今、話題のVR(仮想現実)映像。書籍『VRスコープ付き タイムトリップ 日本の名城』では、付属のQRコードをお手持ちのiPhoneで読み取って、特製VRスコープに入れることで、手軽に名城のVR体験ができます。
頭の向きを変えると臨場感のある映像が全方位に広がり、復元された名城が目の前にあるかのよう。まるで時間旅行をした気分に――。
書籍では「おんな城主 直虎」の時代考証などで知られる小和田哲男氏監修のもと、全国の20名城をCGイラストで復元。豊富な解説で歴史や逸話がわかるとともに、城内の見どころやアクセスガイドを網羅し、城めぐりに役立つ一冊です。
今回は小和田哲男氏による「はじめに」を試し読みとして公開します。小和田氏流、お城の楽しみ方とは?
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戦国時代の城、近世の城を問わず、城を訪れる人がふえている。
戦国の城ならば、土塁や空堀などの遺構を確かめ、築城者の知恵と工夫の跡を探り、近世の城ならば、天守や櫓(やぐら)などの建造物にふれて歴史を体感するなど、人それぞれ、城への接し方は違うかもしれない。
私の場合、城を訪れたとき、そこに何もなくても、「城が使われていたとき、どうなっていたのだろう」と想像しながら歩いている。頭のなかで、自分なりの推定復元を試みているというわけだ。似たような地形や構造の場所であれば、類例を思い出したり、絵図などに描かれている情景を頭に入れていて、「ここには門があったのではないか」とか、「多聞櫓(たもんやぐら)のようなものがあったかもしれない」などと、城が生きていたころの様子を頭に描き出すことを楽しみとしている。
しかし、どうしても限界がある。戦国の城で、戦国時代の建造物が残っている城はほとんどないのはもちろんだが、近世の城でも、明治の廃城令で、全国の城のほとんどが破却されてしまったからである。遺構がよく原形を留めているといわれる姫路城でも、江戸時代まであった建物全体からすればわずかである。往時の姿を想像するのはたしかに難しい。
本書は、そうした幻となった城をCGで再現しようとしたものである。遺構や絵図などを参考にしながら、「ここにはこういう建物があったのではないか」と推定しながら描き出した。
CG作成の参考資料には、絵図などをもとに、地元の博物館や歴史資料館などが推定復元した模型なども含まれている。
いくつかの城には、諸説あり、定説とはなっていない部分も含まれているが、それはそれで、これからの研究材料になるのではないかと考えている。
また、城郭部分だけでなく、城下町まで描いたものも何枚か用意した。それは、私自身が城下町も城の一部と考えているからである。特に戦国期の小田原城などは惣構(そうがまえ)ぬきには語れないのではなかろうか。
さらに本書では、各自治体の協力のもと、スマートフォンと連動したVRの映像も楽しんでいただけるようになっている。
今は幻となってしまった名城が、想像の世界から抜け出してVRで360度にわたって再現される。
スマートフォンと本書を手に、CGを駆使した新しい城めぐりを楽しんでいただければ幸いである。
小和田哲男
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