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情熱大陸への執拗な情熱

2017.07.19 公開 ポスト

『情熱大陸への執拗な情熱』出版記念対談企画 第2回

AR三兄弟・川田十夢が語る「情熱大陸」密着の舞台裏
宮川サトシ(漫画家)

人気サイト「オモコロ」で100万PVを達成したコミックエッセイ『情熱大陸への執拗な情熱』が待望の書籍化! TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」へは、どうやったら出られるのか。上陸(出演)人のAR三兄弟・川田十夢に極意を聞きに行く特別対談企画の第2回。

→第1回はこちら


(ナレーション)宮川サトシは憧れの上陸人・川田十夢との対談に酔いしれていた。そして自分がやってきた『情熱大陸への執拗な情熱』の方向性は間違っていなかったということを、うれしく感じていた。そうした思いを噛み締めながら、長い時間をかけて準備してきた質問を次々に投げかけていく。「俺も“情熱カメラ”を振り向かせたい!」という強い思いを心に秘めながら……。


■上陸人は「ホンモノ」ばかりだった

川田 僕ね、情熱大陸で好きなのは、綾野剛さんの回の「釘のくだり」ですね。

宮川 僕もですね~。

川田 あれ、やっぱベストヒットに入るよね?

宮川 地元の裏山で撮影していて、子どもの頃に綾野さんが大木に刺した釘が残ってるのを偶然見つけて、「……でももう抜いてあげなきゃね…」ってめちゃくちゃ入り込んでる。これは『情熱大陸への執拗な情熱』にも描きましたけど、僕、綾野さんと地元が一緒で、彼が遊んでた裏山って俺も遊んでたところなんです。だからなんか……悔しいんですよね!

川田 執拗な情熱だねぇ(笑)。

宮川 プロデューサーの福岡(元啓)さんは釘が全然錆びてなかったんで「やらせじゃないか?」ってディレクターを問い詰めたらしいんですけど、ステンレス製の錆びない釘で本当に偶然あったんです、ということで放送したそうですね。

川田 いい回だなぁ。

宮川 最後、ディレクターが綾野さんにプレゼントするんですよ、釘の入ったボトルを。「ありがとう」ってカメラ目線で言うんです。あの回は面白いんですよ~、ホントに。

川田 ああいうところで突き抜ける人って、その後人気出るよね。

宮川 そうなんですよ。川田さんも突き抜けてましたけどね(笑)。ところで「自分が密着されるぞ」となったときに、別の人の回を見たりなど、予習はしましたか?

川田 情熱大陸は見てたし、印象に残ってた人もいたけど、特にそういうことはしなかったですね。この機会をうまくネタにしたいな、とは思いましたけど。それで予習ではないんだけど、僕が「TVBros.」で「魚にチクビはあるのだろうか?」という連載をしていて、その縁もあって、情熱大陸に出たことがある人に「どんな感じで臨めばいい感じに映るか?」を聞いてまわろう、という企画をやりました。それで猪子くん(猪子寿之、チームラボ代表)、さかなクン(魚類学者、タレント)、朝井リョウくん(作家)に話を聞きに行きました。

宮川 すごいメンバー! というか、この対談企画を先にやられてた!(笑)

川田 さかなクンは表裏がなくて、番組に出ることで自分の価値が上がるとかそういうことは一切考えてなかった。それで1時間くらい対談したんだけど、その後で「川田さん、ちょっと隣の部屋に来ませんか?」って呼ばれて、それから2時間水槽に付き合わされたんですよ(笑)。さかなクンの理解では、僕が「魚にチクビは~」って連載を持ってるから魚好きだと思ったらしくて、「魚にチクビ、あるんですよ~!」みたいな話を延々とされて。「この人、ホンモノだな!」って思いましたね(笑)。

宮川 それはホンモノだ(笑)。

川田 猪子くんはプライベートなんてほとんどないから、そんなの全然考えてないって言ってて、この人もホンモノだなって(笑)。朝井くんはやっぱ作家だから計算してて、密着期間をスタッフに聞いて、それであれば僕のスケジュールはこうで、これとこれに取材来てください、そうするとこういう構成になります、っていうのをエクセルにまとめて送ったって言ってました。だから撮られ方もいろいろあるんだなと思いましたね。でもどの人もやっぱりホンモノだな、こういう人が出るんだなって思ったし、情熱大陸という容れ物はあるけど、自分らしく振る舞うのが一番いいんだなって。

宮川 自分らしく振る舞うのが一番……めちゃめちゃいい話ですね。沁み入ります。

川田十夢氏の体験談に聞き入る、宮川サトシ氏

 

 

 

 

 

 

川田 情熱大陸のナレーションをやってる窪田等さんとも対談しましたよ。めちゃめちゃいい声だったなぁ。窪田さん、出演する人としゃべるの初めてだったのと、対談前にVTRで僕のこと見てたから親近感があったみたいで「なんでも言って」とおっしゃってくださったんで、いい声で「AR三兄弟」とか「冷やしトマト」って言ってもらいました(笑)。

宮川 いい声ですよねぇ。実は僕、漫画で窪田さんのペーパークラフトを作ったんですけど、思いっきりスベって……単行本には収録してもらえなかったんですよ。

川田 まあ声は知られてるけど、顔はあまり知られてないだろうからね(笑)。

情熱大陸の上陸人、AR三兄弟の長男・川田十夢氏

 

 

 

 

 

 

■『情熱大陸』に恥じないような仕事をしたい

川田 僕はカメラが6ヶ月着いて、番組の予算をかけてシステムを作ってたから、福岡さんと結構密に会話したんですよ。そうすると、やっぱり情熱大陸って“お墨付き”だから、変な人を認めちゃうと番組の格が落ちる。ポッと出のヤツを出しちゃうと、出ちゃった側も勘違いして、すごくないヤツもすごくなっちゃう。だから出る人を決める前に相当ジャッジメントしているんだな、と感じたんです。

宮川 福岡さんが書いた本『情熱の伝え方』にまったく同じことが載ってましたよ。

川田 ああ、やっぱりそうなんだ。だって番組に出るとね、明らかに世の中の扱いが変わっちゃうんですよ。でもそこで次のことをイメージできてない人は、集まった注目も、向けられたマイクもカメラも、どうしたらいいいのかわからないんだよね。あとは、お金も集まりますよ。今までやりたかったけどできなかったことも、できるようになる。僕の場合は提示される予算が、それまでよりも2ケタ上がりましたから。

宮川 2ケタですか!

川田 だから情熱大陸に出ることがゴールだと、次のことが浮かばないから、そういう人は選んじゃないけないなって思いますよ。その人がぶっ壊れちゃう。

宮川 ……はぁ(深い溜め息)。それ、今日一番聞きたかったことです!

川田 マジですか!(笑)

宮川 漫画の世界でも変なちっちゃい賞を獲って天狗になっちゃって、それ以降描かなくなっちゃう人がいるので、そういう魔力とか怖さもあるなって。

川田 だからどこにピークを持っていくか、ってことなんだと思うんですよ。僕は開発者だから、やっぱり作るものがバーンと世に出るところに、ピークを持っていきたい。だから、情熱大陸のカメラが向いてくれたのはありがたいけど、それはまあ始まりというかね。

宮川 ゴールではなく、始まりだと!

川田 そう思わないと申し訳ないなって思いますよ。せっかく選んでくれたわけですからね。だから、情熱大陸に恥じないような仕事をしたいなと思ってますよ。

宮川 ふぁ~……いいフレーズめちゃくちゃ出ますね! 想像以上で、ちょっと……いやぁすごいな。

川田 それは僕が出演前に猪子くんやさかなクンに感じた「ホンモノだ」っていう感覚と同じかもしれないね(笑)。

宮川 正直言うと、この本を出したことで、ちょっと大陸にタッチしたくらいのつもりになってしまったんです。達成感がすごすぎて、ちょっと無になってしまって。でも今回、川田さんにお会い出来ることになって、放送を見直したり、お話を聞いていたらムクムクムクッ!と、こう気持ちが盛り返してきていて……実は今走り出したい気持ちでいっぱいで、ちょっと汗ばんでます(笑)。

川田 あ、これちょっと聞こえは悪いかもしれないけど、一回、情熱大陸に出ると、知り合いが超出るね! 僕が出た後で、SCRAPの加藤隆生さん(ミュージシャン、リアル脱出ゲームの生みの親)、真鍋大度さん(メディアアーティスト、プログラマー、デザイナー、映像作家)、吉田ユニさん(アートディレクター)とか、『dancyu』編集長の植野広生さんはバーベキューを一緒にしたりしましたから。上陸前から知ってた人たちが、別に僕が紹介したわけじゃないけどゴロゴロと。それを見ると、同郷というか、ああ僕はもう「情熱側」になったんだなって思いますね。

宮川 ……てことは…………川田さんとお会いした僕は、情熱側に近づいているのか……(笑)。でも川田さんって、出演したこと自体を、普段あんまり言わないじゃないですか? 個人的に色々調べたら、自分が出た回のスクリーンショットをSNSの背景画像に設定している人とかも結構いて。でも川田さん、そういうのをしないんですよ。そこが大事っていうか。

川田 あはは。まあそんな美学もなくてね。講演で「どうも、情熱大陸に出てる方のクリエイター、川田十夢です」って言い方はするんですよ。そういうネタとしての入り方が弱くなっちゃうから、普段は言わないっていうだけで。やっぱり初速をどこで出すか、っていうことだね!

宮川 そこにそんなに固執してないよ、っていう感じ、カッコイイなぁ。自分ももし出られたら、絶対にSNSの背景画像には設定しないですね。そして「情熱大陸に出演したこと? そんなのはただの石ころだ」って言えるくらいのカッコよさが大事だなって。

川田 石ころ! いやあ宮川くん、今カッコイイこと言っちゃったね、はからずも(笑)。あ、でも高円寺で飲んでたら、サインしてくださいって言われたことはありましたよ。

宮川 おおおーーーっ! 「情熱大陸に出てた人ですよね?」って感じで?

川田 そう。ビール頼んだら餃子が出てくる謎の店があって、そこで飲んでたら声かけられました、お客さんに。でもね、それはハッキリ言って「当て」に行きました!

宮川 あはははは!

川田 放送の3日後くらいに高円寺いたらカッコイイんじゃないかな~、って。「ホントに通りすがってるんですね!」みたいな(笑)。

宮川 しかも狙って引きましたからねぇ。

川田 あれはでもホントうれしかった!

 

<構成:成田全>

※第3回は7月26日に公開予定です。

→第1回はこちら

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川田十夢(かわだ・とむ)
1976年生まれ。開発者、通りすがりの天才。AR三兄弟、公私ともに長男。毎週金曜日22時からJ-WAVE『INNOVATION WORLD』放送中、TVBros.で『魚にチクビはあるのだろうか?』WIREDで『WAY PASSED FUTURE(とっくの未来)』を連載。

関連書籍

宮川サトシ『情熱大陸への執拗な情熱』

「このシリーズマジでおもしろすぎる」――ぼくのりりっくのぼうよみ(アーティスト) 「感動のラストだった……」――はあちゅう(作家・ブロガー) 人気サイト「オモコロ」で100万PVを達成した、爆笑コミックエッセイ! もし、ドラゴンボールが7つ揃ったら、僕は神龍に土下座してこう頼むだろう。巨万の富や永遠の命、そんなつまらないものではなく、TBS系列局で毎週放送されている人間密着ドキュメンタリー番組、あの「情熱大陸」に自分を出させてくださいと――(冒頭より)。情熱大陸に執拗な情熱を燃やし、いつ出演オファーがきてもいいように、日々「情熱大陸」っぽい生活を送る漫画家・宮川サトシ。情熱大陸に出演することを「上陸」とよび、お酒はアサヒビールのスーパードライ(番組スポンサー)しか飲まず、情熱大陸っぽい食事を「大陸メシ」と表現する、かつてない爆笑偏愛漫画。

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情熱大陸への執拗な情熱

「このシリーズマジでおもしろすぎる」
――ぼくのりりっくのぼうよみ(ラッパー)
「感動のラストだった……」
――はあちゅう(作家・ブロガー)

TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」への出演を夢見て、いつオファーが来てもいいように「情熱大陸っぽい」生活を送る漫画家・宮川サトシ。その偏愛に満ちた日常を描いたコミックエッセイが、6月22日に待望の書籍化。幻冬舎plusではその爆笑必至の第一話を大公開します!

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宮川サトシ 漫画家

1978年生まれ。エッセイ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(新潮社)が、累計500万PVを突破し話題を呼ぶ。現在はWEB漫画サイト・くらげバンチにて『宇宙戦艦ティラミス(原作)』を連載中。

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