老いるとはどういうことか。5つの老人病(痛風、前立腺肥大、高血圧、頸痛(けいつう)・腰痛、慢性気管支炎)に次々襲われた著者64歳の体験記。著者は痛みにどう対処したのか。余計な手術ばかりする整形外科医と、長生き推奨医の罪も糾弾する痛快エッセイ。――『老人一年生』(副島隆彦著)
若い人は残酷だ
これは私の身近な友人から聞いた話である。50歳の娘が、80歳になる自分の父親が病気になったので、外国で結婚して暮らしているのに、わざわざ帰ってきた。その娘が、父親に向かって言ったそうだ。「お父さん! どうして寝込んでるの? 元気を出しなさいよ!」と病室に入ってくるなり、言って、かけ布団の上から体をバンバンひっぱたいた、というのだ。それは実の娘が父親を心底(しんそこ)、励まそうとして取った親身(しんみ)の行動だ。
父親は最初のうちは、「うん、うん」と言って娘の言うことを聞いていた。ところが、娘が自分の体の痛みをちっとも理解してくれない。そのうち、あまりに、バンバン励ましの叩きをされるものだから、ついに嫌になって、横を向いてしまった。父親は、「もういいよ」「もうお前とは口も利きたくない」と小さな声で言った。これが真実の老人の姿である。
娘にしてみれば、父親に寝込まれると、その看病の一部が自分の責任になる、と感じて、父親をバンバン元気づけ勇気づけるのである。「おとーさん。80歳でも元気で働いている人はたくさんいるのよ」と。実の父と娘の関係であっても、こうである。この50歳の娘には、80歳の親の体の痛みが理解できないのだ。ああ、まったく。
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老人一年生
5つの老人病(痛風、前立腺肥大、高血圧、頸痛・腰痛、慢性気管支炎)に次々襲われた著者・64歳の体験記。老化のぼやきと、骨身にしみた真実を明らかにする痛快エッセイ。