◯『プラージュ』誉田哲也(Amazon)
◯「連続ドラマW プラージュ 〜訳ありばかりのシェアハウス〜」
8月12日(土)スタート 毎週土曜 夜10:00よりWOWOWプライムにて放送(全5話)[第1話無料]
そんなことを考えていると、ふいにひらりと、一つ向こうの出入り口でカーテンが揺れた。
そこから出てきたのは、まず、ノースリーブの肩だった。
細く、白い腕。続いて、大きくウェーブした栗色の長い髪。その長い髪でも隠し果(おお)せないほど、大きく背中の開いたワンピース。出たところで軽やかにターンすると、生地の薄い裾がふわりと広がり、腰から下のシルエットが、向こうの窓から射し込む明かりで浮き上がり、淡い影となって映った。
夏の、貴婦人──。まだ四月で春だけど、でも、彼女の纏(まと)っている空気は、間違いなく夏だった。
「ああ、シオリさん。いたの」
そのジュンコのひと声で、彼女がこっちを振り返る。
「あら……新入りさん?」
さらりと乾いた、高い声だった。そのまま風に運ばれるように、素足の彼女が、ワルツのステップで近づいてくる。
貴生は、なぜか固まってしまった。挨拶(あいさつ)も、会釈(えしゃく)程度のお辞儀すらもできなかった。
せまい廊下を進んできた彼女は、貴生の肩に軽く触れ、耳元に口を寄せてきた。古い映画を観ているようだった。でも続く場面が思い出せない。次に彼女は何をするのか。どんな台詞(せりふ)を聞かせてくれるのか──。
「可愛い新入りさんね……」
吐息が甘く、バラのように香る。
「いいこと、教えてあげる……ここって、夜這(よば)いし放題なのよ」
「ちょっと、シオリさん」
そんなジュンコの声など、貴生の耳にはまるで入らなかった。
もう、ここしかないと思った。
壁紙の白が、バラ色に染まって見えた。
※物語の続きは『プラージュ』(誉田哲也)で、連続ドラマW「プラージュ 〜訳ありばかりのシェアハウス〜」と合わせてお楽しみください。
誉田哲也『プラージュ』
仕事も恋愛も上手くいかない冴えないサラリーマンの貴生。気晴らしに出掛けた店で、勧められるままに覚醒剤を使用し、逮捕される。仕事も友達も住む場所も一瞬にして失った貴生が見つけたのは、「家賃5万円、掃除交代制、仕切りはカーテンのみ、ただし美味しい食事付き」のシェアハウスだった。だが、住人達はなんだか訳ありばかりのようで……。