

Titleは小さな本屋ですので、当然世の中に出ている本のすべてを置いている訳ではありません。しかしどんなに大きな店やネット書店でも、その時たまたま売り切れていたり、様々な理由から取り扱いができない出版社の本も多いので、すべての本を揃えるということは〈夢〉に近い話だとも言えます(限りがある店頭だからこそ、そこに何を置くかという面白味が生まれてきます)。
「この本の在庫はありますか」と聞かれた時、ない場合はそれで終わらせてはいけません。問屋の在庫を調べ、問屋に在庫がある本に関しては到着予定の日付もわかりますので、「ご注文頂ければ、明後日入る予定です」と入荷の日付までお伝えするようにしています。日付がわかれば安心するのか、急いでいたり遠くから来ている人以外は、大概注文してくれます。「読みたい」という気持ちを損なわなければ、そこまですぐでなくても構わないという方は、案外多いのではないでしょうか。
以前、書店チェーンに勤めていた頃は、この〈客注(きゃくちゅう)〉を取るのが嫌でした。当時は途中の流通の段階で、事故があり本の入荷が遅れたり、汚れた本が入ってきたりしてトラブルになることも多かったからです。人は無意識に〈厄介なこと〉を避けようとしますから、なるべく注文は受けないように、及び腰になる書店員の姿も多く見かけました(もちろんどこのチェーンでも、売上に繋がる注文は積極的に取るように、会社からは言われております)。
しかし〈客注〉は同時に、店の固定客作りにも繋がります。一度注文をしてくれたお客さまは、その後店を何度もご利用することが多いですし、先ほど書いたような事故が起こったとしても、それを前もってきちんとお伝えすれば、納得される方がほとんどです。
そうしたコミュニケーションをお客さまと繰り返すうちに、その方のことをだんだんと理解するようになります。例えばある本が発売になり、それを喜びそうな人の顔が思い浮かぶと、言われなくてもその本を注文しておくようになります。雑談から、店にないけれども必要な本を教えてもらうこともあるでしょう。そうした関りがいくつも増えてくるのが、店をやっている醍醐味とも言えます。
今回のおすすめ本

『月刊ドライブイン vol.1』取材・写真・文橋本倫史(HB編集部)
前回はリトルプレスの話をしましたが、これはいまTitleで一番人気のリトルプレス。高度経済成長と共に、全国の国道沿いや観光地に増えていったドライブイン。その現状とそこで働く人を見つめたレポート。
「いま取材しないと、何年かすればなくなってしまう」という危機感にかられ、制作を急いだ橋本氏。その切迫感は、静かな筆致からも伝わってくる。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年3月14日(金)~ 2025年3月31日(月)Title2階ギャラリー
漫画家・上村一夫が1974年に発表した短編集『あなたのための劇画的小品集』の復刊にあたり、当時の上村作品を振り返る原画展を開催します。昭和の絵師と呼ばれた上村一夫は、女性の美しさと情念の世界を描かせたら当代一と言われた漫画家でした。なかでも1972年に漫画アクションに連載された「同棲時代」は、当時の若者を中心に人気を集め、社会現象にもなりました。本展では、『あなたのための劇画的小品集』と同時代に描かれた挿絵や生原稿を約二十点展示。その他、近年海外で出版された海外版の書籍の展示・販売や、グッズの販売も行います。
◯2025年4月5日(土)~ 2025年4月22日(火)Title2階ギャラリー
大江満雄(1906-91)は、異なる思想を持つさまざまな人たちと共にありたいという「他者志向」をもち、かれらといかに理解し合えるか、生涯をかけて模索した詩人です。その対話の詩学は、いまも私たちに多くの示唆を与えてくれます。
Titleでは、書肆侃侃房『大江満雄セレクション』刊行に伴い、著作をはじめ、初公開となる遺品や自筆資料、写真などを紹介する大江満雄展を開催します。
貴重な遺品や私信に加え、大江が晩年「風の森」と名付けて、終の棲家とした家の写真パネルなども展示。本書収録の詩や散文もご紹介します。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)
◯【お知らせ】
メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回。老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。