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幻冬舎plus+編集部便り

2016.12.29 公開 ポスト

年末の疲れたカラダを「断食」で立て直す尹雄大

週末断食や断食道場など、いつのまにか一般にも普及しはじめた断食。実際、カラダはどんなふうに変化を遂げるのでしょうか?

尹雄大さんの人気連載「カラダの機嫌をとってみる」に書き下ろしを加えた電子書籍『断食で変わったボクのカラダ』は、武道に精通し、身体に関する著作も多い、尹さんが、自身で試した1週間の断食の記録です。食欲、行動、気持ちの移り変わりを抜粋してお届けします。

(*電子書籍は、Amazon Kindle、楽天Kobo、iBooks Store等の各電子書店でもお求めいただけます)

第1回
「断食」でカラダの声が聞こえるようになる

■カラダが得意なのは「感じること」

 はじめまして。尹雄大(ユン・ウンデ)といいます。もの書きをしています。

 子供の頃から「心とは何か?」とか「自分が自分であること」の根拠だとかに興味があって、気づいたらそういうことをテーマに書くようになっていました。ちまたでは心身論といった哲学の話になるのでしょう。

 本書もその界隈の話になると思います。ただし「論を語る」ようになると、どうしても実際の心やカラダを離れてしまいがちです。それはそれで楽しいのは確かです。飛行機が離陸したときのふわっと浮き上がる感覚にも似て、軽やかさを覚えますからね。と同時に浮足立つと言いましょうか。語ること自体が論点になってしまうような、地に足のつかない話にもなりがちです。だから、ここでは、「私の感じていること」を置き去りにしないようにしたいと思っています。

 まずは連載時のタイトル「カラダの機嫌をとってみる」の説明です。

 私たちは「菜食のほうがカラダにいい」だの「あれよりも流行りのエクササイズのほうが健康にいい」「心の平穏さには欠かせないアイテム」だとかを取り入れ、実践しています。誰もがよかれと思って。それって心身論みたいな抽象的なことじゃなく、とても具体的なことだと思っているでしょう。

 けれども、よくよく考えると「論を語る」ことに夢中になっているのと、あんまり変わらないくらいの浮世離れしたことなんじゃないかと思うのです。情報だとか知識だとか、頭で理解したことをカラダに命じているだけで、実はすごく抽象的。それをあまり疑わないのは、仕事でも家庭でも「自分のカラダに命じること」をごく当たり前にやっているからです。つまり私たちは「自分自身に言うことを聞かせる」ことにすごく熱心です。

 皆さんも経験があると思うのですが、親に「言うことを聞かせ」られたらどういう態度をとりましたか。最初は泣いてダダをこねたでしょう。もう少し年をとると嫌々応じた。思春期あたりになると無視する。心を閉ざすといったふうになったのではないでしょうか。私たちのカラダもそうなっているんじゃないか。あまりにも「あれがいい」だの「悪い」だの言われすぎて、心を閉ざしているんじゃないかと思うのです。

 そこで「機嫌をとってみる」です。おもねったり媚びるのとは違います。あまりにも無視しすぎたから「いろいろこれまですいませんでした。ちょっとお話を聞かせてくれませんか」と様子をうかがってみようと思います。最初はぷいと顔を横に向けているかもしれませんが、そのうち恨みつらみも含めてしゃべり出してくれるんじゃないかと思っています。

 そのためにもちょっとこちらは黙って相手の話を聞かなくちゃなりません。さんざん論じてきたのだから、カラダに自らを語ってもらう必要があります。カラダが得意なのは「感じること」です。それに耳を傾けたいと思います。

 話のきっかけとして、世間で「良い」「正しい」とされていることや自分なりの工夫を行い、感じたことを表していこうと思います。それなら「言うことを聞かせる」のと同じじゃないかと思うかもしれませんね。決定的に違うのは、「良い・正しいとされているから望ましい結果を求める」というゴールを目指すのではなく、「何を感じているか?」というプロセスへの注目です。世間で「良い・正しい」とされていようが関係ない。誰とも取り替えのきかないこのカラダは何を感じているのか? 何を伝えようとしているのか? に関心を注ぎたいと思います。ゴールを目指すのは答えのようなものを誰かが言っているからでしょう。でもその誰かは私ではないので、その答えのようなものは本当は私には当てはまらないはずです。

 そこでまずカラダの声を聞くべく試みたいのは断食です。「食欲は本能なんだから、食べないという選択はそれこそ自分に命じることじゃないの?」という声も聞こえてきそうですし、いきなり話題としてハードだと思うかもしれません。ちょっと理由を聞いてください。

 私は食いしん坊です。ついつい食べてしまうのです。しかもガツガツとした早食いです。前々からこの自分のがっつきは不思議だったのです。それが原因で子供の頃は肥満体でした。股ずれが起きるため内股にオロナイン軟膏を年中塗っていたものです。

 がっつくのは食欲と気持ちのペースが合っていないからです。「早く食べなくてはいけない」というどこから起きるのかわからない焦りに煽られてしまう。だから不必要に早く、たくさん食べてしまう。早く食べ終えるというタスクは達成できますが、ゴールまっしぐらで満腹になってもなんだか満ち足りない。だからついデザートもまたたらふく食べるといったことになってしまう。これってよく考えると食欲を満たしているのではなく、自分の頭の中のイメージを満たそうと必死になっている。でも実体がないから、いつまでも飢餓感がつきまとってしまうんじゃないか。そう思い至ったのです。

***

続きは、電子書籍『断食で変わったボクのカラダ』をご覧ください。

(目次)

第1回 「断食」でカラダの声が聞こえるようになる
■カラダが得意なのは「感じること」

第2回
不安を見つめるために「断食」に踏み切った
■小袋のお菓子で埋める私たちの「寂しさ」

第3回
「断食」とはカラダが自ら話し始めるのを待つ行為
■「食べない」選択をただ行う

第4回
断食は我慢して成功させるものではない
■断食は意志を鍛えるものではなく、カラダの感覚を研ぎ澄ますためのもの

第5回
断食はカラダの倒錯をあぶりだす
■感じていないことを「思う」のはカラダへの嘘

第6回
断食で「飲みたい」「食べたい」から距離をとる
■「うまくやろうとする」ことがうまくやれない原因

第7回
断食初期の食べたい気持ちは、過去への未練や後悔の現れ
■心を割り切ることをやめてみる

第8回
断食初期の「寂しさ」は次第に薄れてくる
■最初の「寂しさ」はきちんと味わうべき

第9回
「断食」で気づいた勝手に期待する心
■不快な気持ちで迎えた断食2日目


第10回
「痛みを抱えている自分」と「痛んでいる自分」の違い
■「痛み」をめぐる認識と感覚のズレ
■「痛み」をちょうどよく感じたい

第11回
断食にともなう不調を「デトックス」と言い換えるのは現実を見ていない証拠
■食べないと意識のざわめきが少なくなる

第12回
断食で「身の丈の食欲」に初めて出会う
■断食2日目でお腹はぺったんこ

第13回
断食3日目。頭の中が軽くなった
■睡眠にまつわる奇妙な変化

第14回
断食で言葉にしづらい「こういう感じ」を徹底的に味わう
■「感じがする」ってどういうこと?

第15回
断食は「自分の毒」を気づく経験になる
■僕たちは「自意識過剰」で「素顔」をさらすことを恐れている

第16回
断食4日目、街に出るとカラダが「薄く」なっていた
■デパ地下で強烈に感じた買い物客の感情の臭い

第17回
「考える」行為は、実は「迷っている」だけかもしれない
■断食で「考える」機会が減った

第18回
「自分」とは、ただの「思考のパターン」だ
■病を元気に生きる

第19回
断食で見えてしまう心の奥底にある「自己否定」
■人生に満足することなく死ぬ自分に気づきたくない

第20回
「断食」は誰かの体験談と比べることではない
■結果だけ言えば、「カラダが軽くなって、気持ちがスッキリ」

第21回
思考優位の人間は鈍感で仕草さが粗くなる
■思考にカラダを合わせるのではなく、カラダに思考を合わせる

第22回
断食明け、食べる必要を感じない
■1週間前の食欲が遠い出来事に思える

第23回
「バランスの良さ」はひとりひとり違う
■他人からのお仕着せのバランスにとわれていないか?
 

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尹雄大

1970年、神戸生まれ。テレビ番組制作会社、出版社を経てライターに。インタビュー原稿やルポルタージュを主に手がける。10代で陽明学の「知行合一」の考えに触れ、心と体の一致をさぐるために柔道や空手、キックボクシングを始める。1999年、武術研究家の甲野善紀氏に出会い、松聲館に入門。2003年、光岡英稔氏に出会い、韓氏意拳を学び始める。主な著書に『FLOW韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)、『子どもが語る施設の暮らし』(共著、明石書店)、『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)などがある。公式サイト:http://nonsavoir.com/

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