

Titleの2階に上がる階段の下には、一般の書店ではあまり見かけることのない、主に個人が自主制作したリトルプレスの棚があります(様々な呼称がありますがTitleではリトルプレスと呼んでいます)。出版社が大量生産する本とは異なり、その形や大きさは様々。表紙を付けた紙を二つ折りにしてホッチキス止めした簡単なものから、一枚の紙を畳んでビニールに入れただけのもの、クロス張り・糸かがりなど手間をかけた手製本まで、一括りに「リトルプレス」と言っても、こんなにバラエティがあるのかと、新しいものが持ち込まれるたびに驚かされます。
その内容も様々で、詩、小説、写真、イラストレーションの分野以外にも、サツマイモ好きが高じサツマイモのワンテーマだけで作った『イモヅル』、昭和の喫茶店に寄せる視線が熱い『喫茶ふしぎ探訪』、ハワイに住む日系人コミュニティの風俗史『TIME TRAVEL』など、一つのテーマを深く突き詰めたものが、最近では特に面白く感じられます。

また、各地域で発行されているリトルプレスもTitleでは数多く取り扱っています。『Life-mag』(新潟)、『そらあるき』(金沢)、『シリエトクノート』(知床半島)、『つき草通りで』(和歌山)、『アルテリ』(熊本)など……。その土地で働く人びとや営まれている暮らしを採り上げた記事は、それがその地に深く根差したものであれば、読む人がどこに住んでいても受け入れられる強さを持ちます。
どんなテーマであれ、自分が伝えたい世界を冊子のかたちで自由に表現できることが、リトルプレスの面白味です。そんな気軽な面白さに惹かれるのか、出版社に勤める編集者でも、その一方で個人としてリトルプレスを発行している例もあります。そればかりか最近では、メジャーな出版社から本を出しているようなプロの作家、漫画家、写真家などが、自主製作で本を作る例も増えてきました。
Titleでは一般に流通している本と、インディペンデントに発行されているリトルプレスを、区別せずに置いています。その理由はどちらも同じ〈本〉であるということに尽きますが、一般に流通している本にしか普段接していない人に、「本はもっと自由なものなんですよ」と知ってほしいということも一つにはあるからです。
今回のおすすめ本

イベントの際、作家の青木淳悟さんからお預かりした本。父親の秘密部屋から発見された34枚の絵。どの絵にもモチーフとして女性の裸体像が(半ば無理にでも)埋め込まれており、その過剰さは作家である息子の想像力を掻き立てずにはいられなかった。リトルプレスとは愛であり、強い衝動であると改めて思った。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年3月14日(金)~ 2025年3月31日(月)Title2階ギャラリー
漫画家・上村一夫が1974年に発表した短編集『あなたのための劇画的小品集』の復刊にあたり、当時の上村作品を振り返る原画展を開催します。昭和の絵師と呼ばれた上村一夫は、女性の美しさと情念の世界を描かせたら当代一と言われた漫画家でした。なかでも1972年に漫画アクションに連載された「同棲時代」は、当時の若者を中心に人気を集め、社会現象にもなりました。本展では、『あなたのための劇画的小品集』と同時代に描かれた挿絵や生原稿を約二十点展示。その他、近年海外で出版された海外版の書籍の展示・販売や、グッズの販売も行います。
◯2025年4月5日(土)~ 2025年4月22日(火)Title2階ギャラリー
大江満雄(1906-91)は、異なる思想を持つさまざまな人たちと共にありたいという「他者志向」をもち、かれらといかに理解し合えるか、生涯をかけて模索した詩人です。その対話の詩学は、いまも私たちに多くの示唆を与えてくれます。
Titleでは、書肆侃侃房『大江満雄セレクション』刊行に伴い、著作をはじめ、初公開となる遺品や自筆資料、写真などを紹介する大江満雄展を開催します。
貴重な遺品や私信に加え、大江が晩年「風の森」と名付けて、終の棲家とした家の写真パネルなども展示。本書収録の詩や散文もご紹介します。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)
◯【お知らせ】
メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回。老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。