(photo : 齋藤陽道)
はじめて会う人でも、その人となりは多くの場合、出会った瞬間に伝わるものです。顔の表情、声色とその大きさ、身体の動きなど、私たちはその人から様々な情報を瞬時に感じ取り、内面をある程度判断していると思います。
本も同じであり、その本を手に取っただけで、開かなくてもその本のことがわかってしまうことがあります。それはその本の文章や言わんとしていることを、本の作り手がうまく一冊の形にしているからだと思います。端正な文章の本には、派手な色の太い文字は似合わないでしょうし、実用を主な目的とした本には、細字の明朝体ではわかりにくいかもしれません。本も人と同じで、一冊一冊の持つ個性、発する声の特徴が異なるのです。
Titleの店頭には、通常の書店に見られるようなPOPを付けておりません。大きなPOPは後ろの本が取りにくくなりますし、何よりその本の顔である表紙がきれいに見えなくなります。本の顔をきれいに見せることで、一冊の本が本来持っている、その小さなつぶやきが聞こえやすくなります。
その本を置く場所を整えて、そこに置いてみるだけで、それが存在感を放つ本であれば、自然とお客さまがその本を手に取ります。何の本を手に取るかは、すべてお客さまが自分の興味やその時の気持ちに合わせて決めることだと思います。本屋に出来ることは、出来るだけお客さまが本と出合う邪魔をせずに、その環境を整えることです。POPを出さないというのもその一つですし、隣の本との関係も自然なものが良いでしょう。他にもBGMや空調、レジ位置など様々なディテールの積み重ねにより、「本と出合う場所」が出来上がっていくのです。
本屋は人の書いたもの、すなわちその人のたましいを扱う場所です。たましいが取り扱われるには、それにふさわしいような整えられた場所が必要だと思います。
今回のおすすめ本
店頭で発する声がひときわ大きな本。とは言え、それは声の大きさではなく、強さというべきだと思う。この本を読むともう後戻りが出来なくなるのではないか、現物を見るとそんな気持ちになる本です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。