円。今後、人気になることが予想されます。


(3)未来のエンタメ


現時点では、ヘッドマウントディスプレイの技術的な制約や、コンテンツ制作のコストから、ごく初歩的なエンタメになっていますが、今後、テクノロジーがもっと進み、さらにさまざまなアイディアが生まれることによって、今まで夢と思っていた様な体験ができるエンタテインメントが生まれるでしょう。

例えば、だれでも地上に居ながらにして宇宙旅行ができたり、カラオケボックスに居ながら武道館のステージで一万人の前で歌えたり、大リーグのチームと野球の試合ができたり、錦織選手とテニスの試合ができたり、体が不自由な方でも秘境の冒険ができたり、千年前の街を訪れるタイムトリップができたり、住んでみたい家に住む経験ができたり、世界旅行ができたり、遠出しなくても遊園地で遊べたり、ペーパードライバーでもF1レーサーになれたり、自家用飛行機がなくても飛行機を飛ばせたり、酸素ボンベがなくても深海に行けたり、、、、、、、。楽しみです。


前回までの記事はこちらから

<第一回>11月に本格スタートしたSpotify。このままでは日本の音楽定額サービスは駆逐される。

<第二回>この10年で市場は3倍、好調なライブビジネスの影に隠れた本質的な課題

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まつだかついちろう

チケット会社イープラス 執行役員。 ニューヨーク、渋谷、ロンドン、つくば、バンコクで育つ。 早く起業したくて、通信の自由化を受けて設立された新電電の国際電話会社でバブル時代に社会人をスタートする。 最初の仕事は、海外政府との事業接続交渉。入社後3年間で訪問した国は20か国を上回る。 1993年、インターネット黎明期にネット企業を創業し、日本で3番目のプロバイダー、日本初の大規模データセンターの事業を立ち上げる。 1996年に親会社に戻り、国内電話会社との合併交渉と、合併後の事務局運営を行う。 1997年から、ニューヨークに渡り米国での事業を立ち上げ。企業買収も行い事業展開を進める。 2001年に帰国し、大手ADSL企業の役員になるとともに、外資系企業に買収された電話会社の事業再生プランの策定プロジェクトに従事する。 2002年にソニーに転じ、ネット・メディア事業の戦略を担当する。盛り上がったネットシフトの後片付けも行う。 2006年から、ソニー・ミュージックエンタテインメントにて、ミュージカルやイベントの新規事業を行う。 2011年からイープラスに。現在は、同社のマーケティングと顧客関係を担当。同社をエンタメ界随一のIT企業にするべく、様々な新しい取り組みを行っている。 プライベートでは、ヨガ指導、リンパ施術の他、登山、畑仕事、料理を好む。

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