営業局Sです。
昨年のこの時期に一年を振り返ってから、あっという間に時間がたち、ついにこの間一度も何も書かず年の瀬となってしまいました。来年はわが社のいい本を、わたしなりにもっと紹介しようと改めて決意しております。
みなさまは、何を想う一年でしたでしょうか。
今年もたくさんの本が出版されましたが、受注しながら「あ、みなさん、こういうことが気になっているんだな」と強く思ったこと、そして自分の今年の出来事も合わさって、一番印象的だった今年の一冊をご紹介します。
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母方の伯父はとてもあたたかく、人を包み込むように楽しくお酒を飲む人でした。酒好きで何だかウマが合ったわたしは、いつも子分のように、親友のように伯父について、銀座のおでん屋さんや居酒屋、バーによくついて行きました。
わたしは父を19の時に、母を4年前に、どちらもわりと急に亡くし、母が亡くなった後の実家の処分や、それによってこじれた人間関係なども全て伯父に相談し、サラリーマンの大先輩の頼もしさで伯父は全てを受け止めてくれました。
そんな中、今年のあたまに伯父に末期のがんが見つかり、精力的な抗がん剤治療の最中、夏の暑さがたたり、秋に亡くなってしまいました。身近な人が亡くなっても、ほぼ泣きもわめきもしない分、とにかくわたしはテンションが下がりまくります。
ああ、自分はまたどんどん暗く重くなっていく……と思っていた矢先、「下北沢のあのバーに伯父を連れて行こうと思っていたけれど、それはもう、叶わないのか! この、一緒に食べたら楽しいであろうおいしい蛸のフライ(タルタルソース添え)を、伯父はもう絶対に食べられないのか!」とおよそ身近な人が亡くなったことに少し慣れている者らしからぬ、当たり前のことが妙にくっきりはっきりびりびりと全身で感じる瞬間がありました。
それまでは、父母も、祖父母も、大好きだった大叔母も、自分の心の中で生きている、なんていうのんきな気持ちで日常をやり過ごしていましたが、伯父の死で初めて生と死の境界線がくっきりはっきりわかり、「いかんいかん、とにかく生きていることを全身全霊で楽しまなくてはいけない。食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み、どうしようかと迷ったことは全てするようにしないといかん」と久々に前向きな気持ちになり、そしてこれは伯父がわたしに伝えてくれた大事なメッセージなんだな、と思いました。
伯父は最後の数週間、自宅に戻り、義父母を自宅で看取った経験のある伯母と、娘と息子、孫たちに囲まれて穏やかに亡くなりました。その様子を身近で見ていて、とにかく「すごいな、これはなかなかあること、出来ることではないな」と思いました。そこで知ったのは、在宅患者である伯父と、ついている伯母を支える通いのお医者さんや看護師さんの存在と連携。伯母や従姉弟の話から、日々どれだけ助けられていたかがわかりました。
今年の9月に『サイレント・ブレス』という小説が出版されました。サイレント・ブレスとは一体何なのか。巻頭にある、現役医師である著者の南杏子さんによると「静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージする言葉です。多くの方の死を見届けてきた私は、患者や家族に寄り添う医療とは何か、自分が受けたい医療とはどんなものかを考え続けてきました。人生の最終章を大切にするための医療は、ひとりひとりのサイレント・ブレスを守る医療だと思うのです」
発売からいくつかの書評が続き、書店さんからのお客様注文が3ヶ月たっても途切れません。終末期医療専門病院に内科医として勤務する著者による6つの作品。100人いれば100通りの生き方、悲しみと幸せがあるように、死に方もそれぞれです。誰しもがいずれは迎える死について考えさせられる作品、というだけでなく、主人公の医師倫子の成長物語でもあり、ミステリーとしての読み応えもある、何だかすごい本なのです。主人公が大学病院研修時代、病院長であった権藤が膵臓癌になり、まわりの引き止めも聞かず完全治療拒否をし、「君の所なら、うまく死なせてくれるって聞いてな」と主人公に最期をまかせるエピソード5は迫力があると同時に泣かされます。
今後どのように生きていくかを考える上で。まずは最期について考えるのも、一つのはじまりになるかもしれません。
本を読む時間は自分に向き合う時間。
良いお年をお迎えください。