店内で出版社の友人と話をしていると、その後ろにマンガ雑誌と小さな財布を持った小学生らしき男の子が並んでいました。その子の会計を済ませると「ありがとうございました……」とはにかんだ様子で帰って行きましたが、友人はたいそう珍しい光景を見たように、しばらくその男の子の後ろ姿を、目でじっと追いかけていました。
あまりそういうイメージを持たれることは少ないのですが、Titleには親子連れ、子どもたちだけのグループも多く来店します。店から少し歩いたところには、最近建てられたマンションが並び、子育て世代の人たちが多く住んでいるのです。親子連れで来たお客さまは、大概お父さんやお母さんが自分の見たい本のところに行こうとしますが、お子さんが気になる絵本をせがむか、すごい勢いで2階のギャラリーに向かって階段を上っていきますので、結局親がぶつぶつ言いながら、それを追いかけることになります(子どもはどうして階段を見ると上りたくなるのでしょう)。
もう少し大きな子どもになると、自分の財布を持って本を買いにきます。もっともその殆どはマンガ雑誌で、男の子なら今も変わらず『コロコロコミック』(私の子どもの頃もそうでした)、女の子なら『りぼん』『なかよし』『ちゃお』のどれか。たまに来る本が好きな子なら、ケストナー『飛ぶ教室』などの古典や、細田守『おおかみこどもの雨と雪』、宗田理『ぼくらの七日間戦争』などの子ども向け文庫のシリーズを買っていきます。親にとっても、本屋というところは子どもたちだけで行っても安心な場所なのでしょう。
子どもに本を渡すときには、甘くなりすぎないように注意します。子どもが親や先生以外の大人に触れるのは重要なことだと思うので、そう考えると大人に対するときと変わらない接客が良いかなと思いました。町なかに店があるということは、地域の中では〈本屋のおじさん〉という役も担っているのだと、店を開いてみて気が付きました。
今回のおすすめ本
「あさになったのでまどをあけますよ」の繰り返しで進む絵本は、特にストーリーはない。世界のさまざまなところで、いまこの時間にも誰かが窓を開けていることが、何かしらの救いになるという作者の祈りを感じる。とにかく、いちばん好きな絵本です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。