AV出演強要問題がくすぶり続けるAV業界だが、立て続けにAV女優の生き様にまつわる本が出版される。1月12日発売のアケミン著『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎)と、1月18日発売の中村淳彦著『名前のない女たち 貧困AV嬢の独白』(宝島社)だ。それぞれまったく違う個性で活躍するライターの二人は、AV業界、AV女優をどう見てきたのだろうか? 後編はふたりの考え方の違いがより際立ちます。
(撮影 菊岡俊子)
『うちの娘はAV女優です』登場女優は、上位5%のエリート層
アケミン 『うちの娘はAV女優です』と『名前のない女たち』には、女優さんが共通して登場しています。私が面白かったのは同じ女優を扱っていても中村さんと私とでは描き方が違っていたことです。
たとえば、『名前のない女たち』に「性欲の奴隷」として登場するみおり舞さんは、私も以前、「ヤリマンスーパー列伝」という男性誌の企画で取材したことがある。言葉の選び方でひとりの女性がまったく別人物のように見えますよね。
中村 「名前のない女たち」は自分なりのAV女優の話の最大公約数。どう書けば読む人が増えるかってことを一貫して考えている。「オレンジ通信」(東京三世社)ってAV専門誌から始まった連載だけど、AVファン、その女優のファン、エロ本読者、AV関係者は、最初から想定読者から外した。17年前の連載第1回目から、AV業界からは苦情とか悪口、批判ばかり。
ただ継続するうちに書籍は7割が女性読者になって、10年くらい前から誰にもなにも言われなくなって、AV女優の読者も知らないうちに増えまくった。最近では何人かの著名人が「読んでいますよ」と言われるようになって、自分の想定を超えてしまった。
アケミン 私が一番最初に「名前のない女たち」を読んだのはディープスで広報をしていたときでした。広報業務として自分のメーカーの作品が掲載されている雑誌を毎日チェックするのですが、他のページや雑誌は「可愛くて清純で、でもエロい女の子」みたいなAV女優を切り取るのでテンションも高め。でもこの連載だけ空気が違っていて衝撃を受けましたね。
中村 10年くらい前からAV女優はやりたくてやっている子が増えて、取材してもパンチのある話はだんだんとなくなってきた。AV業界が平穏で悲惨な話を堀りようがなくなったのが、AVライターを引退した理由のひとつ。「やりたくてAVやっている」話はアケミンさんや他の人たちに任せればいいかなって思って。
AV業界の広報とかプロパガンダは興味ないし、書くことがないという深刻な状態がけっこう長く続いた。それを今回の新刊でようやく乗り越えられた。ちなみにアケミンさんは底辺の人の話って聞くの? 美女同士で上流の話をしている、みたいなイメージがあるけど。
アケミン な、なんか嫌味な女みたいですが……(笑)、あまり機会がないですね。今、書いている媒体がスポーツ新聞や一般誌が多いので取材する女優さんは必然的に知名度があってパブ全開の子がメインになるんですよね。ただそういう子はタレントとしてのイメージもあるので親公認エピソードというプライベートは話したがらないと思っていたけど、今回は、「話せてよかった」という人が多かったのが意外でした。中には自らツイッターで宣伝してくれる人もいてありがたかったですね。
中村 アケミンさんの作品は上層AV女優の話なんだよね。それなりに努力をした勝ち組。エリート層。上位5パーセントかな。
アケミン それはあると思います。『うちの娘はAV女優です』に登場する10人の女優さんのうち4人はリアルな芸名で残りの6人が仮名ですけど、みんな売れっ子の女優。もし全員の名前を出してグラビアを組んだら、かなり豪華なエロ本が作れると思う。
中村 今は競争が半端ないから上位5パーセントになるには、ものすごい運と努力が必要なんですよ。本人たちは真剣で大きな結果が出ているから親も仕方ないって思うだろうし。
アケミン 確かに。残りの95パーセントはまた事情が違うかもしれないし、単に上位5パーセントに当たる光が強くなってきているだけかもしれない。ただ少し前まではその上位5パーセントの人ですら、親に言えてなかったのかなと思います。
中村 今は若者の世代間格差がひどい。ブラック労働とか大学奨学金とか国が先頭に立って若者イジメをやりすぎで、『うちの娘はAV女優です』で“キタ”と思ったのは、かなで自由(みう)の章でした。
アケミン 奨学金とクレジットカードでの借金がきっかけでAVを始めたけれど、今ではご両親ともAVの仕事を知っていて、SNSでのファン向け動画についてアドバイスもしてくれているという。
中村 母子家庭で、お母さんは介護福祉士。お母さんがブラック介護施設で長時間労働させられて、病んで、彼女は子供の頃にネグレクトされて寂しい思いをした。それで数年後にAV女優として我々の前に現れるというのは、あまりに現代的な物語だと思った。
アケミン 再婚したお父さんもケアマネジャーで介護一家ですね。高校時代も彼女は学費や生活費を自分で稼いでさらには家事も背負っていた、というエピソードもありました。
中村 親も子供も普通に生きているのに貧困に陥る。寂しさを乗り越えながら成長すれば、大学奨学金とか罠があり、AV女優に漂流するというのは新時代の幕開けだなって思った。
アケミン ただ、そんな境遇でもへこたれずにAV女優としてお金を貯めて生きている彼女のたくましさには頭が下がる思いでした。不運かもしれないけど不幸と思っていない強さもありました。この10年ぐらいかな……私が感じるAV女優の変化は、女の子の性格がよくなってきたこと。人当たりがよくなってきた。私が最初、業界に入ったときはガラが悪くて怖い子も多かった。単に私自身が若かったからなめられていたのかもしれないけど、挨拶もしない、感じが悪いオラオラな子がたくさんいましたね。
中村 今のAV女優や風俗嬢はクラスで目立たなかった女の子たちがやっている。普通を超えてイジメられっ子とか地味な層。やりたいことを中学高校時代にできなくて、大人になってから取り戻そうみたいな。たぶん彼女たちのほとんどは、普通の道に進んでも学生時代のように埋もれて自己実現できない。裸になって思い切ることは悪いことには見えないかな。
「有名になりたかった」がAV志願の理由
アケミン あと、私たちの本に共通するのは、「アイドルになりたかった」「でもなれなかった」という子が何人も登場すること。私の世代だと「アイドルになりたい」ことは公言する感じじゃなかった。例えば安室奈美恵はすごく人気があったけど、目指してなるようなものじゃなかったし、それこそ原宿でスカウトされるとか偶然が重なってなる存在だった。そういった意味でアイドルもAV女優も職業選択の一つになったのかなって。
中村 今の若い子を見ていると将来性がなくて低賃金、虐待みたいな労働が多すぎる。大人も若者を育てようとしないから、使い捨て。結婚、出産でさえも彼ら彼女たちには贅沢品。希望が見えない中で道から外れても大きな損をすることはないし、AVに出て一発逆転しようみたいな選択する女の子が増えるのは、すごくよくわかる。売れれば正しい道だと思うけど、ただ残念なのは競争が激しすぎるので自己実現できるのは一握りしかいないこと。
AV強要問題が表面化した根底には、親公認も含めてリスクを背負わさせているのに負けて損する女の子を輩出しすぎたことがある。業界の仕組みを考え直したほうがいいでしょう。
アケミン 確かに売れるのは一部分ですよね。この本ではきっかけはノリだったり、有名願望を刺激されたり入り方は様々ですが、競争も激しい世界をあえて選んで生きている女優さんたちの生き方やたくましさ、彼女たちが持つ自己肯定感も伝えたいと思いました。強要問題など仕組みの改善も取りざたされているけど、業界で生きている女の子の個々のストーリーもまた広く知ってほしかった。
中村 『うちの娘はAV女優です』のあとがきに、「女の子たちに食わせてもらっている」みたいな記述があった。個人的には違和感があって、エロ本編集ならばそうかもしれないけど、ライターとしては女の子たちに食わせてもらっているとは思いたくなかった。昔、エロ本関係者の酒の肴でよく出てきた議題で、結局、自分や自分が選んだ職業は正しいという言い訳だよね。食わせてくれてるのは誰か強いて言うなら、読者でしょう。
アケミン 彼女たちの話を本の題材にさせてもらっていますし、誠意を込めて書きたかったというくだりですね。依存とは違いますね。
中村 僕も最初のころ、すごく悩んだんだよね。女に依存して食わせてもらっているという意識は、書ける範囲を狭める悪影響がある。よくない。だからエロ本でも「名前のない女たち」は裸を掲載しないで成り立たせるとか、ブスでもキャスティングするとか、いろいろやったんだよね。やっぱり裸の女子を入荷してぐるぐる回して利益を得るみたいなAV業界の構造から自分は離れたかった。AV女優の周辺の食わせてもらっていると自称する人たちは儲かって、女優本人は出演料すら知らないみたいな現実もあるし。
アケミン 「名前のない女たち」では数万円で仕事を請け負うフリーのAV女優さんの話もありましたね。安いギャラで現場を回って、しまいにはガスバーナーで体を焼かれるトラブルにも見舞われて……衝撃的な話でした。
中村 結局、AVってそういう仕事なんだよね。刺激物を商品にするわけだから、過激な行為や女優の新鮮さで勝負するのが普通。ガスバーナーの虐待はひどい話だったけど、加害者が変態でその子をひどい目に遭わせたいわけじゃない。ひどいことすれば売り上げが上がる可能性があるからやるわけ。さらに「ユーザー様のために頑張る」みたいな方向に舵を切ったら、出演者に負担がまわるのは当然じゃん。ブラック企業問題と似ていて、強要問題も起こるべくして起こっている。
アケミン ガスバーナーはさすがにレアなケースですけど、ギリギリのものってありますよね。過激なSMとか超大量ごっくん企画とか。たとえ女優さんがその場では頑張っていたとしても、彼女たちの負担はかなり大きくなっている。だからといって業界側が「ユーザーが求めているからこういうものを作っているんだ」と受け手のせいにばかりするのもおかしな話で。そのギリギリの臨界点を突破してしまうと、この手の問題も起こってしまうのだと思います。
90年代の社会に片隅にあったAVが社会進出してよかったのか
中村 社会の荒廃とリンクしてAVが社会進出してしまった。そうなったことで競争が激しくなって収入が減って、強要問題みたいなことも起こるなら、AV女優が投石される勢いで差別されていた90年代以前のダメ人間のセーフティネットだった元の姿に戻したほうがいいよね。恥ずかしい気持ちを抱えて、社会の片隅でひっそりとAV女優するみたいな。
アケミン 90年代の「ただ裸になっていればいい」というものからは、かなり遠いところに来ていますよね。「女優」といっても1回裸になって撮影したからといって女優といえるのか、という問題も出てくる。本著でも女優さん自身が「1本出たくらいでAV女優と名乗らないで」という声もあった。AVは射精産業なのかメディアへの出演業か、見方によって変わってくる。「見せるプロ」として女優さんたち本人の意識が変わっているし、AVに出ることは芸事、AV女優が後ろめたい職業というよりも「パフォーマー」としての立ち位置をここで改めて確立する意義は大きいと思います。
中村 今「AV女優」言葉は面白くて、「転落の象徴」としても使えるし、「前向きで華やかな存在」としても使える。ただ今回の強要問題はAV始まって以来の大事件。話が大きくなりすぎているし、現状維持では乗り切れないでしょう。かといって、AV業界が有効な手を打てるとは思えない。将来どうなるかわからないけど、AV女優が社会進出したこの10年間は、たまたま起こった黄金期みたいなことになるかも。
アケミン 賛否両論あると思いますが、この本が議論のきっかけになれば本望です。社会問題への切り口にもなりますし、「お母さん、ごめんね。……でもどうして、謝らなくちゃいけないんだろう。」という紗倉まなさんのコメントにもあるように、同じ女性としては彼女たちの内面の葛藤やどうやってそこを乗り切ったのか、生き方の一つの形としても見ていきたいですし。彼女たちの親子の関わり方も自分とその親の世代とはまた変わってきているし。話は尽きないですが、1月21日のイベントでも引き続きお話できたらいいなあと思います。
(おわり)
AV業界で働くということ
AV業界で働くことはをめぐる対談です