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女の数だけ武器がある。

2017.02.16 公開 ポスト

同窓会で待ち受けていた女友達の幸せ自慢攻撃ペヤンヌマキ

ブス、地味、存在感がない、女なのに女が怖い……コンプレックスだらけの自分を救ってくれたのはエロの世界だった! 女性AV監督、映像ディレクター、劇作家・演出家として多彩に活躍するペヤンヌマキさんのコンプレックス克服記『女の数だけ武器がある。』が2月7日発売になりました。生きづらい女の道をいかに歩んできたのか――? 「5章 生きづらい女の道をポジティブに乗り切れ!」より一部を抜粋してお届けします。

旦那と子供がいない私に出番なし……

 32歳の時、同窓会の案内が来ました。中学の時の演劇部の同窓会でした。演劇部のメンバーは、私以外はみんな地元で暮らしている様子で、かれこれ15年くらい会っていませんでした。

 これまで同窓会の案内が来ても、暗黒の中学時代を思い出したくない一心で避けてきましたが、今回は参加してみるかなという気になりました。

 30代になって生活に余裕が出てきてメイクや服装にも気を遣うようになり、自分に似合うものがわかってきたこともあり、見た目を褒められることも増えてきました。中学時代のイケてない私はもういない。素敵な大人の女(笑)に変身した私をみんなにアピールしたい。さらに、東京で自立し、好きだった演劇も続けている自分をちょっとは自慢したいという気持ちが心のどこかにあったのだと思います。

 当日、指定された待ち合わせ場所の居酒屋に行くと、「団体でご予約の〇〇様でございますね」と店員から知らない名前を告げられました。演劇部にそんな苗みよう字じの人はいなかったはず。店を間違えたかな? とあたふたしていると、そこにあのRちゃんが登場。「あ、ごめーん。わかりづらかったよね? 私の今の苗字で予約しちゃったからさー」

 そういうことか。それなら最初から教えといてくれよ。とのっけからイラッとしたのですが、まあまあ、しょうがない。大人の女になった私はそれくらいのことで目くじら立てたりしませんよ。それより、15年ぶりに会ったRちゃんは、Tシャツにジーパン、ノーメイク。歳のせいで目もくぼんで、田舎の貧相なオバちゃんに成り果てているではないですか。そんなRちゃんを見て、私は瞬時に「勝った」と思いました。

 ところがです。みんなが揃って乾杯した後、幹事であるRちゃんから、「ここで順番に近況報告を行いたいと思いまーす」と近況報告タイムが設けられました。私は今の仕事をどう説明しようかと悩みました。AV監督をやっているなんて言ったら引かれるだろうし、地元で変な噂流されても嫌だしなー。ここは映像関係の仕事をしながら演劇もやっているということで濁すしかないかーなどと悩んでいると、Rちゃんが「ではまずは私から。私はー、23の時に結婚してー、何で今のダンナを選んだかというとー、私が怪我で入院した時に、たくさんのボーイフレンドがお見舞いに来てくれたんだけど、その中で今のダンナが一番甲斐甲斐(かいがい)しく通ってくれて、いい人だなーと思って決めました! 今子供は3人いてー」と、なんと、いかにこれまで自分がたくさんの男にモテてきて、その中から今のダンナを選んで、という自慢話を延々語り始めたのです(ボーイフレンドなんて言葉久々に聞いた……)。

 私が啞然(あぜん)としていると、他のメンバーもRちゃんに続いて、旦那との馴れ初め、何歳で結婚して旦那は何をしている人で子供は何人いて、という内容の自己紹介タイムになったのでした。そして、私以外は全員結婚していました。この場で私が報告することは、何もない。そう気づくと同時に私の順番が回ってきました。

「えーっと……今は東京で仕事してます。結婚はまだしてません……」

 以上!

 するとみんなに「彼氏は? 彼氏は?」と聞かれ、「今はいない……」と答えたところで私の自己紹介タイムは終了。心配していた仕事の内容まで聞いてくる人は誰一人いませんでした。元演劇部の集まりだというのに、最後まで演劇の「え」の字も話題には上りませんでした。

 そこでは、自分がどんな仕事をしているかということはどうでもよくて、いつ結婚して、どんな旦那がいて、子供が何人いて……ということしか重要ではなかったのでした。結婚していなくて子供もいない私は、その同窓会では語るべき言葉は一つもなかった。

 その状況に愕然とする一方、高校を卒業した時に上京してよかったと心の底から思いました。もしずっと地元にいたら、AV監督になることもなく、演劇をやるチャンスもなく、彼氏もできなかったかもしれません。そしてコンプレックスが解消されないまま「結婚して子供を持つのが幸せ」という価値観の中で暮らすことになっていたでしょう。東京に出てきて本当によかった。そう思いました。

 でも、同級生たちに「彼氏もいないなんてかわいそう」という同情の視線を向けられると、何とも言えない敗北感を覚え、それは日に日に大きくなっていくのでした。

***

◎40歳になったペヤンヌマキさんの新連載「40歳から何始める?」もお楽しみください。

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ペヤンヌマキ

1976年生まれ、長崎県出身。早稲田大学在学中に、劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。卒業後はAV制作会社に勤務。現在はフリーの映像ディレクターとしてAVやテレビドラマなどを手がけるほか、演劇ユニット「ブス会*」主宰の劇作家・演出家として幅広く活躍中。著書に『女の数だけ武器がある。』がある。

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