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逃げたい娘 諦めない母

2017.02.13 公開 ポスト

母娘ストレス解決法(2)

母に逆らえない娘が
自信をつける3つの習慣朝倉真弓/信田さよ子

母娘のバトルが話題のドラマ「お母さん、娘をやめていいですか?」。毒親ではないけれど、束縛や干渉が面倒くさい母親に悩む人たちも多いのではないでしょうか。このドラマに監修協力した信田さよ子さんそして、朝倉真弓さんの著書『逃げたい娘 諦めない母』から、母に感じるストレスを解消する行動習慣を4回にわたってご紹介します。 

 

母親が最も恐れるのは、娘の無関心

 母と一心同体のような状態に苦しんでいる娘は、その反動で母との絶縁を考えがちです。しかし、母と娘の関係を完全に断ち切ることだけが答えではありません。

 親子の絆を重要視する日本では、娘と母が完全に断絶することが可能だとは思えません。親の病気や手術の場合は、必ず子供に連絡が入りますし、父親が亡くなり母だけが残されればもっと事態は厳しくなります。遠い外国に行ったとしても、国籍が日本であれば状況は同じです。

   では、現実的な対処法とは何でしょうか?

 それは、母との日常的な接触のなかで適切な距離を作り直し、自分のエネルギーを奪われないようにしていくことです。

 母に束縛されて反発を感じている娘は、母に対してガードが強いと思われがちですが、実は逆です。母の動きを読んで予想しようとすれば、注意が母に向きます。母にしてみれば娘が自分のことをいつも考えてくれていれば安心なのです。

 もっとも母親が恐れているのは、実は娘からの無関心です。
 娘からの関心に対する母のセンサーは動物的といえるくらい正確で、脅えや怒り、隠し事などはなぜか見抜かれてしまいます。
 

小さな反論から、母親との距離を作り直す


 娘からすると、母は自分の敷地内にずかずかと入り荒らしていく感じですが、そもそも母にとっては、娘の敷地という認識すらないのです。

  母の認識=娘の敷地なんかない、全部自分のもの、なぜなら自分は娘の幸せが何かを知っている母親なんだから。
 それに対して、
娘の認識=私はひとりの人間だ、私と母の敷地は違うのだから境界を守ってほしい。

 多くの娘たちにとって、母の認識に従ってきた歳月のほうが長いはずです。そのほうが衝突はなくなるし、すべてが穏便に過ぎていくので、自己主張せずに我慢してきました。でもそこで譲歩すれば、母親はもっとずかずかと入り込んでくるでしょう。

 毎週末は母と共に過ごさなければならないのか、母からの電話に必ず折り返し連絡を入れなければならないのか、それをもう一度考え直してみましょう。それを守り続けるということは、娘の敷地・領域は自分のものという母の理不尽な考えを受け入れ続けることではないのか。そう考えてみてください。

 母から束縛を受けてきた人にとって、初めて「ノー」と言うことは大きな冒険で、言ったそばから罪悪感にさいなまれる行為かもしれません。

 しかし、母との距離を作り直すためには、小さな「ノー」を積み重ねて自分の領地の境界線をはっきりと示しましょう。そうすると母からの侵入や侵攻はもっと激しくなるでしょう。時には泣き落とし戦術や病気戦術に出てくるかもしれません。
「もう先は長くないのだから」「このあいだ転んでしまってけがをした」……このような戦術に対して、動揺せずに落ち着いている必要があります。ガードする壁を堅牢にしていく作業が必要なのです。

 しかし母はそんな娘を諦めようとはしません。「私が正義だ」という自信満々の態度で、「いつからそんな娘になったの?」「そんな恐ろしいことを言うようになったのはどうして?」と言って壁を壊そうとするでしょう。しかし、娘の敷地・領域は、何としてでも守り通さなければなりません。そのための方法は三つあります。



 

母親の巧妙な戦術に負けない3つの方法 

1.話の進め方のリーダーシップを取る習慣を作る

 母に論理は通用しません。論理を正確に伝えようとしても無駄なので、まず母の話を聞くことが大切です。勢いがあるうちは言葉をはさまずに聞きましょう。でも内容を正確に把握する必要はありません。相槌を打つといった行為を示していれば、内容は聞き流していてもかまわないのです。

 少し疲れた頃合いを見計らって、こう言いましょう。「お母さんはそう考えてるんですね、でも、私はこう思います」と。それに対して反撃を加えようとする母親を遮って、すかさず「そろそろ時間だから」「明日は早いからこれで終わりにします」と宣言しましょう。母親の了解を得てから行動する必要はありません。
 説得して、母親の同意を得てからなんでも決める女性も多いのですが、それをしていると論理の通じない母親に結局は思い通りにされてしまい、疲れ果ててしまいます。

 母の同意を得なければならない、という思い込みをなくしましょう。10代ならまだしも、自分の判断で決めることに母の同意は必要ありません。
 

2.あえて丁寧な言葉をつかう

 普段、家族同士ではぞんざいな、けっこう乱暴な言葉づかいをしていることが多いものです。母と距離を作るには、まず言葉づかいから、というのが原則です。できるだけ丁寧な言葉づかいで受け答えしましょう。もちろん挨拶は欠かさないようにしましょう。「ただいま」「ありがとう」「お願いします」……。

 そんな娘に対して「なんでそんな他人行儀な言葉をつかうの」というのが母からの反応でしょう。そう言われたら、「やった!」と思いましょう。目的は達成されたのです。

 母の言葉は本質をついています。
「他人行儀な言葉づかいが、距離を作る」からです。
 どんな言葉を母が投げかけてきても、感情的にならず努めて丁寧な言葉づかいで応対する。これによって、同じ屋根の下に住んでいても最低限の距離を作ることができます。
 

3.同じような経験をしている仲間を持つ

 1、2について、たったひとりで実践するのは不安なものです。
自分はひどい娘ではないか、と考えてしまうこともあるでしょう。もしできるなら、同じように母との関係で苦しんでいる女性たちを見つけて、励まし合うことが大切です。他にも困った母に悩む人がいるということを知るだけで心強くなるでしょう。

母との距離を作り出すにあたり、一番の敵は孤立感です。カウンセリングに通うのもひとつの方法ですが、書籍やウェブサイトを開いて仲間の存在を見つけ、交流することができれば、足元が揺らぐことは減るはずです。

 一見、母に対して非情な仕打ちのように思えますが、そんなことはありません。苦しめられているわけではなく、母親は娘との関係を見直すチャンスを与えられているのです。せっかくのチャンスを生かすかどうかは母次第。なかには娘の態度から反省して、自分から距離を取ろうとする母親がいないわけではありません。

 こうして自分と母親との境界線が堅牢になればなるほど、自分の人生に実感がわいてきます。それまでは母の期待を背負って生きてきたので、自分が生きているのか、それとも母が自分の体を使って生きているのか分からなかった人たちも、はっきりと自分で生きる、自分の意志で生きることができるようになります。

 すると不思議なことに、いろいろなことがそれまでと変化するようになります。
たとえば、服装の好み、友人関係、時には食べ物の嗜好までも変わってくることがあります。「あ、私、本当はこういうのが好みだったんだ」と気付くのです。
 

次回は、2月18日公開予定です。この連載は、『逃げたい娘 諦めない母』の試し読みです。

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朝倉真弓

1994年、青山学院大学卒業。一般企業、出版社、編集プロダクションを経て、1999年にフリーランスライターとして独立。経営、起業、就職・転職、働き方などをテーマに、一般誌やビジネス誌、ウェブサイトなどで取材および執筆を手がける。実用書やビジネス書の分野では企画やブックライティングを数多く務め、ストーリー仕立ての書籍を得意とする。自著に『女子の幸福論』『たまらない女 ためられる女』『好き⇔お金 ネットで「やりたいこと」を「お金」に変える方法』『ストーリーでわかる! 今までで一番やさしい相続の本』がある。

信田さよ子

1946年、岐阜県生まれ。1969年、お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。1973年、同大学大学院修士課程修了(児童学専攻)。1995年12月に原宿カウンセリングセンターを開設、所長として現在に至る。臨床心理士。著書に『依存症』『DVと虐待』『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』『さよなら、お母さん―墓守娘が決断する時』『共依存』『カウンセラーは何を見ているか』『依存症臨床論』『アディクション臨床入門』など多数。

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