老いるとはどういうことか。5つの老人病(痛風、前立腺肥大、高血圧、頸痛(けいつう)・腰痛、慢性気管支炎)に次々襲われた著者64歳の体験記。著者は痛みにどう対処したのか。余計な手術ばかりする整形外科医と、長生き推奨医の罪も糾弾する痛快エッセイ。――『老人一年生』(副島隆彦著)
腰痛は本当に、背骨からくる神経の痛みなのか?
これまでに椎間板(ついかんばん)ヘルニアの切除手術は、全国でものすごい数の人たちに行われてきたらしい。ヘルニアという飛び出した軟骨の部分を削り取って切除する手術だ。
私に筋膜(きんまく)注射をしてくれた医師によれば、「その手術自体が大きな間違いだ。手術がさらに体を痛めつける結果になることが多い」そうだ。彼はもともと麻酔学が専門の医者で、私に、「整形外科の医者はすぐに切ろうとするんだよね」と気さくな言葉を使って話してくれた。
私は大変驚いた。
椎間板ヘルニアの手術は、手術のあとも痛みが再発する人が多いという。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と診断されて、手術を受けた人たちの中に、手術によってさらに症状が悪くなっている人たちが大勢いるのである。手術をしてもヘルニアの症状が再発し悪化するとは。いったい何のための手術なのか。それは、やはりどう考えてもおかしい。なんと、この手術をしてもよくならないことを指して「再発性」などと当の整形外科医たちが呼んでいるそうな。
この筋膜注射をしてくれた医師から、本当のことを教わるまで、私自身が、完全に騙(だま)されていた。私は自分が脊柱管狭窄症の患者なのだと思い込み信じていた。文科系の知識、言論人として、たくさんの問題作(?)の本を書いてきた私だけは、「簡単には世の中のウソには騙(だま)されないぞ」と、注意深く生きてきた。ところがこの私でもコロリと騙されていた。
首から両腕にかけてしびれが起きるのも、肩が凝るのも、それから腰の痛みも坐骨神経痛も、すべてヘルニアのせいだと思い込まされていた。だが、今回の経験で、これが全部ウソであることがわかった。
どうやら腰痛も頸痛も、手足のしびれも、決して背骨の問題から来る痛みではない。手足のしびれや、お尻から太腿(ふともも)にかけての、いわゆる「坐骨(ざこつ)神経痛(しんけいつう)」とこれまで世間で言われている痛みも、これは決して骨(脊柱と椎間板)からくる神経の病気ではない。骨から起きる痛みではないのだ。
どうやら、筋肉の中の血管が圧迫されて痛みが出るのである。だから、腰痛とは、文字通り「腰の筋肉の痛み」であり、だから「筋痛症(きんつうしよう)」と呼ぶべきであって、骨の病気ではない。
筋肉の痛みである腰痛(ようつう)を、「骨格の異常である」と言い続けたのが、この50年、100年間の整形外科医たちである。
今でも大学病院や大病院の整形外科医ほど、たくさん椎間板ヘルニアの手術をしている。今の今もどんどん切っている。先ほどのレントゲン写真の女性の通りである。これは大変危険なことだ。おそらくこれは医療犯罪と呼んでもいい、大変なスキャンダルだと私は気づいた。全国の真面目な町医者たちが、どうもこのことに気づいている。しかし彼らはぶつぶつ言うだけで、学界に向かって大きな声をあげることをしない。きっと押しつぶされるのだろう。
(続く)
老人一年生
5つの老人病(痛風、前立腺肥大、高血圧、頸痛・腰痛、慢性気管支炎)に次々襲われた著者・64歳の体験記。老化のぼやきと、骨身にしみた真実を明らかにする痛快エッセイ。