パリ在住20年に及ぶ著者・野口雅子さんが出会った55人のフランス人マダムたち。彼女たちに教わった人生の知恵を集めたのが『フランス女性は80歳でも恋をする』です。自分を卑下しない、毅然と「ノン」と言う、幸せは隠す、結婚していなくても幸せ、不倫は贅沢と心得る…など、私らしさにこだわる生き方の秘訣が満載です。そんな本書から、エピソードをいくつかご紹介していきます。
本を読みにひとり旅をする
パートナーや家族、友だちと行く旅もいいけれど、ひとり旅には、また別の良さがあります。
短い時間でも、ひとりで旅に出ることで、また新たに頑張ろうと気分がリフレッシュされたり、心に栄養を与えてくれます。
大人の女のひとり旅は、あそこに行って、あれも見て、あれも買って……とバタバタするのではなく、もっとゆったり過ごしたいもの。
「本を読みに旅をする」ことを教えてくれたのは、カロリーヌ。
土曜日の夜、サル・プレイエルでのコンサートのチケットがあったので、カロリーヌを誘ったところ、
「誘ってくれてありがとう。でも、残念。この週末はロンドンに行って来るの。帰ってきたら会いましょう。チャオ!」
というメッセージが入っていました。
「大丈夫、気にしないで。ボン・ヴォヤージュ! 良い旅を」
私もメッセージを返しました。
パリ-ロンドン間はユーロスター(電車)が走っていて、2時間30分ほどで到着、多くの人に気軽に利用されています。いつか私もユーロスターに乗ってみたいと思いながら、翌週、カロリーヌとランチタイムに会いました。
エッフェル塔近くにある待ち合わせのビストロで黄色いフリージアの花束を私に、と差し出してくれたカロリーヌ。
「ありがとう。わあ、嬉しい」
誕生日でも祝い事があったわけでもないのに、お花を贈られるなんて嬉しいものです。
互いの近況報告をした後、
「ロンドンの旅はどうだった? どこに行ったの? いいレストランは見つかった? 何か買った?」
と私は矢継ぎ早に質問しました。
「とってもいい旅だったわ。でも、どこにも行っていないし、何も買っていないけれど」
「ええ? それって、どういうことなの?」
「本を読みに出かけたの」
彼女のお気に入りは、ひとりで高級ホテルに数日間ステイすること(シーズンによって、高級ホテルでもリーズナブルな値段で泊まることができます)。
旅の目的は「本を読むこと」なので、ホテルの部屋で読書、というのがメイン。
だから、ホテル選びが大切。
雰囲気も居心地も良いところ。静かで女性がひとりでいても違和感がないところを選ぶそうです。
でも、せっかくロンドンに行って、流行りのレストランにも行かず、買い物もせず、ルームサービスかデリの食べ物で本を読むだけ?
ちょっともったいない、と最初は思いましたが、カロリーヌの話を聞いているうちに私もワクワクしてきました。
「まず、自分の好きなエリアのホテルを選ぶことね。チェック・インしたら近所を散歩して、お花を買ってホテルの部屋に飾るの」
短い滞在でお花を飾るのはもったいない、とまたもや私の貧乏心は反応しましたが、
「別に豪華なブーケを買うわけじゃないのよ。一輪だけでもいいし」
と聞いて納得です。
花が一輪あるだけで、気持ちが華やいで幸せな気分になるものですよね。
それに、ホテルの部屋を自分の部屋にカスタマイズできます。
こうして数日間、本を読む以外は、
「近所のお店を覗いたり、公園を散歩したりするの」
インターネットにも繋ぎません。
カロリーヌは仕事では専門書を読む必要があるのですが、オフタイムには自分の好きな本を読みたいのです。
好きな作家のミステリー小説や、とりわけ、彼女が愛してやまない考古学の本を。本を読んでいると、そこがどこであれ、彼女を古代バビロニアやインカ帝国に連れていってくれるのです。
「今度はベルリンか、ビアリッツ(スペインに近いフランスの地方)に行こうかな」
彼女の話を聞いてすっかりその気になった私は、どこに行こうか、どの本を持って行こうか、と夢想し始めていました。
持って行く本は、ずっと読みたいと思って去年買ってあった本、まだ読んでいないあの本にしようかな。
想像するところから、旅は始まっています。
フランス女性は80歳でも恋をする
パリ在住20年の著者が出会った、55人のフランス人マダムたち。自分を卑下しない、毅然と「ノン」と言う、幸せはひけらかさない、結婚していなくても幸せ、そんな彼女たちの魅力あふれる人生の金言をご紹介しているのが本書『フランス女性は80歳でも恋をする』です。幸せは自分次第、そんな凛々しい彼女たちの生きざまを1人ずつご紹介します。