新聞は朝刊紙でベタを押さえておくと、夕方のタブロイド紙、夕刊スポーツ紙の下世話さをより深く楽しめる。そんなふうに新聞を味わう時事芸人のプチ鹿島さんが、「ゲンダイ師匠」として尊敬するのが、『日刊ゲンダイ』。日々檄文を飛ばす紙面で起きた、現政権との伝説的事件を、『芸人式新聞の読み方』から抜粋してお届けします。
安倍首相ゲンダイ師匠の“コラコラ問答”
毎日真剣に怒っているおじさん、それが『日刊ゲンダイ』。そんなゲンダイ師匠をウォッチしていてよかったなあと思わせてくれた、私の中で伝説となっている記事がある。それがこの記事である。
《「ある夕刊紙は…」愛読者の安倍首相、日刊ゲンダイを批判?》(2014年2月13日)
記事の冒頭はこうだ。
“安倍首相が12日の衆院予算委員会で、NHK経営委員の百田尚樹氏が都知事選の応援演説で対立候補を「人間のくず」と表現したことを野党議員に追及され、「ある夕刊紙は私のことをほぼ毎日のように〈人間のくず〉と報道しております。私は別に気にしませんけどね」と笑いながら受け流した。”
ここまで紹介して、ゲンダイ師匠は紙面で言い返す。
“どうも日刊ゲンダイを指しているようだが、権力批判や監視が命題のジャーナリズムとは違い、公人である百田氏の「くず」発言を笑いでゴマカすのには疑問が残る。もっとも、本紙は首相のことを「ボンクラ」「噓つき」とは表現したが、一度も「くず」とは報じていない。”
「ボンクラ」「噓つき」とは表現したが、一度も「くず」とは報じていない! なんという切り返しだろう! そして、結びはこうだ。
“麻生副総理と同様、熱心な本紙読者として知られる安倍首相。今後は2人一緒に細心の注意で熟読してもらいたい。”
さらに、記事中の安倍首相の写真には「本紙読者として知られる安倍首相」というキャプションがあったのだ。子どものケンカみたいで最高ではないか。
その昔、プロレスラーの長州力と橋本真也が、記者会見で「おいコラ、タコこら」をお互いに言い合う「コラコラ問答」というのがあったのだけれど、この記事は「安倍首相ゲンダイ師匠」のコラコラ問答として、私の中で伝説となったのである。
そしてこのコラコラ問答から2年経った2016年2月。またしても安倍首相とゲンダイ師匠の「直接対決」が勃発した。
2月4日の衆院予算委員会で民主党議員が「言論機関が権力者の意向を忖そん度たくし、権力者への批判を控えるようになるのではないか」「安倍政権に批判的なテレビキャスターやコメンテーターが次々と番組を降板している。民主主義の健全な発展にもマイナスだ」と問うたところ、「今日、帰りにでも日刊ゲンダイを読んでみてくださいよ。これが萎縮している姿ですか」と安倍首相が答えたのだ。『ゲンダイ』、国会で2年ぶりの登場。
これに対し翌日のゲンダイ師匠は、「日刊ゲンダイを読めとは恐れいる。」と書く。
そして「一部の特殊な例を挙げて、それが全体に当てはまるかのように丸め込むのは、典型的な詐欺師の手法だ。」。ゲンダイ師匠の反撃が始まった。
「国会の場で安倍サマのお墨付きを得てしまった以上、今後も必死で報道の自由を行使しなければならないが、そんなに愛読しているのなら、ぜひ記事の内容もきちんと理解してもらいたいものだ。」と追撃。
小見出しは、
《言葉の端々に現れるボクちゃん政治家のご都合主義と国会と野党への侮蔑、蔑視》
《詐欺師も逃げ出す居直り詭弁すり替え答弁の数々》
ボクちゃん政治家相手だけではない。「かくもオレ様政治をつけあがらせた大メディアの腐敗堕落と寒々しいほどの野党の無力」。
返す刀で「安倍が威張っていられるのは、メディアが忖度して権力者を支えているせいもあるが、それにまんまとダマされる有権者もリテラシーが低過ぎる。」
首相、マスコミ、有権者をすべてぶった斬り。
ゲンダイ師匠が炸裂した日であった。
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『芸人式新聞の読み方』では、この後に『日刊ゲンダイ』がよく使うフレーズ、「ゲンダイ用語の基礎知識」を収録。「ペテン」や「赤っ恥」「笑止千万」など、その独特の言葉遣いは必読です。
さらには、ゲンダイ師匠がプチ鹿島さんに会いに来てくれたという記事も紹介しています。ぜひご覧ください。
芸人式新聞の読み方
プチ鹿島著『芸人式新聞の読み方』試し読みを文庫化記念で再び。