(photo:齋藤陽道)
Titleの近くで行われたお祭りの日に、自分の持っていた本を店内で売ったことがあります。自分の家の本棚にあった本が、目の前で知らない誰かにわたっていく……。レジを打つときに、プロの古本屋の古本を店内で売るのとは違う、不思議な感触がありました。それは自分の一部を人に差し上げたような、ある意味では清々しいとも言えるものでした。その本には値段をつけて売りましたが、お客さまにそのまま差し上げてしまっても、同じような気持ちになったことと思います。
この仕事をしていると、さぞかし家にはたくさんの本があるのだろうと思われます。もちろん買った本はいつの間にか溜まっていく一方ですが、イベントなどの機会に売ったり、新しく古本屋を始める友人に寄贈したりと、どちらかといえば集めるよりも、手放すことを考えています。
本が家に溜まっていくと、次第に空間が本に圧迫され、個人的にはどこか身軽になれないような気にもなります。それよりは、本棚にいつも余白があり、新しい本が入る空間を作っておくほうが、本棚が生きてくる感じがして好きです。たとえ人にあげたり手放してしまった本でも、「あの本、どんな内容だったかな」と思い出し、再び買うこともあります。自分にとって本当に必要な本であれば、一度手放してもまた必ず手元に戻ってきます。そうしたことを繰り返しているうちに、いつの間にか一冊の本にあまり固執することがなくなりました。
私が手放したその本を受け取った人のことを考えてみると、その人にとってそれが出合うべき本であれば、今度は自分で必要な本を探し始めるでしょう。本はさまざまな形で世の中に廻し、その世界に触れる人を増やすべきだと思います。
Titleを始めて、店の本棚に選んだ本を並べていくと、好きな本に囲まれていたいという自分の欲求が満たされるのか、その本を所有したいという気持ちがあまり起きなくなってきました。店に置いている本も、いつかは入れ替わっていくものなので、本は流れていくものという気分が、自然と身につくのかもしれません。
今回のおすすめ本
部屋を暖かくして毛布にくるまり、コーヒーを淹れれば、冬は読書に適した季節。和田誠の印象的なイラストが表紙のこの本は、84人の「冬」と「1冊の本」をめぐるエッセイ集。それぞれの記憶が重なりあって、一冊の端正な本となりました。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。