20代の頃の恋愛はきつかった。そう語る作家の白岩玄さん(新刊『世界のすべてのさよなら』)と、『家族無計画』の著者で現在 15歳と11歳の子を持つ働くシングルマザー紫原明子さんが語る男と女、結婚、夫婦、モテ……と、そのほかのあれこれ。(撮影:岡村大輔)
強い女性が怖い
紫原 例えばちょっと上の世代の強い女性ってどう感じますか? 男性とセックスして「よかったわよ」みたいな、求められることじゃなくて求めて得ることに喜びを得る女性もいますよね。そういう女の人はどうですか? 怖いですか?
白岩 どう思うかな。怖くはないな。
紫原 恋愛とか性の対象になりますか?
白岩 全然なると思います。
紫原 どういうところが魅力的に見えますか?
白岩 タイプによって違うと思うので、ひとくくりには言えないですけど。魅力的ではない、とは思いませんね。こうあって欲しいというのを押し付けない人が魅力的です。
紫原 世の中の男性って本当か嘘かわからないけど、日本にロリコン多いとも言われいて、弱い女性が好きというイメージがあります。強い女性は怖がられるというような。性に積極的な女性も。私は、色っぽいおばさんがいてもいいと思ってて。性に対して主導権を持つ女性がいたっていいじゃないって。
白岩 性に奔放な女性がどうとかっていうのも、男性の自信の問題ですよね。自分に自信が持てなくなりそうだから怖いという。でも、僕は女性家族で育ってるので、その影響は受けてます。ちっちゃい時に父親が亡くなって、姉が二人いるんですけど、あと母とおばあちゃんと。すっごい女家族のなかで育ったので、強い女性は怖いというよりむしろ安心する。
紫原 家庭のなかでの役割はどういう感じだったんですか。男一人ですよね。
白岩 男の子だからという意識はなかったですね。ただ話の輪には入れませんでした。常に旅行とか食べ物の話しかしてないから、食卓ではひとりぼっちというのはあったし(笑)。 あとは女性が傷ついているのを裏側で見てる人間なんですよ。例えば姉が彼氏と別れて泣いてるのを見ている。だからなのか、女性を苦しませてはダメというのがすごく刷り込まれている一方で、自分のなかにある男の要素が毎回喧嘩する。父親は破天荒な人で、旅行を決めていたのに当日になって「行かない」ってキャンセルするようなところがあったので。
紫原 それはみんな泣きますね。
白岩 母がそういうことで傷ついていたこともなんとなく知ってて、そういう母親が自分の中に宿ってるというか、息づいちゃっていて。一方でそれをすごく否定したい気持ちもあって、「知らねーやったれー」と思ったり。
紫原 お母さんとお姉さんを「守らなきゃ」はなかったですか?
白岩 そこまで強くなかったですね。とにかく傷つけるのはよくない、そこでしたね。
弱みを見せない男。弱みを見せて分散させる女
紫原 そうすると、男性が傷つく様子は見たことないんですね。考えてみたらうちの子たちも父親が傷ついたところを見たことがないな。男親が傷つくところはあまり目にしないのかもしれませんね。そして男同士でも共有しないですよね。男の人って父親以外でも、他人が傷つくところを、友達同士でも見せないですかね。
白岩 たしかに男の人は弱みを見せない、悩みを話さない、人に相談しないというのはあると思います。同世代でもその息苦しさがあります。「お前そこに問題あるな」と見えてますけど互いに言い合わないし。
紫原 幼稚園や小学校でも、男の子は弱みを見せない。
白岩 強がっちゃう子は多いかもしれませんね。弱みを見せたときに受け入れてくれるのはお母さんなんでしょうけど、大きくになるにつれて母親からはいつか離れないとって思い込むから、大人になったときに他人に弱みを見せられなくなるのかも。
紫原 たしかにお母さんからの自立と女性に甘える、寄りかかるって相反することだ。
白岩 そのままいけちゃったら楽なんでしょうけど。
紫原 女性は友人同士で自分の弱みを話して連帯感を強めるコミュニケーションが取れるんです。
白岩 男はそれができない。
紫原 訓練でなんとかなりませんかね。
白岩 それで何十年も生きてると難しいでしょうね。50代、60代男性の自殺が多いのも理解できます。一人で抱え込んじゃうから、味方がいなくなっちゃう。
血のつながった子供に唯一関係性を感じられる
紫原 周りのおじさんたちが言うには40くらいでガクッと落ち込むって。仕事においての限界が40くらいで見えるらしいんです。この先がないとか、この先モテないままおじさんになるとか。仕事の限界、モテの限界。あらゆる限界が見えて、生活に張り合いがなくなっちゃうというんです。一方で、「私もうダメですよ」って肩の力が抜けた、ちょっとダメなおじさんって魅力的です。ダメの出し方が年とともにうまくなっていくといいんでしょうか。
白岩 自分のことを肯定できる人間ほど強いものはないですからね。
紫原 どっかの段階で一回すごく傷つくんでしょうね。もうダメだなって。
白岩 それを受け入れられたらいいですけど、受け入れるのを失敗するときついですよね。ダメなことに気づかないまま、もうこのままの俺でいいぞっていっちゃってみんなに迷惑かけたりとか、俺はダメだと思い込みすぎて病んじゃって周りに誰もいなくなったりとか。
紫原 使える権利を駆使してお金とか地位とかコミュニケーションを築いてこなかったあなたが悪いってことになっちゃうのかな。
外で性にアクティブなおじさんとか、色気があせないおじさんとかも、必ずしも孤独を埋められているとは思えないというか。その人たちと話すと、闇が深いとも思います。おうちにいられない、早く帰れない、そんな自分を後ろめたく思ってるとか。男コスプレを続けてきた男の人が中年以降自分を慰めていくのは難しい気がして。そこにはちょっと同情します。元夫に対しても経営者は孤独だと思ったし、孤独がすごく深い人だと思ってました。私にもし男性に対して温かい目線が少しでもあるとするなら、男性の孤独がなんとなくわかるというか、そこかもしれないですね。それでかわいそうって思ってたのかもしれないです。上からです(笑)。
白岩 男性は社会でどうしてもマジョリティで既得権益があって優遇されているから、単純にかわいそうと言ってしまうと女性から猛反発を喰らうでしょうけど。
紫原 いやでもやっぱりかわいそうだと思いますよ。寂しいって、家族がいるのに、よその女にしか言えないとかっていうのは。
白岩 関係性を築く能力が低いですからね。男の人が関係性を感じるのは、唯一血縁だけじゃないかな。縦のつながりというか、両親だったり、血のつながった自分の子供にこだわりますよね。
紫原 男の人、自分の子どもにこだわりますか?
白岩 こだわるんじゃないですかね? 是枝監督の「そして父になる」って映画もそういう話でしたし。自分が育てた子どもよりも、実際に血がつながっている子どもの方が気になってしまうのは男の人っぽいと思います。
紫原 産んだ者としては、自分のお腹にいたという実感があるから、体から出て他人になった瞬間もすごくリアルに感じるんです。男の人は産まないから、我が子と完全に分離したとかそういう実感がなくて逆に自分の子にこだわるということがあるのかもしれませんね。
白岩 妻が今妊娠してますが、まだ産まれてないせいか、子どもとのつながりを実感できないんですよ。
紫原 そうでしょうね。
白岩 びっくりするほど他人事で。こっちは体の変化はないし、妊娠何週目っていまだに覚えられないし。自分のことと思う感覚がなくて。
女性は30でザワッとする。男性は40でザワッとする
白岩 男性が自分の人生に深くコミットしてくれると嬉しいですか?
紫原 そうですね。自分の影響力を及ぼそうとしてくれているのが嬉しいかな。
白岩 ぐいぐいくる男の人が嫌じゃない人も多いのかな。
紫原 そこには錯覚があるかもしれませんね。ぐいぐいくる人たちはホテルまでしかコミットしなかったり。
白岩 たしかに。関係性は一時期で終わっちゃいますね。男性のコミット力はそういうところですごく強いけど、ある一定の範囲を越えると全くコミットできなくなる。自分の中にこもってしまうというか。
紫原 少女漫画を読んでると、自分が悲しいときに仕事を放り出してでも来てくれる男の人がいるんですよね。そういう優しさの表現を、みんなができなくても、5人に1人くらいはできるんじゃないかみたいな幻想を、大人になった直後はまだちょっと持ってて、徐々にそんなことあるはずないと気づきます。
白岩 そういう人を探すのか。
紫原 探すうちに「あれいない」ってなって、気づいたらアラサーになっててザワッとする。
「決めたい」けど「決めるのが辛い」男を女が強引に導く
紫原 逆に30過ぎの独身男は俄然モテますよね。ハングリーな目で女性から見られると引きますか? 結婚したがってるなと思うと乗りたくなくなる、みたいな。
白岩 それはありますね。
紫原 ですよね。だから30過ぎての恋愛は女の人に不利になるんでしょうか。
白岩 離婚してる人はモテるけど。
紫原 結婚を急がないことが多いから。それはあるかも。
白岩 何が怖いのかは自分でもよくわからなくて。全部結びつけちゃいますけど、それも自信の問題なのかなって。自分が決められないんじゃないか、決定させられるんじゃないかという。
紫原 そこで力技で結婚に持ち込む女の人がいるじゃないですか。それもある意味、「親切」なのかな。決定できないなら決定してあげたほうがいいんですかね。
白岩 そういうのが好きな男性もいると思います。でも30まで独身の男の人は「自分で決めたい」と思う人も多いんじゃないかな。
紫原 決めるタイミングを待ってる?
白岩 決められなかったから残ってるわけですよね。だから「決めたい」「いつか自分でそのボタンを押したい」と思ってるんじゃないかな。
紫原 30過ぎてまで押せなかったら自分は押せないのではないかという不安もあるでしょうか。
白岩 その分、どんどん握りしめるんですよ。絶対押すタイミングを逃さないぞという気持ちが高まりますよね。
紫原 ここぞという時に押す?
白岩 それが押せなくて。結局、意外とみんな、子どもができたとか、周りをかためられて後戻りできなくなって押すっていう。笑
紫原 自分で「決めたい」と「決めるのが辛い」があるんでしょうね。
男たちの星野源問題
紫原 星野源さんって今すごく人気ですよね。ああいう、ちょっとかわいらしさのある男の人が支持されることについてはどう思いますか?
白岩 いいんじゃないですかね。なんというか、星野源さんって、これまで男性が考えていた男らしさとは少し違うところで自分を確立されてる感じがするので。
紫原 と言いますと?
白岩 言い方が難しいんですけど、旧来的な男らしさが鬱陶しいと思う一方で、やはり自分の思う男らしさを捨てきれないところもあるんですよ。そういう自分が、星野源さんみたいな男性を目にすると、すでにその問題をクリアされているような感じがして。だから僕なんかはちょっと落ち込むんですよね。俺はそこに行けてないなぁと思って。
紫原 落ち込むんですか。笑
白岩 これが例えば佐藤浩市さんをどう思うかだったら、もうちょっとシンプルに「カッコいいなぁ」で終わるんです。星野源さんはそことはまた違うジャンルじゃないですか。
紫原 佐藤浩市さんはたしかに、もっとダンディーなカッコよさですね。
白岩 あとはジャニーズまで行っちゃえばわかりやすいんですよ。幻想として女の子はああいう子がいいんだろうなとあきらめがつく。でも星野源さんはリアルな世界にいる感じなのに、決して辿り着けないところにいる……。今、初めて気づきましたけど、僕、星野源さんにちょっと嫉妬してますね。悔しいって思ってるのかもしれない(笑)。
紫原 男たちの星野源問題だ(笑)。
自分の道を突き進む男性のほうが生きやすい
紫原 星野源さん自身はどういうふうに思ってるんでしょうね。今、こんなふうに世間から支持されている現状について。
白岩 うーん、ご本人がどう思われているかはわからないですけど、男らしさをどのように考えているのかは気になりますね。
紫原 男らしさとどう向き合ってるんだろう。
白岩 結構男らしい感じもしますよね。自分が決めたことをやり通して、たしか文章も、自分で書きたいから一生懸命書き続けたとか。俳優と音楽と両方やられているのもそうだし、周りに屈しない強さがあると思う。歌番組に出たときに「こんばんは、星野源です」って自己紹介されるじゃないですか。ああいう、すかしたりせずに、自分からまず開くところも偉いなと思う。
紫原 白岩さん、やっぱり嫉妬されてますよね?笑
白岩 うーん、羨ましいんでしょうね、単純に。ハイブリッドというか、両方のいいところを合わせ持ってるように見えます。マッチョマッチョしてるわけでもないし、かといってナヨナヨしているわけでもない。そのバランスが絶妙というか。今、奥さんから「最近すごく星野源が好きで」と言われたら複雑な気持ちになるかもしれません(笑)。
紫原 周りを気にせず、「こういうふうにしか生きられない」と自分を受け入れることに、今後の希望が見えるかもしれませんね。
男の見栄、女の承認欲求の記事をもっと読む
男の見栄、女の承認欲求
20代の頃の恋愛はきつかった。そう語る作家の白岩玄さん(新刊『世界のすべてのさよなら』)と、『家族無計画』の著者で現在 15歳と11歳の子を持つ働くシングルマザー紫原明子さんが語る男と女、結婚、夫婦、モテ……と、そのほかのあれこれ。