英語コミュニティの新住人「英語キッズ」
BFCの最初の本『世界一簡単な英語の本』が、2001年に世に出てから15年余。子どもの英語教育に携わる者として、近頃特に感じるのは、英語ができる子どもが増えたこと。正確に音読し、ざっと内容も理解し、簡単な英会話もする…。大人として驚きの、そんな「英語キッズ」が、いつの間にか英語コミュニティの住人に仲間入りしている。
ひと昔前までは、せいぜいアルファベットと少々の単語を知っている程度だった子どもの英語。それがここまで変わってきたのには、英語を教える、または英語で教える、「インターナショナル」を冠した幼稚園や保育所が激増した影響があるだろう。それまでの、主に外国人子弟向けのインターナショナル・スクールとは違い、日本人向けで近所にあって、そう高額でもない。身近になった「インターナショナル」幼稚園や保育所が、「英語キッズ」をせっせと育んでいるようだ。
そんな2017年に、BFCの新刊『世界一簡単な英語の大百科事典』が出版された。主なターゲットは、前作と同様に「今度こそ」と英語に再挑戦したい大人だろう。だがその脇には、英語コミュニティの新住人「英語キッズ」が、大人の補助はいるが、新たな読者として控えていそうだ。
「英語が分かる世界」に通じるドアの前
BFCの英語が特に役立つのは、著者の言を借りれば「設計図や見本の絵のないジグソーパズルのピースが頭の中に入っている」ひとだろう。英語の全体図の細切れ=ピースが頭に散らばって入っていて、ところにより組み立ても始まっている。学校で英語を学んだが、「まだ英語ができない」と思っている多くの日本人の頭の中だ。
そこに、BFCの究極の英語ルール「A → B」や「A = B」、それにコツを少々入れれば、ピースはどんどんはまっていき、ついには「分かる!」と感じる瞬間を迎える。その瞬間はドアをひとつ開けた、すぐそこにある…。とても励まされるイメージだ。こうして、ドア前でBFCに背中を押されるのは、これまで大人だったが、気がつけばそこに「英語キッズ」もいる。
「英語キッズ」の頭の中
日頃のレッスンや書店などの英語絵本イベントで、子どもたちの頭の中を覗いてきた。 4歳~小学3年生で言えば、ひと昔前まではせいぜいアルファベットを知っている程度が大勢だった。ところが近年は、アルファベットは知っていて当たり前、単語もそこそこ分かる。驚きは、その先を行く英語圏の小学1年生上半期程度の英語力を持つ「英語キッズ」の存在だ。
異なった時制も不定詞や受動態も普通にまじった文章、日本の中学2年生用教科書程度だろうか、その文や単語の多くを認知し、まだ流暢ではないが音読できる。すなわち、「設計図や見本の絵のないジグソーパズルのピースが入っている」状態だ。
これまで大人が中学、高校と学校で学んでやっと溜まったピースが、すでに頭にある「英語キッズ」。その大多数は、英語が密だった環境から、普通の小学校の日本語環境に移る。そこで長く放って置くと、せっかくのピースが記憶の底に沈みかねない。そこにBFCの「英語のひみつ」を。周囲の大人がこれを彼らに伝授して、ぜひともドアのむこうまで連れて行ってあげてほしいと思うのだ。
「A→B、A=Bなんてかーんたん!」
小学生、それも低学年にBFCは難しすぎないだろうか。
確かに、字が小さい。ふりがながなく小学校低学年には読めない漢字がある。それにまだ不器用な手に、本の版が小さい。でも、問題はそのくらいか。
イラストも多く、パラパラもある楽しい体裁だ。「勉強臭」がなく、男子にも受けそうだ。心の機微まで映したイラストは、日本語の干渉なしですっと英語の意味が頭に入る。それに、幼児期から母語だけでなく英語という負荷をかけられて育ったキッズは、概して理解力も高い。発達の個人差はあるが、小学校低学年といえば、ちょうど抽象的な概念の理解も始まる年齢だ。BFC式の明快なルールは、子どもらしい知的優越感を与えつつ、キッズの頭に違和感がないらしい。
「A→B、A=Bなんてかーんたん」
試しにBFCのルールを教えたら、「英語キッズ」たちは指導者の少々高をくくった態度を感じて、小鼻をふくらまして言った。10分弱ずつ、これがBFCの2つのルール説明に要した時間だ。それから、すでに読んだ絵本の本文を単語単位にばらしたカードを、まるで空腹のライオンに餌をやるように、キッズの前にばらまいた。すると餌を取り合うように、カードはみるみる「A」「B」にあたる名詞、そして「=」「→」にあたるbe動詞と一般動詞に、キッズの手で分類されていった…。
英語キッズ、恐るべし。子どもにも簡単なBFC、恐るべし。