上司への報告、部下への指示、クライアントへのプレゼン、新商品の売り出し、入学・入社面接、司会やスピーチ、飲み会・合コン……日常生活のあらゆる場面で役に立ち、一生の武器になるのが「一言力」すなわち「短く本質をえぐる言葉で表現する能力」。
コピーライターの川上徹也さんが、「一言力」を「要約力」「断言力」「発問力」「短答力」命名力」「比喩力」「旗印力」の7つの能力に分析し、どんな人でもすぐ、「人の心をグッとつかむ一言」が言えるようになるノウハウを伝授します。今回は「短答力」についてです。
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■壇蜜さんのコメント力はどこがスゴいのか
「一言力」に必要な能力の4番目は「短答力」です。
相手から何か質問された時に短く鋭い答えを言えたり、何かについて意見や感想を求められた時に的確なコメントが言えたりする能力のことをいいます。
「コメント力」と言い換えてもいいでしょう。
一言力の中でも一番、瞬発力が求められる能力です。
ピンチな状況であればあるほど、一言の切り返しが重要になってきます。
テレビを見ていると、この人のコメント力は高いなと思う芸能人の方がいます。
最近、とてもうまいなと思ったのはBS日テレで放送している『久米書店』での、壇蜜さんの切り返しのコメントです。
番組の冒頭、久米宏さんと壇蜜さんが本をサカナにトークします。
ある回のこと。とりあげる本の中に、「最近の若者はラブホテル代も割り勘」という記述を見つけて驚く壇蜜さんに、久米さんが「僕と君がラブホに行ったらどちらが払うのかね」と質問します。
「それはないと思いますよ」とかわす壇蜜さんに、「万が一だよ」と重ねる久米さん。
その時、壇蜜さんが切り返したコメントは以下のものでした。
「文春が払うと思います」
これには久米さんも、「うまいこと言うね」と答えるしかありませんでした。
これが本当にアドリブか、また台本にあったのかはわかりません。
ただ視点を変えて答えるという意味で、とても秀逸なサンプルです。
この場合、どちらが払うと答えても、さほどおもしろくなりません。そこを、芸能人のスキャンダルを数々スクープしている「週刊文春が払う」、という新しい視点を入れたことで、おっと思うコメントになっているのです。
もうひとつ、壇蜜さんの切り返しでうまいと思ったコメントを紹介しましょう。
『えひめスイーツコレクション』のイベントで、愛媛産イチゴ「紅い雫しずく」のイメージキャラクターである壇蜜さんが登壇しました。記者質問タイムで、あるリポーターが「最近、若い方が壇蜜さんを追って出てきてますが。橋本マナミさんとか」と、空気を読まない質問をしました。
少し沈黙したあと、壇蜜さんは以下のようなコメントを返しました。
「ほかのタレントさんのことを公の場で言うのは、みずみずしくないと思います」
イチゴのキーワード「みずみずしい」をうまく使った、絶妙な切り返しでした。
■「視点をおもしろく」か「表現をおもしろく」
勘のいい方はもうお気づきになっていることでしょう。
コメントのおもしろさには、「視点がおもしろい」ものと、「表現がおもしろい」ものの2種類があるということに(それが合わさったものもあります)。
例えば、先の壇蜜のコメント「文春が払うと思います」は、視点がおもしろいコメントです。
一方「みずみずしくないと思います」は、表現がおもしろい(その場のキーワードを使ったという意味で)コメントですね。
「視点がおもしろいコメント」は、個人の資質による部分が多く、一見難度が高そうです。
ただ事前に「新たな視線」を準備することで、気の利いたコメントが言える可能性が高まります。
また「表現がおもしろいコメント」についてもいくつかの型があるので、それを事前に知っておくと気の利いたコメントが言える確率は上がります。
■「イタコ」法で、あなたの視点はおもしろくなる
「視点がおもしろいコメント」を言うために、私がお勧めするのは、 「イタコ」法、「なんでも比較」法、「ネガポジ変化」法、「自分の庭に」法、「流行ベンチマーク」法の5つです。
そのうちの「イタコ」法についてお話ししましょう。コメントする対象そのものや、それに近い立場の人間や物に乗り移った答えをするという手法です。
「人」に乗り移ることは比較的容易にできると思います。例えば以下のように。
「香川さんの立場になったらと思うと、これほど痛快なことはないでしょうね」
「宮崎さんのお母さんの立場になったら、本当にいたたまれません」
人からさらに対象を広げ、「動物」「植物」「食べ物」等の立場にまで乗り移ってコメントしましょう。
例えば「花見」についてコメントする時に、以下のように「桜の木」の立場になって語
るのです。
「桜の木の立場になると悲しいですよね。年に10日間だけチヤホヤされて、足元で勝手にドンチャン騒ぎまでされて、あとの355日は知らんぷりでスルーされているんですよ」
さらに生き物ではない「品物」「物体」「物質」などにまで対象を広げていくのです。
例えば環境を大きく破壊するような事件が起きた時、地球に乗り移ってコメントするのです。以下のように。
「地球の立場になると『人間、もうええ加減にせえよ!』って思いますよね」
なかなか感情移入しにくいような「物」にまで乗り移ることができれば、ユニークなコメントを言える可能性が高まります。
また同じ人に乗り移るのでも、「時代」「立場」「地域」「国」をズラした人の立場になってコメントするという方法もあります。歴史上の人物などもいいですね。
今までなかったような自社の画期的新商品に対してコメントする場合。
「平賀源内がこの商品を知ったら腰抜かすと思います」
「僕がライバルのA社の営業だったら泣いて悔しがりますよ」
「フランス人が使ったら『やっぱ日本人スゲェ』と思うでしょうね」
など、ズラした立場の人に憑依(ひょうい)すると、いろいろなコメントが浮かぶはずです。
■「V字回復」法で、あなたの表現はおもしろくなる
「表現がおもしろいコメント」を言うために私がお勧めするのは、「段違い平行」法、「V字回復」法、「最上級」法、「同語反復」法、「比喩・たとえ話」法、「数字」法、「キーワードのっかり」法の7つです。
そのうちの「V字回復」法についてお話ししましょう。最初にネガティブなことを言ってドキッとさせてから、次に上げて褒めるというコメント手法です。
例えば、あなたが新潟のローカルアイドルNegicco(ねぎっこ)が好きだとします。
誰かに「Negicco が好きなんですか?」と質問されたとして、普通に「好きです」と答えるよりも、以下のようにコメントするとより印象に残ります。
「いえ、私はNegiccoのことを『好き』ではありません。『大好き』なんです」
例えば、映画の感想を言う時、普通によかったと言うよりも、以下のようにコメントすると強い褒め言葉になります。
「『君の名は。』、今年最低の一本です。おもしろすぎて何度も観たり聖地巡礼をしたりして、僕の貴重な時間を奪ってしまうだろうから」
このように最初にネガティブなことを言って下げてから、V字回復でポジティブなこと
を言うと、強いコメントが生まれるのです。
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次回は1月24日(火)に掲載予定です。
人生は「一言力」で決まる!
才能不要。センス不問。「ズバっと伝える技術」をお教えします。