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本屋の時間

2017.03.01 公開 ポスト

第7回

イベントで不思議に広がる人の縁辻山良雄

2月21日〈トークイベント神戸で「本屋」の話をしよう〉より。左はフリーライターの石橋毅史さん 写真提供:苦楽堂

 先日の2月21日、22日の二日間『本屋、はじめました』のプロモーションで、生まれ故郷の神戸と、その隣の大阪でトークイベントを行いました。二つの会場とも大入り満員で、来て頂いたお客さまとは、イベント終了後も話が尽きることがありませんでした。東京で行うイベントとは雰囲気も異なり、事前に本を読んできている方が殆(ほとん)どだったのには驚きました。本やイベントに対する熱気が伝わった二日間で、すっかりリフレッシュしてTitleに帰ってきました。

 

 何しろ普段はずっと自分の店におり、しかもレジカウンターの中という〈点〉から世の中を見ているので、外の世界で何が起こっているかは想像するしかありません。関西で自分の本を熱心に読んでくださった方がたくさんいたことは、ありがたくも嬉しい驚きでした。

2月22日スタンダードブックストア心斎橋店での一コマ。左はブックスキューブリック店主・大井実さん  写真提供:苦楽堂

 本屋という仕事は、実は会いたい人に会うことができるという、恵まれた仕事でもあります。本の後ろには、それを書いた人が必ずいます。実現するかは別としても、その書き手のイベントを行なうこともできますし、その本を販売している時点で、何かしらその人とつながっているとも言えます。はじめは遠くに見えるだけかもしれませんが、自分が仕事を続けていくうちに、その人と仕事ができる日がいつか来ないとは限りません。

 また、同じ本を読んでいる人は、同じ関心を持っていたり、好きなものが似ていることが多いので、自然と意気投合します。今回の関西でのイベントでも、終了後にたくさんの人の輪ができており、その場で自己紹介しあう場面をたくさん見ました。今では参加型のイベントも多く、路上で自分の本を売り、その日だけ〈本屋さん〉になることができる「一箱古本市」や、好きな本を紹介しあう「ビブリオバトル」などのイベントも、全国各地で行われています。

 本屋はもちろん本を買う場所ですが、それと同時に人と人が出会う場所でもあります。本の持つ可能性を充分に開くことが出来れば、本屋はもっと豊かな場所に変わっていくでしょう。

 

今回のおすすめ本

写真:Title

『アルテリ 三号』(アルテリ編集室)

『アルテリ』は熊本にある個人経営の書店・橙書店が編集発行する文芸誌。石牟礼道子、渡辺京二、伊藤比呂美、坂口恭平、三砂ちづる、高浜寛など熊本出身、あるいは熊本に縁のあるそうそうたる書き手が名前を連ねています。しかしそうしたレッテルには捉われず、自由にものを表現する場所として存在感を放っているところが素晴らしい。熊本らしい、気骨のある一冊です。 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー

三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念

東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。

※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
 

【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】

スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。

『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』

著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト

◯【書評】

『アウシュヴィッツの小さな厩番』ヘンリー・オースター [著]/デクスター・フォード [著]/大沢 章子 [訳](新潮社)ーーアウシュヴィッツを含む3つの強制収容所を生き延びたユダヤ人が書き残した悪夢のような日常とは? [評]辻山良雄
(Book Ban)

『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)

◯【お知らせ】

我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」

シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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